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スラム街とホーリー祭 | 初めての海外旅行でインドへ行く⑤

3月25日(月)

一晩寝ると体調は回復し、問題なく動けるようになった。9:00ごろ、ホテルで朝食(カレー味のSabdanaとパン、卵焼き、チャイ)を食べ、隣の公園を散歩した。公園は時間がゆっくりと流れていて居心地が良かったので管理人が新聞を読んでいるベンチの横に座り1時間ほど過ごした。管理人室の周りには猫が10匹くらいいて、思いおもいにくつろいでいる。皆痩せて小柄な猫だが、近くにはエサ用の皿が置かれ、誰かがご飯をあげていることがわかる。

ムンバイの公園

120ルピーほどでUberを呼びクローフォードマーケットへ行く。ここはムンバイで最も有名な市場のひとつであり、果物エリア、動物エリア、雑貨エリアに分かれてあらゆる商品が売られていた。果物エリアではトラックからマンゴーやバナナが次々に運び出され、店頭には色とりどりな果物がザルにてんこ盛りに置かれていた。下には剥いた果物のゴミやくるんでいた藁、新聞紙がそのまま捨てられている。動物のエリアでは鳥、犬、猫等ペット用の家畜が狭い籠の中に大量にしまわれ、売られている。ものすごい家畜の匂いと何百匹もの動物の鳴き声が聞こえ凄まじい場所だった。その裏では肉を捌いて売っており、さっき見たような家畜の頭の部分とか皮が剥がされ肉だけになったものを細かく裁断している様子が見られる。インドではペット用の家畜も食うのだろうか?

クローフォードマーケット内ペットショップの様子

雑貨エリアはまだ朝早く2割ほどしか店が開いていなかった。早々と開店した店では所狭しにスパイスや石鹸、布などが置かれる店内にちょこんと店員が座り接客している。まだシャッターを開けていない店の軒には段ボールが敷かれ店員の家族が雑魚寝している。小学生くらいの子どももたくさん寝ている。11時をまわっても寝ているということは多分ここの子どもたちは学校に行かないのではないか。何日も風呂に入っていないような見た目をしており、ガリガリだった。寝ている体には無数のハエが止まっていた。
近くの駅に向かう間も野菜の露商店やアイロンがけ、靴磨きなど、色々な店が立ち並んでいる。しかし町並はイギリスの占領地だった過去もあり、西洋風の洒落た綺麗な建物が多い。駅もイギリスっぽい豪華な作りをしていて、屋根には石でできた犬のシンボルが付き出るような形で取り付けられている。駅の中もステンドグラスが使われたり、天井扇風機が動いていたりしてデリーの駅とはまるで違う雰囲気だった。

駅周辺の露店

チケット売り場に並び乗車券を買う。価格は6ルピー(日本円で約10円)。インド人は皆当たり前のようにさらっと列を抜かしてくるので並ぶ時は人と人の間がものすごく狭い。でもたまに親切で前に入れてくれたり、駅をおしえてくれたりする。
電車は窓もドアも開けっぱなしで運行していた。現地の人の真似をしてドアの手すりにつかまり体を乗り出すとそんなに速度は速くないので全身が生ぬるい風にあたりとても心地よかった。リキシャーも電車もバスも、基本的に窓はガラスが付いておらず半開放的な造りになっているため、車酔いの酷い私にとってはとても助かる。それから、一応チケットを買ったが改札や切符をチェックする場所がなかったので、多分多くのインド人は無銭乗車していると思われる。ドアが開けっぱなしなので途中から乗りこむこともできる。

電車内の様子

Byculla 駅に着いて外に出ると街全体はHoli festival一色でお祭り騒ぎだった。Holiとはヒンドゥー教徒にとって1年で1番大きい祭りであり、すれ違う人たちに「Happy Holi」と良いながらカラフルな粉を顔につけあい水をかける。もともとは豊作を願う祭りで、家に入ってくる悪霊に泥を投げつける風習がはじまりらしい。黄色い粉は尿、赤は血、緑は田畑を象徴しているというが、今や紫や青色の粉もたくさん売られている。通り道の屋台で1杯5ルピー(日本円で約9円)のチャイを飲み地元の人たちがくつろぐ中に入った。そこで話したおじさんからHoli用の紫の粉をもらい、言われるがままに顔につけた。ここをはじまりとして、私たちは祭りの参加者だと勘違いされ無限に粉を塗りつけられることになる。

目的地のドービーガートはカーストの最下層が洗濯を生業とする地域のスラム街である。屋根上には洗濯物が干され、1階には石の洗い場や洗濯桶が大量に置かれている。依頼された洗濯物は濁った水の溜まる場所で石鹸で洗われそれを石に叩きつけて脱水し干される。今日はHoli当日なこともあり一部しかその機能を成していなかったが、ちらほら水溜まりで衣服を洗う様子が見られた。

洗濯すすぎ場(左)と石に叩きつけて脱水する所(右)

市場の貧困層と異なり予想外なことに、ここドービーガートは洗濯用水のための水が豊富なことから大部分の人は祭りに参加していた。スラム街一体で粉や水風船や洗濯用水のホースで水をかけ合い洗い場はぐちゃぐちゃだった。ドービーガートの中に入った瞬間、私たちも容赦なく水風船を投げつけられ粉をかけられ全身水浸しでカラフルになった。ちなみに水風船の中に入っている水は洗濯用水なので多分めちゃめちゃ汚い。子どもたちは裸になりみんなはしゃいでいる。ヒンドゥー語が分からなくても、子どもから大人まで皆「Happy Holi 」と喋りかけ、それに応えるだけでコミュニケーションが成立するのは不思議な感覚だった。子どもや勢いのある人たちはたいてい粉を投げるか両頬につけるかしてくるが、丁寧で信仰心の強い人は自身の胸に手を置いたあと額の中心から上になぞるように粉をつけてくれる。洗い場の裏ではクラブのようなヒンドゥー音楽がかけられ、それに合わせて全身カラフルになった人々がおばあちゃんから子どもまで踊っている。

スラム街のホーリー祭

途中で人の波に揉まれ進めなくなっているのを見て近くの人が助けてくれた。彼は街中や屋根の上など色々な場所を案内してくれた。たまに解説のようなものが入っていたが、ヒンドゥー語で何も分からなかった。色んな友達を紹介してくれて、よく分からないけれど握手をしたり丁寧に粉をつけてくれたりした。そして驚いたことに案内料やチップを求めずに外まで送り出してくれた。(もしかしたらあまりにもヒンドゥー語が分からないので諦められたのかもしれないが)
案内してくれた人のおかげで難なくスラム街からは出ることができたが、全身粉だらけ、どこからどう見てもHoli festivalの参加者である。この先も会う人会う人に粉をつけられ写真を求められてホテルに着く頃には髪も肌もカピカピになっていた。

ドビーガード屋根上の様子

14時ごろ、電車に乗りCSMT駅まで戻って近くの映画館でヒンドゥー語の映画を見た。ちぐさはインド映画を現地で見るという目標があったらしい。インド映画は内容がはじまる前にインド国家を歌う時間が設けられる。CMが終わると急に人々が立ち上がる。スクリーンには空とインド国旗の写真が映され、伴奏に合わせてみんなが国家を歌う。その訳の分からない状況に笑いが込み上げてきて、真剣に国家を歌う館内で笑いを堪えるのに必死だった。昼食としてロビーで頼んだピザは自分の席まで持ってきてくれる。暗い中届けられたピザは全然見えなかったけれどカレーの辛い味がした。映画は結婚の婚礼を上げるために夫婦が電車に乗り込むのだが、女性は婚礼前サリーで頭を隠す風習があるため、満員電車に揉まれた旦那さんが別の婚礼前の女性を間違えて連れて帰ってしまう話だった。本当の奥さんは道に迷い、駅前のホームレスや屋台の人たちに助けられて幾日か過ごす。インドに来て初日、あまりにも女性を見かけないので不思議に思っていたが、映画の状況からすると基本的に女性はほとんど家から出ないようである。家で家事や育児を行う。そのため駅の名前や地名なども全くわからない。スマホなしに一度はぐれてしまうと家に帰るのも一苦労なようだ。日本の「奥さん」の語源となった頃の文化と似ているのかもしれない。最後旦那さんと再会することができ、ハッピーエンドで終わるのだが、ここまで王道の終わり方は今の日本では見ることができないだろう。難解な内容や抽象的な表現がなく、誰でも(例え言語が分からなくても)理解できる映画だった。鑑賞客は上映中自由に喋り、笑い、携帯を見る人や電話をする人までいる。No more映画泥棒みたいな注意事項も上映されなかったし、かなり自由に鑑賞することのできる感じがとても良かった。著作権侵害の深刻な状況も分かるが、ただ純粋な気持ちで映画を見に来ただけの私にとって、ああいう注意書きは鬱陶しく、ちょうど自由な形で映画を見れたらな、と思っていたところだった。コメディ映画が日本で定着しないのも、マナーや周りのことを考えすぎて笑うポイントで上手く笑えない人が多いためだろうと思う。小学生の頃、コメディ映画を母と見に行って、母だけが大爆笑しているのが恥ずかしかったのを思い出す。母はインドの方が幸せに生きられたかもしれない。

映画館を出て歩いて海へ向かった。地元の人たちの真似をして高速道路の中を歩き、車道を横断し、立ち入り禁止の柵を乗り越え海岸まで来た。海岸は人でごった返している。真夏の湘南の5倍くらいの人だと思う。水の売り子が「パニパニパニ」と早口で叫びながら水を売り、Holiで粉だらけになった人びとが真っ黒な海水で泳いでいる。ヒンドゥー教の女性は肌をあまり露出できないためか、水着を着る人はいない。サリーや洋服のまま海水に入っていた。宗教上の違いはいくつか見られるけれど、基本的に海の様子や海で遊ぶ人たちの様子は日本と変わらない。ナンパをする高校生や集まって写真を撮る女の子、はしゃいで水遊びするグループなど、よく見る光景だった。ちぐさは金髪にサングラスをしていたため、何人もの人が有名人と間違えて声をかけてきた。ひっきりなしに写真を撮らせてくれと行列ができる。きりがないので途中で切り上げ、Uberを呼びホテルまで戻った。

祭りに参加する人たち

ホテルでシャワーを浴び、その日の夕食は屋台食堂へ行った。一食100ルピー(180円)くらいのヨーグルトカレーとparatha、チャイを頼み食べたが、信じられないくらい美味しかった。

夕食のヨーグルトカレー

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