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[連載短編小説]『ドァーター』第十四章

※この小説は第十四章です。第一章からご一読されますと、よりこの作品を楽しむことができます。ぜひお読みください!『ドァーター』のマガジンのリンクはこちらです↓((一章ずつが短く、読みやすいのでぜひ!

第十四章 許し

 トラックを勢いよく発進させた。
 空回り貯まった、タイヤは急速に地面を這い、3250キログラムの解毒薬をコンテナに乗せて混沌たる街を走った。
 歩道には互いに肩を貸し合い歩く人々がいて、車道にはフラフラと走る、今にも事故を起こしそうな車が走っていた。
 一人だって死なせない、諦められないのだ。
 僕の罪は消えない、しかも僕は、今でも自分を許せないでいる。だけど、今は自分を許せないことが許せない。乙枝を苦しめ、巴枝をしに追いやった自分を許せない。これは許されていいことじゃない僕の勝手だ。だから僕は今だけ、自分の全ての罪を無かったことにする。その代わり、死んでも街の人たちを守り抜く。これが僕自身との縛りだ。約束だ。決して破ってはいけない、僕の行動理念だ。
 その上で、僕がやりたいことを自由にやってやるんだ。僕は愛したい人たちを愛し、守りたいものを全力で守る。その感情に罪悪感も、引け目もいらないのだ。僕はただ街の人たちを守りたい。だから不可能だとしても諦められないのだ。1300万人守り抜いてみせる。
 問題はいくつもある。まずは解毒薬を渡すのに必要な時間だ、毒が完全に体に周り、死に至るまで3日しかない。そして、僕には信用がない。医師でも、薬に知識があるわけでもない。さらに、元死刑囚の殺人犯からの薬なんて誰も飲まない。でも、それはバレなければ大丈夫、もちろん証明する方法は考えてある。最後に、人手が明らかに足りないこと。死に至るまで3日しかないことと合わせて、普通に考えると、全員救うのは不可能だと言える。
 でも、もちろん僕は諦めない。派手にこけて肋骨が肌から伸びてこようと、酸欠で視界が歪み、前に進めなかったとしても、僕にしかできない、僕ができることを全力でやってやる。
 そして僕はインターホンを押した。するとひどくやつれた30代前後の女性が出てきて、僕に言った。
「……どなたですか?」声は掠れていて、体を赤く削れるほど掻いていた。
「僕は、あなたの病を治しに来たんです」と、その時だった。女性はいきなりフッと倒れて動かなくなってしまった。僕は、すぐに女性を抱えて部屋に入り、近くにあった布団に寝かせた。家の中は散らかっていて、カラフルなタペストリーがかけてあったりと、独特な雰囲気があった。足元を見ると赤色に近い紫に変色していて、足首に触れると、高熱を発しているのがわかった。意識はまだ残っているようで、下半身以外は動かせている。
 どうしたらいいんだ。薬を飲ませるか?いや、まずは信用を得ないと。僕なりに、できることを考えて初めにこう言った。
「お名前、何て言うんですか」
「ありがとうございます、お医者さんだったんですね。わざわざ来ていただいてありがとうございます」彼女がそう言うと、僕はとても申し訳ない気持ちになってしまった。「申し遅れました。私は幸子といいます」
 本当のことを言うべきだろうか。でも、もしバレたら?この解毒薬を街の人たち全員に服用してもらうために、この人のために、できることは……。
「いいえ、実は僕医者じゃないんです。でも絶対に治します、枕元に置いてあるお薬をお昼の食後に服用してください。僕は他の人も回らないといけないのと、医者じゃないので看病ができません。すみません」女性は不安そうな表情で僕を見た。「こんな僕を信用できないと思います。当たり前だと思います。でも僕はどうしてもあなたに生きてほしい。赤の他人だけど、僕はこの街の人たちを愛しているんです」
 そう言って僕は頭を下げた。そして颯爽と立ち上がり、女性に背を向けた。
「……ありがとう」
「え――」その彼女の言葉に、僕の胸がざわめいた。こんな事態が起こるとは、全く考えていなかった。
「私にはわかるわ。私は占い師だからわかる、あなたの目は嘘をついていない。頑張ってね」そうにっこり微笑んでくれた。
 僕は玄関の扉を閉めると、ほっと胸を撫で下ろした。同時に、人を救えたと思う、自分に感動した。僕に生きる理由を少しだけくれたようで嬉しかった。
 愛する人たちに嘘をつき続けることはできない。しかも、いずれは僕が犯罪者だと言うことを、僕が言わなくてもバレてしまうだろう。もしそうなっても、僕は諦めない。この気持ちは嘘じゃないから、僕は守りたいことを信じてもらうために努力するのだ。

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最後まで読んでくれてありがとう!!

続ける!毎日掌編小説。38/365..

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