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2023年の始まりと、2人の魔女

ー前回までのあらすじー
2022年が終わりゆく、12月。

9ヶ月前の旅行中、移住を電撃確信した屋久島まで、あと一歩を踏み出せないまま、すでに以前の住まいも職もきっちり手放してしまい、なりゆきホームレスと化していた。

その日は、山梨のパートナーの家にいた。
インスタのストーリーで、屋久島で行った憧れのカフェが出店するイベントの存在を知った。「屋久島未来ミーティング」

ーーなぜだか無性に気になるそのイベントに導かれるように、初めての一人屋久島旅が始まった。ーーそして終える頃には、移住先と仕事が決まった。

屋久島から綴った近況報告にメッセージをくれたゆうきさんは、一度お会いしてからぼんやりずっと会いたい人だった。そして、ついに年始会いに行くことができた。たくさんお話しした。

ふと彼女の美容院の話になった。その人らしくなるように、勝手に切ってくれる美容院なんだという。魔女なのだと。またもや電撃が走る。実のところ【魔女】に憧れる自分がいたし、自分と関係ない存在ではないと感じていたのだ。

春、屋久島の生活が始まる前に、魔女に会いに行くと決めた。もちろん、人生で一度はやってみたかった金髪も。

魔女は小田原にいるらしい。
そこまでいくにはと、その日は鎌倉まで足を伸ばして、以前住んでいた古民家シェアハウスに顔を出せたらと連絡してみると、なんとインドから7年ぶりに来日している、これまた魔女がいると知る。

2023年1月20日金曜日。
家から持ってきた大好きなおかか醤油と、山椒じゃこ海苔入り玄米おむすびと、昨晩のおかずの残りを詰めて、りんごを切ったお弁当。これさえあれば、がんばれば1日持つし、何よりそこらのごはん屋さんに入るよりずっとごきげんごはんだ。最近はおむすびにはもっぱら神迎えの塩、縁起の良さも感じつつ純粋に美味しい。

おむすびはこの2倍あった

おむすび作りすぎた。食べきれずに、時間が近づき美容院に向かう。小田原の美容院Muへ。入ってみると、たしかに魔女らしき人がたくさん見えた。これまでやったことはないけど、この美容院ならおむすびを食べることもゆるしてもらえるのではないかと直感し、聞いてみると、案の定大丈夫だった。イケメンのお兄さんしょーたろうさんとしばらくお話しする。

しばらくして現れたのは、断トツに魔女感のある女性だった。お店を取り仕切る、ゆみこさんだった。わたしは、すぐに、「魔女になりたいんです」と伝えた。「魔女になるには、自然を知り、自分を知ること」と言い、「魔女は次元が高い存在だから、素質が必要」と続けた魔女に、わたしは食い気味に「素質はあると思います」と言い放った。

そんなわたしに、ゆみこさんは「仲良しの何でも話せる木を・・・杉の木を見つけることね」とアドバイスしてくれた。木は長く世界を見届けてきて、魂が成熟しているのだという。話しかけるときは、きちんと挨拶をして、どんな木なのか知らなければならないとも教えてくれた。屋久島に行ったら、少しずつ探してみようと思った。

そんなこんなで、別の魔女かおりさんが現れ、ふたりはそれぞれカットとカラーを担当してくれるようだった。ふたりはゆるく話し合い、けれど何というか信頼ベースで、各々が魔法をかけてくれるようだった。そんな中で、わたしの髪型は色の魔女のひらめきによって赤髪に、そしてカットの魔女のいわく後ろ髪を引かれないようなさっぱりショートボブという方向性に決まった。

時折、仏壇の鐘のような音が「チーン」と美容院中に鳴り響いたり、突如お香が焚かれたりと、落ち着く一方でどこか楽しいエンターテインメントな空間。

さて、ゆみこさんとの話は続いた。わたしは、まさしくゆみこさんが言うところの”自然を知り、自分(人間)を知る魔女”になりたかったのだ。そして、ゆみこさんはわたしが思い描く通りの”魔女”だった。実際に話を聞いていくと、親の代から、ゆみこさん、そして子どもまで、魔法の力は伝承されているのだという。

「くるみちゃんは、魔女っていうより精霊っぽいよ!」
「精霊って・・・あの、もののけ姫のこだまとかの?」
「そう!」
無邪気なゆみこさんの言葉にちょっとだけがっかりし、でも、正直違いがよくわからなかった。

わたしの母は高校生の頃、出雲のお社を守る親戚の家で、陰陽師らしき存在を古い家系図の中から発見したことがあったと聞いている(今は見当たらなくなってしまったそうで、探し出したい)。出雲の独特な世界観も、陰陽師の歴史も、未だ掴み切れない。
だけどそれを聞いたときなんだか面白くてわくわくしたし、その事実の意味を知りたいと思った。陰陽師も、魔女も、精霊も妖精も、みんなざっくりと「自然とのつながりが深く、人間に気づきを与える存在」なんじゃないかと思っている。そしてわたしもそんな使命を選んで生まれてきている気がしているのだ。

・・・そうか。たぶん、「精霊みたい」という言葉にがっかりしたのは、「気づきを与える」とかそういう”力”はないと言われたような気がしたから。もっと言うと、それに思い当たるところを感じたからだろう。
「自分の現在地を知ることよ」
とゆみこさんは言った。「自分が誰なのかを知ること」、鏡に向かって、「わたしはくるみ」と何度も唱えるようにとも。しかし”現在地”という言葉は、なぜだか往々にしてわたしを迷路に迷い込ませてしまう。

だけれども、なにひとつわかったことではない。ここ数年を振り返ると、わたしはそんな何かしらの”力”を開花させられる場所を探し求めてきて、屋久島もその文脈で。わたしが引き寄せられる力、向かっていきたがっている場所は感じるのだ。
わたしらしくいればいいんだと。それを探求してきた日々だったし、これからもそう。人生そのもののような問いだ。やっぱりわたしには、なにひとつわからない。死ぬその瞬間、答え合わせできることを楽しみにしていようと思う。

魔女トークはさておき、人生初のブリーチに赤のダブルカラーを入れて完成。変化についていけないわたしをよそに、ゆみこさんやかおりさん始め、お茶しに来ていたマダムたちまで、「ずっとそうだったみたいに馴染んでるね」と口々に納得している様子が、不思議でたまらなかった。
生まれてこのかたこんな髪色を体験したことのないわたしの黒い眉も、どうしていいかとしばらく戸惑っているようだったけれど、しかしこれまた不思議なことに時が経つほど目に心に馴染んでいき、好きになっていった。わたしの中に、わたしだけが知らなかった誰かがいたような、そんな感覚。
ちなみに、パソコンの顔認証はなぜかこの日以来パッタリ反応してくれなくなった。

Muのみなさん、ありがとうございます♥

ゆっくりしすぎたMuを後にして、小田原駅でういろうを買い、急いで鎌倉へ。シェアハウスの管理人まゆこさんも十分魔女らしい人だが、まゆこさんいわく魔女であるというめぐ子さんが、七年ぶりに来日し、この2週間ほど滞在しているところだというのだ。めぐ子さんは、インドで絵を描き、音楽を学び、ヒーリングを行う方で、いよいよ日本に帰る気がなくなってきたので、日本に置いていた荷物を処分するために帰国したところだそうで、土間に敷き詰められている荷物の間からひょっこり顔を出して出迎えてくれた。

相変わらず「魔女になりたいんです」と言うわたしに、「ちょうどいい本があるよ」と、処分しようとしていた本の中から『魔女の手引き』という本をくれた。そのほかにも、ほしいのがあったら持って帰っていいよといってきださったので、9冊もいただいて帰った。翌日の朝は、ブレンドしてすりつぶしてきたというスパイスと紅茶でチャーイを作ってくれ、ういろうとともに朝ごはん。美味しかった。おみやげにブレンドのスパイスと紅茶もいただいた。

帰り道のキャリーケースは一段と重く、大学生時代の試験期間を思い出したりしながら、次なる目的地へ、意気揚々と向かった。

鎌倉の魔女にいただいて帰った本を読み、チャーイを飲んで、嬉しい日々

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