【短編】 夏祭り
あの子とお祭りに来た。
学生たちの取り留めのない声の束が、低く渦を巻く。色鮮やかな浴衣が照明の橙に優しく照らされている。この市でいちばん大きな夏祭りに中学のセーラー服で来ているのは、言うまでもなくわたしたちふたりだけだった。
「じゃーん、これが夏祭りだよ。いろんなお店があって、金魚とかスーパーボールとか、でっかい綿あめがあったりする」
長い間海外に住んでいて日本に戻ってきたばかりの彼女の手を引いて、ひととおり露店を見て回った。
彼女は目が足りないとばかりにしきりにきょろきょろと頭を動かしながら歩いていて、転ばないようにとわたしは彼女の長い脚を注意して見ていなければならなかった。
人混みの中でわたしたちはなんとなく目立っているような気がした。制服なのもそうだけれど、彼女の容姿は際立って存在感があったから。長い手脚と小さな顔、整った鼻梁と形のいい唇、そして青みがかった綺麗な瞳。
「あ……」
ほんとうに綺麗な子だと感心して眺めていたら、彼女が不意に立ち止まったのでわたしが転びそうになってしまった。
「どうしたの?」
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