泣き出すことはわかっていた 2
3月
夜中12時を回った。
オフィスには、私以外誰もいない。体の調子が悪いと帰った後輩の代わりに仕事を終え、今日を振り返って天井をぼーっとみていた。
「結婚はできないけれど、付き合っていたい。」
そんなことを言う彼の気持ちがわからなくて、言葉を探しているうちに出勤の時間になり、矢継ぎ早に家を出て来たのだ。
こんな時、夜中まで仕事があってよかった。
家に、帰るのが怖い。
くだらないことで笑い合って、友達のようにいられる関係が私には良かった。男女というよりも、友達や同志でいられる関係が一番自分にあっていると彼といてわかったのだ。
だからこそ、ずっと一緒にいられると思ったけれど、結婚できないとなると「ずっと一緒」は絵空事で、夢物語のように思えてくる。
彼にそう言われたわけでもないのに、そのことを考えると勝手に涙がじわじわと溢れてきて情けなく思えるのだ。
三姉妹の中でも、長女でしっかりもので、いつもハキハキしている私が、こんな風に人目を憚って泣いていることを知ったら、妹たちは笑うだろうか。
だからといって、はっきりと明確に「結婚したい!」と強く願っているわけでもない。結婚に夢を描くような歳でもなければ、結婚すれば安泰だなんて思うような年代でも時代でもない。
でもなんとなく避けられているように思えてしまって。彼の人生の大きな川の流れに、私は一緒に流れてはいないのだと、そんなことをはっきりと言葉にされてしまっては、明日からどうやって会って、話して、希望を見出して行ければいいのか、ひたすらに絶望してしまうのだ。
私は、大きな川の流れの中で一緒に景色を眺めていたいのに。
こんなにも弱い自分を誰にどう話せばいいのかわからず、青白くエクセルが光るパソコンの画面を眺めては、涙が流れていくのだった。
帰ったらどうやってこのパンパンに腫れた目の言い訳しよう、花粉症がひどくなって目が腫れたとでも言い訳しようか。
こんな自分でも、泣き出すことはわかっていた。だけどどうしようもなくてひたすらに絶望する春の始まりだった。
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