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7月読んだ本

Threads(公開はしていません)、なにをどう呟く(呟くとか言っていいのだろうか?)べきかわからず、7月の中旬あたりから完全に読書記録アプリとして使わせてもらっている。以下、それを全コピペする。

◇「アイドル失格」 / 安部若菜

◯文体がきれい。21歳の現役アイドルが書いたのか……と思うと、かなりすごくて眩しい。

◯アイドルグループ “テトラ” のセンター・実々花とガチ恋オタク大学生・ケイタの関係を描いた作品。実々花の曖昧な感じ、キャラのなさ、空っぽ感、みたいなものがよかった。神様みたいに、天使みたいに見えるアイドルも結局ただの女の子で、なにも目標がなかったりなんのために頑張っていいかわからなくなったり、でもそんな女の子がたくさんのオタクに愛されて貢がれて、だれかの生きる糧になっている、これは、希望でも絶望でもある。ケイタは、ひたすらかっこわるい。まあ童貞拗らせアイドルオタクなので目を瞑る。

◯よくいえば手軽に楽しめて、悪くいえば弱い。結末も驚きがなくかといって納得感もなく、全体的に物語性に欠ける。現実味もあまりない。でももし二作目が出たら読んでみたい、と思わせるような魅力がある。

◯目次がツイートみたいになっていて、ケータイ小説感がある、かなりかわいい♡

◯アイドルの、みられる立場の女の子の、消費される立場の女の子のかなしさには、色気がある。きのう友だちと夜職の女の子について話していて、「そのかなしさを完全に理解してあげられないことがさみしい」と言っていた。
”女の子がかなしんでいること”そのものに色気が宿っているような気もしていたが、夜職のような、人間の心の奥底にある欲、というか根底にあるさみしさを相手にする商売は心を擦り減らすし、高給の一方で対価もでかい、その擦り減った心の形に色気を感じているような気もして、ここに男女とかいう問題は関係ないんじゃないかと思う。

『誰よりもアイドルの輝きだった。』



◇「音楽は自由にする」 / 坂本龍一

◯坂本龍一の自伝。訃報を聞いてわりとすぐの頃に買ったが、ずっと読めていなかった。「怪物」を観て劇伴のAquaにハマり、これを聴かないと眠れません、という状態になったので、猛烈に読みたくなり、ようやく手にとった。

◯エピソードのすべてがおもしろすぎるだろ。幼稚園生のとき家に帰る途中で寄り道して映画観に行ったり、高一の時点で「いま(藝大の作曲科)受けても受かるよ🌟」と言われて遊び呆けたり、学生運動中モテたくてバリケード内でヘルメット被ったままドビュッシー弾いたり、余裕で藝大に入学しちゃったり、随所随所めっちゃ笑った。

◯ ほんとうに突然、人が死ぬ。わたしもこの先、たくさんの人間の死を間近に経験していくのだろうと思うと、かなしいというか、居た堪れなくなるというか。残される生者のどうしようもなさはもう二度と経験したくないと思う一方で、人の死がわたしを強くしているという嫌な実感もたしかにあって、死によって明らかになる死者とわたしの断絶、溝、距離をこの世界で埋めようと尽くすことが、死者への弔い(と生者は勝手に思う)となりまたわたしの精神性をより強固にしていくのだと思う。強くなる必要があるのかどうかは知らない。
言葉を持たない死者に対する生者の傲慢さ(いろいろ憶測したり祈ったりすること)は、わたしは許されると思っている派で、もちろん死者の存在はこの世界においてなかったことになるわけではないけれど、いまここにいないのだからべつにいいじゃない仕方ないじゃない、と思っている。
死は次元の超越と似たところがある。

◯生涯で氏が影響を受けた音楽がこまかく語られていたので、またべつの日に、ゆっくり聴いてまとめてみようと思う。

◯坂本龍一って名前、ほんとかっこいい!なりたい

「『1週間後にそのシーンを撮るから、それまで二度と笑うな。アマテラスオオミカミのことを思え。』」⬅️好きすぎる

◯坂本龍一のソロアルバムやサウンドトラックを聴きながら読んだりしていた。いちばん好きなやつはフェネスとのコラボアルバム「Cendre」



◇「雪は天からの手紙(中谷宇吉郎エッセイ集)」 / 池内了


◯雪の結晶研究で知られる中谷宇吉郎のエッセイを池内了が再編したもの。版元が岩波ジュニア文庫で、中学生以上向けと書かれているけれど結構読み応えあってめっちゃおもしろかった。岩波ジュニア文庫の本はどれも、「あ〜中学生のときにこれ読んでればなあ( ; ; )」とがちで悔しい気持ちになるものばかりで、ほんとうにすごい叢書だと思う。

◯「線香花火」「雷獣」「球皮事件」「『霜柱の研究』について」の章がとくにおもしろい。恩師・寺田寅彦の誠実で貴い人柄に惹かれる。中谷の科学、とくに実験に対する真摯で実直な姿勢は、確実に氏から受け継がれたのだろうな、と思う。スピ的な騒動に対する科学者の冷めきった感じと大人な対応に草。

◯文章がうますぎる。格調高くて端正な文体は、まるでしんしんと降りそそぐ雪みたいですわ⭐︎と思ったけど、これは雪のイメージが先行しているだけだ。

◯物理、化学の知識が乏しすぎて斜め読みしたところも多かったけれど、とにかく文章が素晴らしかったので随筆集も読んでみようと思う。

◯「それでよいのだ、生きる者はどんどん育つ方がよいのだと、私は目をつぶって寝入ることにした。」
⬆️最後の一文、かっこよすぎ、こうやって死にたい!(中谷宇吉郎はふつうにこのまま寝ただけです)



◇「鳥がぼくらは祈り、」 / 島口大樹


◯群像2021年6月号に掲載されていて、当時何度も読み返した「鳥がぼくらは祈り、」がついに文庫化した。

◯いい文章は(映画でも舞台でもアートでもそうかも)、精神をぐーっと前向きの方向に押す力があって、これから人生が好転しそうッ🎶という謎ポジティブな気持ちが湧いてくる、読んだあとはその推進力だけで歩いている気さえする。

◯高島の映画論には深く共感できるし、高島が好きすぎる。映画として編集された映像はすべて偽だ、と思う。人は無意識にたくさんの景色を視界に入れていて、聞き手はかならずしも話し手を見ているとは限らない、高島の視点で「いま」ほんとうに見ているものを捉えた映像は本質的に映画であり、真に限りなく近い。「いま」がどうしようもなく貴く大切であることに、高島だけは最初から気づいているようだとも思う。家を出た母と異父妹に(一方的に)会う場面、こんなリリカルな文体でストレートの感動を投げられたら死んでしまうんだがふつうに。高島大好き……

◯古川日出男の解説がかなりよかった。詩のような文体で語られることの意味をていねいに解説してくれている、一人称多元視点を用いることの必然性はかなり納得できる。

◯自分を可哀想だと考えることに救いはなく、むしろそれは人を中心とする世界を憎むことになり、そこからはなにも生まれない。被害者でありつづけることをやめること、そこから抜け出すことは、大変勇気のいることで、でもそうしないと世界を人を愛することなんてできない、生きることへの希望なんてうまれない。過去を認め、地続きになっているいまを肯定し更新し続けることでしか、希望はうまれない、うぜ〜、うざいがほんとうのことだと思う、過去の自分といまの自分を切り離すことさえできれば、そう難しいことでもないのかな、とも思う。

◯ 「経験してきた過去のすべて、の水槽に、冷たい一筋の、あり得ないけれども、光線みたいな、を放射していて、それは実は間違った角度から放たれていて、過去の一部にすぎないものを氷塊にして顕現させ、水面まで、つまりは意識として認識できるところまで浮かび上がらせているだけで、実は、そうして思い出された記憶の氷塊は、角度が間違っているが故に間違っている、というか厭な記憶、もしくは記憶の厭な見方、だけが結晶化されていて、その時、過去として思い出されている氷塊のさらに下、水の底のほうで、正しいかたち、なんてものではないかもしれないが、誰の目にも触れることのない純然とした過去が、ぼくの間違った過去の思い出し方では認知されずにあるのではないか。」

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