99right

『部品メーカー残酷物語』©️99right を書いています。どなたか出版してくださる方を…

99right

『部品メーカー残酷物語』©️99right を書いています。どなたか出版してくださる方を探しています。難しければ自分でKindleで販売します。

マガジン

  • 部品メーカー残酷物語

最近の記事

『部品メーカー残酷物語』第十六話

第十六話「セールス実習 その6『心の一番外の壁……』」  三日目から私は初日と同様それなりに化粧をしてジャケットにスカートとミドルヒールに身を包み、黒いビニールのバッグを持って本社営業所に出社した。  チビヤクザ所長にチロっと作り笑いの挨拶すると、彼は何となく満足したようで目が「まあOKだ」と言っている。次に私は後堂さんと軽く打ち合わせをしてすぐに「行ってきます」と言いあの重いセールスカバンを持って部屋を出て展示室の方へ移った。ちなみにチビヤクザは私がこのまま外回りに出たと

    • 『部品メーカー残酷物語』第十五話

      第十五話「セールス実習 その5『効率こそ命!』」  セールス実習初日の失敗から学んだ私だったが、取り敢えず最初の二週間は全力で行くと決めた。そのためには少々準備が必要だった。  もう化粧は止め。  土日祝日など顧客が営業所に集まる日は別として、外回りに出る時は薄化粧にさっと明るいリップを刺す程度に止める。スカートを履くの止めて入社面接の時のスラックス。靴は底の広いペタペタのパンプス。これも次の休みにもっと歩きやすいスニーカーを買ってくるつもりだ。支給してもらったセールスカバ

      • 『部品メーカー残酷物語』第十四話

        第十四話「セールス実習 その4『ハイヒールで三時間……(^_^;)』」  後堂さんの車で営業所まで戻ってくると、私は自分の鞄を取りにオフィスに行き自分の席に向かった。 「竜胆(りんどう)さん!」 「? はい」  ちょっと高めの可愛い声で私に話し掛けてくれたのは、二人いる事務員のうちの若い方の女性だった。  後で分かったことだが、彼女が卒業した短大が私の実家とさほど離れていなかったこともあり、彼女とはすぐに打ち解けることができた。薄化粧に少しソバカスが残る彼女のことを、こ

        • 『部品メーカー残酷物語』第十三話 99right

          第十三話「セールス実習 その3『まずは喫茶店でお茶!』」  後堂さんは振り向きもせずに、その大きな体からは想像も出来ないほどの早足でオフィスを後にした。私は自分のカバンを持って後堂さんの後を追おうとしたが、後堂さんは手を振って制止した。 「カバン……いらない」 「あーっ……はい」  駐車場に入って白いセダンのところまで行くと、後堂さんは私に助手席に座るように促した。 「えっと……後堂……さん」 「うん?」 「これから……どちらへ?」 「いいから、いいから」  5分も走らな

        『部品メーカー残酷物語』第十六話

        マガジン

        • 部品メーカー残酷物語
          0本

        記事

          『部品メーカー残酷物語』第十二話 99right

          第十二話「セールス実習 その2『営業所のチビヤクザとゴリラ』」  私が配属されたのはその県内に十社ほどある〇〇自動車の販売店のさらにその本社営業所だった。大きなマンションの一階が広い展示室になっていて常時三台の展示車両が並べられていた。この系列の販売店は〇〇自動車の中でも最も廉価な価格帯のファミリーカーをメインに扱っていたが、同時に最高級スポーツカーの販売店でもあった。  出社当日、早起きして電車を乗り継ぎ午前八時前に営業所に辿り着いた。通された会議室には、この日から同じこ

          『部品メーカー残酷物語』第十二話 99right

          『部品メーカー残酷物語』第十一話 ©99right

          第十一話「セールス実習 その1『セールスレジェンド達』」  〇〇自動車の新入社員にとって決して逃れられない実習がいくつかあるが、その一つが「セールス実習」だ。  セールス実習とは、〇〇自動車が自社の販売店の各営業所に数名づつの新入社員を送り込んで、三ヶ月間プロのセールスマンに混じって自動車の販売業務を学ばせることである。  ここでポイントは、否応に関わらずほぼ全てのセールス実習生が、配属される〇〇自動車の販売店において車を購入させられることである。  先に新入社員の初任給に

          『部品メーカー残酷物語』第十一話 ©99right

          『部品メーカー残酷物語』第十話 ©99right

          第十話「どいつもこいつも……」  大柄筋肉ジャージ野郎の研修が終わった後、私たち同期生は誰も口を聞かなかった。みんな黙ったまま宿舎に戻り、食事を摂り、風呂に入って寝た。  当然だろう、講師の指示だったとは言え、私たちはあれほど酷い言葉でお互いを罵りあったのだから。私たち新入社員はわずか数日前に出会ったばっかりだった。けれど入社してから何度も一緒に食事をし、話し合い、互いを知り、近い将来一緒に仕事をすることを想定し、短い間ながらもそれなりに友情らしきものを育てて来た。それを奴

          『部品メーカー残酷物語』第十話 ©99right

          『部品メーカー残酷物語』第九話 ©99right

          第九話「研修の目的ってのは」  研修は大きく分けて二種類あった。  一つは、社内の各部署の代表が来て、会社の中での担当業務やその部門の社員数、売り上げ規模や業績の推移などを説明してくれた。  残りの一つは、新入社員の研修を専門に行う社外企業による私達への教育であった。  数年後に知ったことだが、この時代、新入社員の教育研修を専門とする会社が随分とモテはやされていたのだと言う。当社も他企業と違わず、教育の専門家と呼ばれる怪しい風体の三人をこの新人研修の専門講師として招き入れ

          『部品メーカー残酷物語』第九話 ©99right

          『部品メーカー残酷物語』第八話 ©99right

          第八話「1時間前行動」  この日、私はタコ部屋の誰よりも早く起きなくてならなかった。マッチョ係長から指定された集合時間が朝7時だったからだ。  当時この会社の始業時間は8時だったので、富江達同部屋の連中はおおかた朝7時に起床する。着替えて朝食を摂り、8時に現場に行くのには一時間もあれば十分だからだ。  この頃、私達新入社員は人事部の指揮下に入っていた。一部私のようなデザイナーという専門職の人間を除いて、残りの全員がまだ配属先は決まっていない。つまり私達の上司はマッチョ係長だ

          『部品メーカー残酷物語』第八話 ©99right

          『部品メーカー残酷物語』第七話 ©99right

          第七話「初任給」  私は、富江のその短い手紙を読んで実にいろんな事を考えた。  高校を卒業し集団就職で地元を離れてこの会社のタコ部屋寮に放り込まれた彼らの日々は薄幸だったのではないだろうか。  毎朝7時に起こされ、眠い目を擦りながら食堂でさほど美味しくもない朝食を摂る。作業着に着替えて工場に出勤。油塗れになりながら午前四時間、午後四時間の仕事をこなす。当時は毎日二時間程度の残業は当たり前なので一日十時間労働だ。ちなみに工場は二十四時間稼働の三交代制だから、三ヶ月に一回、一

          『部品メーカー残酷物語』第七話 ©99right

          『部品メーカー残酷物語』第六話 ©99right

          第六話「千切ったノートには……」  私の歓迎会だと言われたので、てっきり富江達が支払ってくれるものだと勝手に思い込んでいた。その上つい数時間前に二万円ほどの現金を財布から抜かれた私に請求された五万円を支払う能力はない。それに当時の日本にはクレジットカードと言う便利なものは普及していなかった。  入社式が行われた丁度この日、給料の振込先として○海銀行の担当者が来て新入社員全員が口座を作らされた。その時銀行の担当者は私達に口座開設と同時にクレジットカードを作らせようとしたが全

          『部品メーカー残酷物語』第六話 ©99right

          『部品メーカー残酷物語』第五話 ©99right

          第五話「やられた……」  富江に連れられてやって来たのは小さなスナックだった。  私が歓迎会とやらに参加することを了承すると、富江は食堂にいた若い社員達に声を掛け、すぐに数名のメンバーを集めた。  会社の正門を出て右に曲がると古く鄙びた商店街で、寂れた飲食店や金物屋、和菓子屋、鰻屋の前を通り過ぎて数十メートル進むと左手に数軒の飲食店が連なっている長屋のような作りの建物があった。富江はその中の一つ、派手な色をした扉を開いて仲間と一緒に談笑しながら入って行った。  私は正直

          『部品メーカー残酷物語』第五話 ©99right

          『部品メーカー残酷物語』第四話 ©99right

          第四話「お前か!?(怒)」  財布が無い事に気付いた私はタコ部屋の中を探しまくったが見つからない。同居人達の閉じたカーテンを開いて中の狭いプライベイト空間を覗く勇気は来たばかりの新人には無い。仕方なく廊下を歩いて寮長室に向かった。途中、廊下にあったゴミ箱を漁って見たが見つからない。  寮長室で私は、ついさっき発生した盗難について説明したが、大魔王は全く取り合ってくれない。「取られた奴が悪い」とも言った。  残念ながら私にも非は多々あった。  タコ部屋の入り口辺りには一応鍵

          『部品メーカー残酷物語』第四話 ©99right

          『部品メーカー残酷物語』第三話 ©99right

          第三話「……無い」  折角「寮」の話になったので、華やかなバブル景気が過ぎ去った後の198X年に日本自動車業界でも最上位にいる○○自動車を筆頭にする○○グループの中の一社である当社の女子寮がどんな状況だったかと言うことを思い出しながら少し書いてみたい。  この会社に入社すること。とりあえず最初は寮に入ること。それらはすべて自分自身で決めた。誰かから無理強いされたわけではないが、人事部からはそれなりの勧誘があったことも確かだ。「入社当初は給与も少ないから地方出身者ならとりあ

          『部品メーカー残酷物語』第三話 ©99right

          『部品メーカー残酷物語』第二話 ©︎99right

          第二話「今時タコ部屋?」  本社は○知県□谷市の駅から歩いて5分程度の距離にあり、正門を入ると目の前には数年前に建てられたばかりの巨大で立派な社屋が立っていた。入社案内などの正式書類にはその写真が使われていて、入社試験を受けたのも、役員面接もそこで行われたのでこっちとしてはこの会社の全ての社屋がこの様な立派な作りだと勝手に思っていた。  ところが入社式は別の結構な年季の入った木造モルタル塗りの建屋でちょっと広めの会議室だった。聞くとそこが本社屋なのだと言う。ではそれまで本社

          『部品メーカー残酷物語』第二話 ©︎99right

          『部品メーカー残酷物語』第一話 ©︎99right

          第一話「なんで私が、欧州駐在事務所初代所長なんですか?」  最初に断っておくが、このnoteの記事は私と言う人間を知ってもらうために、多少の演出と脚色をお許しいただきたい。またなるべく時系列通り書きたいがたまには記憶違いで時間の前後がある場合は何分寛大なお心でご了承願う。  今だから理解できるのだが、私は基本的に会社という組織の中で生きていくには全く向いていない星の元に生まれていたが、若い頃はそれに気付かずなんとか私も皆と一緒に会社という歪な世界で自分の生きる場所を築こう

          『部品メーカー残酷物語』第一話 ©︎99right