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咎人の雛先生の名作を読み解く

咎人の雛先生が大好き。



梅の香に 小鼻触れられ

         西階段

本議場前 

         空

咎人の雛先生、初期の名作である。空間を広く使い、独特の言語配置から構成されるこの句のスペクタクルは多くの読者に鮮烈な印象を残し、氏の名を広く轟かせる契機となった。

まず「梅の香」が春の穏やかな風を想起させる。ちいさな梅の花からただよう「梅の香」が春風にのせられて、小鼻をくすぐる。「触れられ」のくすぐったさ、焦ったさが、より「梅の香」を強く意識させ、小鼻を触れられた当人は春の到来を認識する。

ここから視線はおおきく動く。「西階段」「本議場前」「空」と独立した単語の連なりは景色としてかなり分断的であるが、単語間の広大な空間は、これらの風景をひとつなぎにする役割を果たしている。

この三単語の連なりはワンカットである。
まず「西階段」が見える。そこからカメラは素早く移動して、「本議場前」、そして上方に動いて「空」が映る。
空間を俳句のなかで可視化することにより、これらが孤立した風景ではなく、断続的な一連のおおきな景色なのだと理解させる。
このカメラワークのスピードがこの句の勢いとなり躍動感を与え、読者に爽やかな読後感をもたらす。追い風に背中を押されて走っているかのような疾走感ある情景描写は、ビジュアルとしてはアニメのオープニングに近い。新たな物語のはじまりを意識させるこの句は、「春」のさなかにいる読者の背中を心地良い強さで押してくれる。

「西階段」と「空」が改行によりだいたい同じ位置に配置されていることにも着目したい。

         西階段

本議場前 

         空

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