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飛行少女

空を飛んだあの子は非行少女

繰り返された罪は貴女の心を埋めてくれましたか
並べられた傷は貴女の心を満たしてくれましたか

「愛されたい」

いつから私たちはそう嘆くようになったのでしょう

お互い
「似た者同士ね」
と自嘲気味に笑って
少ない所持金を溶かした薬で
あやふやになる視界
頼りない足取りで
進んだ先もまた確証などない頼りない世界でした

哀を含んだ瞳で悪戯げに笑う貴女が盗んだ赤いリップは今日も闇の中に溶けていきました

「もうやになっちゃった」

向日葵が俯いた頃
そんなことを言いながらも貴女はやっぱり笑っていたのに
あの日初めて貴女がわからなくなったのは藍の空のせいでしょうか


それから2ヶ月後、あの子は空を舞いました
神様は最期に白い天使の羽をあの子に与えたようでした
あの子の痩せた体にはそれで十分だったはずなのに、天使の羽は儚く折れたようでした

「愛がない分軽いはずなんだけどなぁ」

貴女の声が聞こえた気がして振り返りました
そこには立ち入り禁止のテープがあっただけでした

ねぇ、私、貴女を愛していたよ
と言ってももう遅くて
届かなかったのなら、それはただのつもりだったのでしょうか
声にならない声が足元に零れていきました
冷たくなった風が零れた声を遠くへ飛ばし、代わりに銀木犀の甘ったるい香りを連れてきました
愛を告げた口もまた甘ったるくて、持っていたココアを地面にぶちまけました
跳ねたココアが靴下にシミを作りました
貴女の赤いそれもこうして跳ねたのですか

忘れないで

そんな思いで飛び散ったのでしょうか

赤く染まった銀木犀
涙はきっと透明に染めたのでしょう

あぁ、
銀木犀の薄い絨毯はあの子を守ってはくれなかった

なんて、どこまでも他責的な私は泣いていました


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