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【R18】永遠の三日月

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恋愛よりもキスよりも、セックスは簡単だ。セックスには愛なんて必要ない。ない方が気持ちいいに決まっている。愛なんて、人生の苦さをごまかすためのシュガーコーティングに過ぎないのだ。
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【あとがき】  永遠の三日月 〜Yへ

お読みいただきありがとうございます。 こうさかみかんと申します。 ある冬の朝、何気なく見ていた新聞のテレビ欄に、その日から始まる新作アニメの紹介が載っていた。 シリーズ監督にはYの名前。 Yは専門学校時代のクラスメイトだ。 驚きとうれしさと懐かしさと誇らしさと嫉妬。 わたしは制作会社の番号を調べると、Yに電話をかけた。 これが、この作品のきっかけです。 わたしが嫉妬していたのは、Yの恋人でも妻でもなく、彼自身でした。 才能と情熱という、わたしが持ち合わせなかったふたつを持

【R18】  永遠の三日月 ⑥ end

⑤はこちら  良太の車は赤いミラージュだった。  運転席に座ると、すぐにネクタイを外してポケットに入れた。それからシャツのボタンをひとつ外すと言った。 「どうもスーツはダメだな。着慣れてないから」  リアシートにはキルティングのカバーが掛けられていて、スナック菓子のかけらが散らばっていた。彼の妻と子供が、自分たちの存在を主張しているかのようだった。  彼の娘は今年小学生になったはずだ。 「仕事あるの?」  もしかしたら本当に送っていくだけのつもりかもしれない。 「

【R18】  永遠の三日月 ⑤

④はこちら Ⅲ. 三日月夜 ✻街路に出たとき、人々を見て最初に頭に浮かぶ言葉は「皆殺し」である。             E・M・シオラン  洋輔が死んだと聞かされたのは、学生時代の友達からの電話だった。  学校を卒業して以来、洋輔には会っていない。会いたいとも思わなかったし、会う必要もなかったから。 「お通夜出るよね。夏っちゃん、昔付き合ってたんだし」  電話の相手は、断定的な口調でそう言った。  洋輔と付き合っていたのはもう十年も前の話だ。今さらそんな話を持ち出

【R18】  永遠の三日月 ④

③はこちら  良太が入ってくると、泣きたいほどの歓喜がわたしを包んだ。  やはり彼は他の男と違う。どこが違うのかわからないけれど、確かにすべてが違うのだ。  洋輔の時と同じように、わたしはもう日野さんとは寝られなくなるだろう。  それでも構わない。良太が今ここに居てくれるなら。  しばらく正常位で動いた後で、彼は仰向けに寝た自分の上に、わたしを後ろ向きに座らせた。  “背面騎乗位” とでも言うのだろうか。こんな体位は初めてだ。 「バックは痛いんだっけ?」 「うん。でも、

【R18】  永遠の三日月 ③

②はこちら Ⅱ. セカンドバージン ✻幸福であるだけでは十分ではない。 他人が不幸でなければならない。       ジュール・ルナール「日記」  スタジオの電話が鳴った。 「はい、スタジオケイオスです」 「おはようございます。大河プロダクションですけど、『ライオンオー』の担当の方お願いします」  聞き覚えのある声だと思った。 「お名前、よろしいですか?」 「演出の朝日奈です」  やっぱり。  胃の辺りがギュッと締め付けられたようになった。 「朝日奈くん」 「は

【R18】  永遠の三日月 ②

①はこちら  高校三年の一月から、半年ほど付き合った男が居た。信一というサラリーマン。わたしよりも八つ年上だった。  学年末試験の前日にひとりで映画を観に行ったわたしは、池袋の文芸坐でナンパされた。  お茶も飲まずにそのまま江古田にある彼のアパートに直行して、セックスをした。  そうすることに、なんのためらいも感じなかった。  初めてセックスしたのは高三の七月だった。相手はひとつ年上の大学生。  新宿の丸井の前でナンパされた。テレビ番組の話ばかりする、つまらない男だった。

【R18】  永遠の三日月 ①

Ⅰ.ファーストネーム ✻自由には常に多くの危険がつきまとう。 とらわれの身には、自由になるというたった一つの危険しかない。              ギダ・ベリン 「夏実って結構いい身体してんだな。服の上からじゃわからなかったよ」  朝日奈くんが言った。  ベッドに腹ばいになっている。そのまま手を伸ばして、床に落ちているジーンズのポケットからタバコとライターを取り出した。  彼のタバコはキャビンマイルドだった。若い男でもこんなの吸うんだ。  わたしにとってそのタバコのイ