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山で食べるカップヌードルは、どうしてあんなに旨いのか?

桜も散り、新緑の季節がやってきた。「山で食べるカップヌードルは、どうしてあんなに旨いのか?」そんなことを考えながら、標高1200メートルの山頂付近にある「お花畑」へ向けて、小さな沢を登っていく。

いくつもの小さな滝を流れ落ちていく水は、まだまだ冷たい。朽ち果てた切り株の上には、朝露でこうべを垂らした草花が咲く。高く伸びた杉の木は、風を受け、右に左に大きく揺れている。その隙間から、光がさし、若葉に反射すると、辺りはキミドリ色に輝きだす。

お花畑で腰をおろし、小花を見ながら、カップヌードルを食べることを楽しみに、カメラを肩にかけ、急登を進む。さらに、ハシゴに手をかけ、1段1段あがる。そして、鎖を手に持ち、岩場を超えた頃には、息があがり、太ももがキツくなってくる。すこし、休憩だ。リュックをおろし、登ってきた道を振り返る。すると、遠くには大阪湾、さらに、そのむこうには、ぼんやりと淡路島も見えている。

空は、青い。

さぁ、本日お目当ての「ニリンソウ」のエリアに入った。

ーニリンソウー「FUJIFILM XT-4 + Voigtlander NOKTON 35mm F1.2」 PHOTO 島袋匠矢©️

しかし、急登はまだまだ続く。目指す「お花畑」までの登山道の脇には、少しばかりのニリンソウが揺れている。1円玉よりも、ひとまわり小さな、白く、可憐な小花だ。

目的地に咲くニリンソウの群集は、まるで童話の世界。緑の柔らかそうな若葉のカーペットに、白い点々が散りばめられているような場所なのだ。毎年、そんな優しい世界を眺め、ぼーっとする時間が好きだ。間もなくして「ここからが、お花畑ですよ」と、教えてくれているように、アーチ状の木が目の前にあらわれる。そこが入り口だ。

数万株のニリンソウたちは、前日の雨で、顔はまだ上を向いていない。しかし、それもまた、美しい。とっさに膝をつき、小花にカメラをむけ、構図を決める。マニュアルレンズのフォーカスリングをヌルッと回す。すると、ボヤけた小花の輪郭がゆっくりと浮き上がってくるのだ。夢中で、シャッターを切る。

ーお花畑No1ー「FUJIFILM XT-4 + Voigtlander NOKTON 35mm F1.2」 PHOTO 島袋匠矢©️
ーお花畑No2ー「FUJIFILM XT-4 + Voigtlander NOKTON 35mm F1.2」 PHOTO 島袋匠矢©️

写真を撮ることと、絵を描くことは、同じような感覚だ。どこにピントをあて、どこをボカシ、何を、どう切り取るのか?夢中になる。それは、文字を書くことにおいても、同じような感覚がある。描くこと、撮ること、書くことに共通する、この感覚を言葉にすると何だろうか?そんなことを考えながら、倒木に腰かける。さぁ、カップヌードルの時間だ。チタンマグカップにお水をいれ、バーナーに火をつける。カップの底から、フツフツと、小さな泡が立ち登ってくる。やがて、ブクブクと大きな気泡へと変わり、湯気があがる。お湯が沸く様子を、ただ眺めている時間。非日常を味わうには、十分すぎる時間なのかもしれない。

Galaxy Note20 Ultraプロモード撮影 PHOTO 島袋匠矢©️

フォークを口に加え、蓋を開け、お湯を注ぐ。待つこと2分ちょっと。麺は、硬めが好みだ。グルっと大きくほぐす。この瞬間、いつも何故だかワクワクする。このひと時の為に、山を登ってきたからなのか、特別な瞬間だ。

「いただきます」

ああ、旨い…
小学5年生の時、雨の日のサッカーの試合終わりで食べた豚汁と同じぐらい、美味しい。体にしみわたる。穏やかな風が、小花をゆらし、優しい光は、小花を開かせる。小海老をフォークですくい一口。麺を巻き付け、二口。そして、お花畑を眺める。なんて、幸せな時間なんだろう。しかし、三口目…で時間が止まった。正確に伝えると「終わった」である。

私のカップへ、ハエさん、ダイブインヌードル。初体験だった。

ジタバタされておられるではないか…水面が小さく小さく波だっていた。しかも、なんだか大きめサイズ。卵の具と同じくらいある。私は、ゆっくりとフォークで救出し、事なきを得ることができた。そう、ハエさんにとっては、である。

考えた。じっくり、考えた。いろいろ、考えた。
そして、空になった水筒へ、その全てを、収納させて頂く決断をする。

「ごちそうさまでした」

起こった出来事の事実を変えることはできない。
だからこそ「あの体験があったから」を自らの足で迎えにいく必要がある。いつもピンチは、チャンスである。さぁ、どうする。アンテナをたてる。すると、女神情報はすぐにやってきた。

ゆっくりと地面を見ながら、何かを探すご夫婦。「フデリンドウ、見ませんでしたか?」と聞かれたのだ。花が閉じた状態が、筆の穂先に似ていることから名付けられたフデリンドウ。小指の第一関節ぐらいの背丈で、ムラサキ色の小さなお花だ。去年、このお花畑ではじめて見た。

「去年、あそこの木の下に咲いてましたよね」と私。「そうそう。でも、今年は咲いてなかったのよね。ありがとう」と、ご夫婦は谷を降っていく。数分後、2人組の女性が地面を見ながら、ゆっくり近づいてきた。「フデリンドウ探されているんですか?」と声をかける。「そうそう、今年見つけれないんですよね」と女性Aさん。すると、女性Bさんからは、違うお返事がかえってきた。

「ミドリのニリンソウ、見ませんでしたか?」

ハエさん、ダイブインヌードル事件を経て、私に女神が微笑んだ。
何それ?知りたい…ならば、インタビューあるのみだ。

私:「あの〜、そのお話、詳しくお聞かせて頂けませんでしょうか?」
女性Bさん:「全然、いいですよ。今、噂になっていて。この山の中に一輪だけ咲いてるんですって。ミドリ色のニリンソウが。」
私:「このお花畑の中に咲いてるんですか?」
女性Bさん:「それが、全然どこに咲いているのか、わからなくて…」
私:「そうなんですね…めちゃくちゃ見たくなってきました」

好奇心が、ムクムクと育つ。もう、こうなったら探すしかない。しかし、手がかりは何もない。ならば、続インタビューだ。聞くしかない。

作戦はこうだ。

Mission 1・フデリンドウを見つける。
Mission 2・写真を撮りながら、長時間しゃがみ続ける。
Mission 3・下から上がってくる人に「ここに、フデリンドウありますよ」と声かけをする。
Mission 4・「あの〜ミドリの…」とナチュラルに話かける。
Mission 5・インタビューへ持ち込む。

はい。1つ目のミッションクリア。
なんとか、なんとか、見つけました。

Galaxy Note20 Ultraプロモード撮影 PHOTO 島袋匠矢©️


「なんか、ありますか?」カメラをもった、おじさんが声をかけてきた。「フデリンドウ、ありますよ」とミッションを粛々と進めていく。二言三言、カメラ談義で盛り上がる。そして、時は、熟した。「あの〜ミドリの…」しかし、答えはNOだった。会いたい。ミドリに会いたい。思いはつのる。

すると、10分後に、その女神はやってきたのだ。
すごく植物に詳しい女性だった。何か研究でもしてるのかな?と思うぐらいの植物博士だった。時は、熟した。Mission 4 だ。

女神:「この下で、見たよ。先祖帰りだね。私も噂で聞いてたけど、見れると思ってなくて。でも、カメラを構えた人が1人、熱心に撮影していたから分かったんだよね。」

ついにたどり着いた。インタビューすること5人目。

私:「この下って、どのくらい降ったところですか?右側ですか?左側ですか?どのくらいの高さの位置ですか?」矢継ぎ早に質問をかぶせる。ワクワクがとまらない。
女神:「うんとね。クリンソウのエリアわかるかな?」
私:「わ、わからないです…」
女神:「この左側でね。高さは腰ぐらいなのね」
私:「今日、登ってきた道にあるってことですよね」

と話は続く。しかし、このままで絶対、見つけられる気がしない。どうしてもみたい。インタビューを続ける。というか、女神に食い下がる。

私:「えっと、何か他のヒントありませんでしょうか?」
女神:「私、スマホで写真撮ったよ」
私:「是非、見せてください!」

スマホで撮影したミドリのニリンソウを、スマホで撮影

ほんとだ。ミドリだ…花が緑だ。
でも、この写真から得られるヒントは、非常に少ない。しかし、その下に生茂る、葉っぱの種類は確認できる。い、いけるかもしれない。

さあ、ここからは、左側の腰の高さに咲くニリンソウを探して、ゆっくりと降る。私一人だけ、亀の歩みで進んでいる。会いたい。下からは、登山者さんが登ってくる。どんどん、すれちがう。同じぐらい、会いたい思いは、どんどん膨らむ。すると、明らかに亀の歩みをするカメラを持つ男性が視界に入った。

あちらは、登ってくる。
こちらは、降っていく。

その距離2メートル。お互い、顔を上げて、目があう。

男性:「ですか?」
私:「ですです。」

このシンプルな呪文で、一瞬にして、心はつながった。
仲間ができたのだ。

男性:「実は、先日も来て。1時間、探したけれど見つからずで。この倒木の横にある岩から、20〜30メートル上に咲いている、との写真を友人からもらったんですよ」

そう言って、写真を見せてくれた。しかし、同じような倒木と、同じような岩がたくさんあるのだ。でも、このあたりであることは間違いない。おそらく、すでに通りすぎているはずだ。何度も何度も、同じ場所を、登ったり、降ったりを繰り返す。それでも、見つからないのだ。20分、30分と時計の針が進む。しかし、諦めるつもりは毛頭ない。ハエさんが、繋いでくれたご縁だ。ここで、見つけなきゃ、ヌードルさんに申し訳ない。

探すこと40分。

ついに、運命の瞬間を迎えることができたのだ。


ニリンソウ先祖返り「FUJIFILM XT-4 + Voigtlander NOKTON 35mm F1.2」 PHOTO 島袋匠矢©️

数万株の中で、1輪だけ違う姿で咲く、ミドリの小花。

ニリンソウ先祖返り「FUJIFILM XT-4 + Voigtlander NOKTON 35mm F1.2」 PHOTO 島袋匠矢©️

One Flower だ。
私の描きたい、絵のコンセプトを表現したような、本物の花が実在したのだ。世界の何処かにあるという森、Colorful Forest 。
そこに咲く、本物のOneFlowerに出会うことができたのだ。

なんと、儚くも、逞しいのだろうか。

「FUJIFILM XT-4 + Voigtlander NOKTON 35mm F1.2」 PHOTO 島袋匠矢©️

夢中で、シャッターをきった。大きく、私の心を動かしてくれた。
ありがとう。そんな言葉が自然とでてくる体験をしたのだ。

「 FUJIFILM XT-4 + Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 」 PHOTO 島袋匠矢©️


山は、いい。花は、いい。自然は、いい。

先日、「自然と天然の違い」について話しているラジオを聞いていた。そこで「答え」を聞かないようにチャンネルを変えたのだ。
それから「自然と天然」について、フワフワと思考していた。

この日、自ら咲くミドリのニリンソウに出会い、
すこしだけその答えに気づけたような気がした。

3ヶ月前に描いた絵。Colorful Forest One Flower 島袋匠矢©️

これからも、私は髪を切り、絵を描き、写真を撮り、文字を書いていく。

それが、私の自然体なのだから。

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