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【インタビュー】繊細な糸が紡ぐカタチ。タティングレース作家・Hapa.acceさんの指先から生まれる物語

ピアス穴が空いていない私は、耳につけるアクセサリーをほとんど持っていない。
イヤリングも可愛いデザインのものがあるけれど、重くてすぐ耳たぶが痛くなり、気づくと片方だけ失くしてしまっていることもしばしば。着席のコンサートや舞台を観に行く時くらいしか出番がなかった。

しかしそれは、一目見た瞬間に「耳につけたい」と思った。

わくわくしながら箱を開けると…
ホワイトとゴールドの組み合わせが素敵すぎる…!

『タティングレース』と呼ばれる、細い糸で形作られた華のモチーフ。素人目で見る限りでも、途方もなく細かい作業に思える。
可憐でピュアなカラーと繊細な手仕事に心惹かれ、私は作者のHapa.acceさん(以下、はぱさん)にものづくりの源泉について伺ってみたい衝動に駆られた。

歯科の栄養士として働きながら3人のお子さんを育てる母でもあり、目まぐるしく過ぎていく日々の中でコツコツと作品を作り出しているはぱさん。
目標に向かって進んでいく原動力には、過去に経験した挫折があったという。

初めは作って満足していたけれど、挫折や病気をきっかけに情熱が増していった。

提供:Hapa.acce

ータティングレースを作り始めたきっかけは何だったのでしょうか。

(はぱ)子育ての合間に、気分転換で立ち寄っていた手芸屋さんで目にしたことです。
もともと、祖母の影響で昔から編み物が好きでした。鍵編みでも可愛い編み目は作れるけれど、それとは全然違うモチーフに惹かれたんです。

ーたしかに、タティングレースは毛糸を使った編み物より、さらに細かく複雑な編み目が特徴ですね。

(はぱ)はい、華やかで美しいなと思って。自分も作ってみたくなって、器具を買い揃えて編んでみたんですが、編み目が綺麗に並ばないんです。
ようやく1個、いびつなモチーフができたけれど……全然上手く編めないことが悔しくて、家事や育児の合間に練習しました(笑)
しばらくして本に載っているモチーフが色々と作れるようになってきたら、糸の色を変えてみたりアレンジができるようになって、子供たちの髪留めに使うモチーフを作っていましたね。

徐々に長いモチーフを編めるようになっていった頃、友人の結婚式にタティングレースを施したアルバムを作ってプレゼントすることができました。

ー素敵なエピソード……!上達していく感じ、楽しいですよね。
その後すぐ、ハンドメイドブランドとして販売を始めたんですか?

(はぱ)いいえ、まだ作って満足、プレゼントしてそのままって感じでしたね。
販売をしてみたいなと思ったきっかけは、クラフト市でタティングレースを使ったアクセサリーを販売している人を見て、いろんな人に魅力を感じてもらえたら素敵だなと思ったことです。自分もできたらいいなと。

ー実際にハンドメイドをお仕事にしている方を見て、刺激を受けていたんですね。

(はぱ)でも、本格的に作家活動を始めたのはじつは去年で……9〜10年くらい空いてますね。

ーえ、そうなんですか?ギャラリーの品揃えや作品のクオリティを拝見していて、てっきりもう何年も作家さんをされていたのかと……。

(はぱ)クラフト市などのイベントに少しずつ行く機会が増えていって、時間をかけてどんどん気持ちが盛り上がっていった感じです。ミシンも好きなのでポーチなどの布小物も作っていたけれど、やっぱりアクセサリーが作りたいなと思って。
納得できるようなクオリティのものが作れなかった挫折を経て、この一年で情熱が増しましたね。

あと、一年くらい前にコロナになってしまったことも大きかったかもしれないです。家族で一人だけ重症で、動けない期間があったんですよ。このままじゃ死ねない、後悔したくないと本気で思いました。健康へのありがたみが増したと同時に、やりたいことをやって後悔しない人生を送ろうと思って。良くなってきたタイミングで、副業としてタティングレース作家をスタートさせました。

ーお仕事や子育てと並行して制作をするのは体力的にも精神的にも大変なことが多いと思いますが……はぱさんの情熱の裏には、後悔したくないという思いと挫折があったんですね。

(はぱ)そうですね、自分の中ではとてもインパクトのある出来事でした。

午後の日差しのような、あたたかみのある色や癒しがテーマ。

提供:Hapa.acce

ーご自身の作品ならではのこだわり、テーマのようなものはありますか。

(はぱ)晴れた日の午後に、お部屋で過ごす時間が大好きなんです。差し込む日差しで部屋があったかくなっている感じが心地良くて。
あたたかみのある色や空間、癒しを作品を通して伝えることができないか、というのは常にテーマとして頭の中にありますね。
ギャラリーはもちろん、Instagramに載せている写真も、日差しや温度を感じるものを意識しています。

ーはぱさんの作品は優しい暖色系のカラーが多いですね。お写真も穏やかな春の木漏れ日のようなぬくもりを感じます。

(はぱ)写真はまだまだ練習中なんですけどね。結構、感覚的に生きている部分が強いのかなって、自分では思います。

ー分かります!ご自身の感覚や直感を大事にされているんだなあと……。

(はぱ)でも感覚だけではなく、イメージがちゃんと作品や写真に現れているようで安心しました。

提供:Hapa.acce

ータティングレースのどんなところに魅力を感じますか。

(はぱ)糸ならではの温かみ、儚さ、軽さ……ですね。インパクトを出すのに金具などのパーツを増やすと華やかさが増すけれど、そのぶん重みも出る。軽くて華やかなビジュアルはタティングレースにしかないものだと思います。

ー私も実際に耳につけてみて、まず軽さに驚きました。ピアスが開いていないので、耳につけるアクセサリーは可愛いけれど重いし、すぐ耳が痛くなって長時間つけていられなかったのですが、タティングレースはボリュームも存在感もあるのにフワッとしていて、外につけて行くのが楽しみになりました。

(はぱ)ああ、そう言ってもらえるのはとても嬉しいですね、作っていて良かったと思える瞬間です。もっと魅力を伝えられるような作品を目指していきたいな。

挫折はチャンス。たとえ一度諦めても、またやってみようと思った時、いい経験になる。

色とりどりの糸たち 提供:Hapa.acce
提供:Hapa.acce
細かい作業ですね…! 提供:Hapa.acce

ーはぱさんのこれまでの経験を通じて、これからものづくりを始めてみたいと思っている方に伝えたいメッセージはありますか。

(はぱ)自分自身、上手く作れなくて一度挫折しているけれど、挫折はチャンスだと思っているんです。たとえ一度諦めたとしても、おそらく何かしらのご縁があれば、自分が作りたいと思っているものに対する情熱や原動力になると思っていて。挫折は何年後かにまたやってみようと思った時、いい経験になります。失敗を恐れないでチャレンジしてほしいですね。

ーなかなか上達しなくて、諦めてしまう方もきっと多いと思います。

(はぱ)好きで続けていれば、少しづつでも上手になっていきますから。人生後悔しないように、やりたいことをやっていった方が絶対にいい。
あと、健康は大事です!(笑)

ーどちらも間違いないです……!
Hapa.acceの将来の展望として、目指しているイメージはどんなものでしょうか。

(はぱ)タティングレースの認知をもっと広げて、魅力を伝えたいですね。イベント出店を当たり前にできるようにしたくて、趣味以上にできればいいなと思っています。
長く続けていけるものだと思っているし、自分の身体が動かなくなるまで続けていきたい。ハンドメイドで好きなように生きていけたらなと思っています。

提供:Hapa.acce

明るい声と、優しい語り口。作品のイメージそのものの人柄の裏にある熱い想い。
日々の忙しさにかまけず、精力的に作品を生み出しているはぱさんのエネルギーの底にあるのは、”後悔したくない”という強い気持ちでした。

何か新しいことを始めてみたい、こんな作品を届けてみたい。
自分の心が向いている方に従ってものづくりを楽しんでいけば、手にしてくれた人にもきっと想いが伝わるはず。

春風にふわりと揺れるイヤリングを身につけて、ちょっと遠くまで出かけたくなった。

* * *

今回インタビューを受けてくださったHapa.acceさんのショップです。ピアスを中心に、バレッタやブレスレットなど幅広いアイテムが揃っています。
優しいパステルカラーや大人っぽいブラウン、鮮やかなレッドなどカラバリも豊富。
私は特にパープルやホワイト系のカラーに惹かれました。

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