怪談イベント『怪涼重畳』(2023.8.9)レポート
2023年8月9日。
京都創造ガレージにて開催された怪談イベント『怪涼重畳』今回はその様子について写真と感想を交えながらお伝えしたい。
まずは会場となった「京都創造ガレージ」について。
京都を代表するビジネス街のある烏丸駅から徒歩7分の場所にあり、普段はレンタルスタジオ&貸スペースとして利用可能な場所だ。
様々なメディアでも紹介されているこの場所で、今回は「怪談」と「涼」をテーマとして空間と映像をフル活用したイベントがApsu Shusei氏立案により『怪涼重畳』という形で実現した。
「アート」と「怪談」が交錯しどんな世界を見せたのか?
出演者としてステージに立った筆者が順を追ってレポートする。
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イベント当日。
筆者が会場へ到着したのがちょうど日が沈み始めた頃だったのだが、まず驚かされたのはその外観だ。
ダイナミックな植栽と「創」という一文字がデザインされた暖簾が出迎えてくれる。
京の夕暮れと馴染み洗練された空気感を醸し出しており、高級料亭かと見間違ったほどだった。
入口を抜けるとエントランスがあり、正面にはメイン会場のある地下1階から連なる高い天井、映像コンテンツを映すための広い壁が広がっている。
メインフロアへ降りてみると、奥行のある空間に九つの枠に沿って水の貼られた「水景」が設けられていた。
その水景の最奥に作られた畳敷きのステージに一人ずつ演者が登壇し、怪談を披露するスタイルだ。
高い壁には森や水中、洞窟など様々な映像が映し出され、演者と客席を異空間へ誘う。
吊り下げられた「つらら」から水が滴り落ちるたびに、広い空間に水音が響いている。
通常のライブハウスや小さな貸しスペースで行う怪談会も良いものだが、それら怪談イベントとは一線を画す演出に出演者としても期待が膨らんでいく。
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この日集った怪談師は七人。
Apsu Shusei氏により集められたメンバーで、昼夜二部構成となった。
Apsu Shusei氏と田中俊行氏、二人登壇の【陽ノ刻】についてはスケジュールの都合上観覧することは出来なかったが、いくつか写真を提供してもらえたので紹介する。
第一部【陽ノ刻】
・Apsu Shusei
・田中 俊行
過去に数多の怪談イベントやメディアで活躍してきた両名である。クロストーク形式で進む怪談会は、両者が醸し出す独特の雰囲気で静かに熱を帯びていく。そんな中で互いに掛け合いながら多くの怪談が披露された。
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大盛況の一部に続き、夜の帳が降りた第二部は関西を中心に活躍している多数のメンバーで構成された怪談会となった。
第二部【陰ノ刻】
・Apsu Shusei
・河野隼也
・深津さくら
・クダマツヒロシ
・ワダ
・ウエダコウジ
全員が登壇し簡単な自己紹介の後、一人ずつステージへ上がる。
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一人目はApsu Shusei氏。
息遣いや間、客席への視線。
Apsu氏の霧のような語りはいつのまにか聞き手の全身を湿らせ、気づいた頃には観客は既に幻想世界へ誘われている。
昭和時代の暗部に触れるようなエピソードで、物語の終盤には現代のとある都市伝説にも繋がるような思いもよらない展開を見せる。
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二人目は河野 隼也氏。
「妖怪」という存在について確かな知識のもと観客へ紹介しつつ、江戸時代から現代へ、歴史を紐解きながら時代背景を自在に切り替えて怪談語りとして聞かせるスタイルは唯一無二。怖さという点においても一級品。
妖怪に纏わる怪異について圧倒的熱量で語る。
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三人目の登壇者は深津さくらさん。
今回のイベントにおいて筆者が最も空間との親和性を感じた出演者だ。
本来の透き通るような声質が水面と高天井で反響し、より直接的に脳に浸透する感覚。
また通常よりテンポを落として深く語りかけることで「深津さくら」という語り手の魅力を最大限に発揮させていたように思える。
不可思議なエピソードを余すところなく観客へ届けていた。
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四人目は筆者であるクダマツヒロシ。
水景のある場所で怪談を語る機会は滅多にないため、水に映る景色に纏わる「逆さ富士」というエピソードを披露させて頂いた。
ステージに上がると客席との距離感もひと際近くなり一人一人の表情がはっきりと見える。そんな客席の表情を見ていると、語りの最中、自然に熱を帯びていく感覚が分かった。
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五人目の語り手はワダ氏。
ワダ氏の語る怪談は一言でいえばアヴァンギャルドである。筆者自身彼のファンであり、イベントで一緒になるたび心躍らせている。この日もワダ氏の持つ怪談の中でも代表の一つとされるエピソードを披露してくれた。
『怪談とは可能性を楽しむ物語』なのだと彼の語りを聞くたびに強く感じる。
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六人目はウエダ コウジ氏。
関西圏で活動し俳優としても確かな実績を持つ。穏やかな口調で客席まで淀みなくダイレクトに届かせる語りが魅力だ。鬼気迫る場面ではしっかりと観客を巻き込みながら熱を上げていく。今回は「恐怖」という点より温かみのある京都に纏わる怪異譚を披露していた。
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一巡目を終えて十分ほどの休憩に入る。
二巡目は特に順番は決めずに各々好きなタイミングで怪談を披露することとなった。
休憩前の熱量のまま、各々が怪談を重ねていくのだが、そこは数多くの怪談会に出演している演者たちだ。
まるでインプロヴィゼーション(即興音楽)のように、前のエピソードに呼応して次の演者が新たな怪談を放っていく。
お互いの怪談に影響を受け自然と空間は熱を帯びていく。これらはしばしば「グルーヴ感」と表現される。「怪談」が波紋を広げる様に次から次へ重ねられ、その波紋は次第に渦となり会場全体を飲みこんでしまう。
イベント最後の語り手となったApsu氏。
ステージから移動しながら空間を大きく使って観客へ「ベネズエラの怪談」を語りかける。静かなトーンで語られる遠い異国の地の物語は静謐ささえ感じられる。
怪談を披露し終えると、会場からは大きな拍手が送られ、熱の冷めぬままイベントは終了となった。
最後に
怪談とアート。
終わってみれば今回の『怪涼重畳』というイベントでは、まさにこの二つの異なる要素が交わり、極めて高い水準で効果的に機能していたように感じる。
語りを主軸とした怪談イベントではあるのだが、従来型の視覚と聴覚だけではなく、五感にダイレクトに訴える「体感型」のアートイベントでもあったように思う。
観客のみならず演者陣の熱量も相乗して上がり、グルーヴを生み出したことが何よりの証拠だろう。
今回は来場チケットのみで配信はなかったが、今後同イベントが開催されるのであれば是非イベントの配信を行い、遠方の怪談ファンにも体感して頂きたい。
了
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