さて,めでたく司法試験に合格すると,今度は提出書類の山と格闘することになる。
 その中には,修習地についての希望を記入する欄がある。
 記入する内容としては,希望地とその理由を第1希望から第6希望ぐらいまで書くものだったと思われる。
 もっとも,いきなり,希望地を書けと言われても,よくわからない人も多いと思う。
 そのため,ここでは,その希望地選びについて思うところを述べる。


1.そもそもの記入のルールについて


 分野別実務修習は,全国の県庁所在地47箇所プラス函館・旭川・釧路・立川の51箇所の中の1箇所で行うことになる。
 申込み方としては,司法試験合格直後に出す書類に記載するが,第1希望から第6希望まで書く欄がある。もっとも,全部の欄に希望地を書いてもよいが,途中まで書いて「以下一任」するのも,第一希望から「一任」にするのも可能である。
 51箇所の修習地はすべて1群,2群,3群の3つのグループのどれかに属している。というのも,希望を書くのにもルールがあり,1群からは2箇所までしか書けない,第5希望と第6希望は3群から書かなければならないというものがある。 
 もっとも,こういったルールについては,随時変更もあり得ると思われるため,これについても,各自で記入要項等を確認すること。ただ,書き方を間違ったからといって,修習に行けないなんていう話は聞いたことがないので,おそらく「希望なし」と同じ扱いになるものと思われる。

2.一般的に人気と言われている修習地とその理由

 ・札幌…遊べるから,食べ物が美味しいから
 ・東京…なんといっても便利,引っ越しが不要など
 ・立川…引っ越しが不要,大規模過ぎないなど
 ・東京や大阪周辺の小規模庁(静岡,甲府,大津,京都など)…就活等で簡単に都心に行ける,大規模すぎないが田舎すぎもしないなど
 ・神戸…雰囲気がいいから,遊べるから
 ・福岡…遊べるから,食べ物が美味しいから
 ・那覇…遊べるから
 ・上記以外の高裁所在地…なんだかんだいろいろな事件が見られると言われている

3.希望を通すにはどうすればいいか

 はっきり言って,修習地をどうやって決めているかはブラックボックスであり,世に出回っている様々な話は,当記事も含めて推測の域を出ない。

(1)具体的な理由を記載する

 とはいえ,なんといっても具体的な理由を記載することは重要である。
 「就活が終わっていない可能性があるため,東京に容易に行くことができるから」とか,「定期的に高齢の親戚の世話をしに行かねばならないから」とか,「自分の親戚・兄弟が希望地で生活しており,そこから通うため」とかしっかりと書くことが重要である。
 こういった理由の記載については,他の記載とも整合させること(例えば,身上調査書の兄弟の生活地と希望地が一致する,高齢の親戚が実在する,任官・任検志望の場合はその旨進路希望に記載してある,など)を意識する。
 札幌や福岡,那覇に希望して,正直に「遊びたいから」と書くのを止めはしないが,同じような雪国か南国の小規模庁に配属されるリスクはある。

(2)統一感を出す

 たまに,行ったら楽しそうな場所を列挙するような人が居て,札幌・那覇・神戸・福岡…みたいな感じで希望地を出す人がいるが,そういう記載の仕方をするのは「自分はどこに行っても構いません」という意思表示をしているのと同義であると考えたほうがいい。それを読んだ側からすると「この人はどこでもいいんだな,じゃあ,地方で人数が足りてないところに配置しよう」と思うのは自然であり,それで望んでもいないような地方に配属されたからといって文句は言えない。
 なので,例えば,北関東+甲信越で固める,北海道にどうしても行きたいのなら道内の4つの修習地を希望する,九州に行きたいのなら九州で固めるなど,統一感を持たせた方が,読んだ側からすると分かりやすい

 なお,引っ越しを避けたいとか,家族と暮らす必要があるとかで,社会人は東京や立川に配属になることが,他の修習生と比較すると多い。

4.具体的にどうやって決めるか

 たかが10か月程度なので,試しに暮らしてみたい場所を選ぶのが良いとは思うが,それだけではアドバイスにならないため,以下,希望を考える際に参考になりそうなことを書いてみる。
  

(1)任官・任検を意識するか

 例えば,〇〇修習は任検しやすいだの,××修習は任官しやすいだのといった噂が出回ることはあるが,任検数や任官数なんてものは,その年ごとの修習生内の相対的な水準で決まるものであるから,どこの修習地だと任検・任官しやすいとかはあまり考えなくてもいいと思われる。
 そもそも,各修習地の指導担当の検察官・裁判官は異動があるため,ある時によくても,その人が異動してしまえば微妙といったことはあり得ることである。
 そのため,修習地選びの段階からそんなことを考えていることに時間を使うのであれば,さっさと希望を決めてしまって,その分の時間を要件事実の復習にでも割き,その後の修習でもいい成績が取れるように努力するほうが賢明である。
 

(2)見られる事件の幅広さと面倒見の良さは反比例という説

 規模が大きい修習地であれば,それだけ見られる事件の幅は広がる。もっとも,事件数が多いと,修習生に構っていられる時間や余裕も減るため,それだけ面倒見は悪くなると言える。
 もっとも,規模が大きければ,制度等はしっかりしているので,ちゃんと指導した指導環境があるという面もある。
 小規模庁はその裏返しで,事件数が少ないため,構ってくれる可能性は高まるが,事件の幅としてはどうしても狭くなりがちである。
 また,指導制度などが,大規模庁に比べると手作り感がある。
 ところが,弁護修習に関して考えてみると,東京修習だと,いわゆる四大やそれに類するような事務所に配属されてしまい,専門性はあるが,幅広い事件を見るというわけではないといった展開もあり得る。刑事事件は里子制度(配属先の事務所とは別の事務所の刑事事件について行って修習を行うこと)などで対応できると思うが,それ以外の事件で里子できるかは何とも言えない。また,弁護士自体が大人数だったり,過度に多忙だったりするので,修習生との間でどこまで関わってくれるかは未知数である。
 これに対し,小規模庁であれば,典型的な街弁事務所に配属される可能性が高く,基本的に街弁事務所は何でも屋みたいな事務所なので,幅広い事件が見られると思う。雰囲気としても少人数なので,いろいろと面倒を見てくれたりすることも多いと思う。
 そのため,規模が大きければいいというわけでもない。
 

(3)人数規模と人間関係

 大規模庁はそれだけ配属される人数も多い。そのため,修習のクラスが全員東京修習とかもあり得る。また,実務修習の1班の人数が多く,経験があまり積めないとか,班内でも人間関係が希薄といった展開もあり得る。その上,東京都内のロースクール出身で,区内の企業法務系の事務所に内定をもらい,東京修習というように,「リールの図柄を東京でそろえる」ようなことをしてしまうと,どこに行っても顔見知りばかりで,同じようなコミュニティに属し続けて,繋がりが広がらないという可能性もある(それが快適なら,あえてそういう選択肢を取るのもありだが。)。
 逆に,小規模庁は,配属される人数が少ないため,同じクラスの中でも,いろいろな修習地の人がいて,繋がりが広がったり,単純に多様性に富んでいて楽しいということはある。また,実務修習の班の人数も少ないため,それだけ充実した実務修習を送れる可能性は高まる。もっとも,それだけ人間関係が密になるので,相性や個々人の性格などによって,修習生活が充実したものになるか物足りないものになるか,あるいは,楽しいものになるかストレスフルなものになるか変わる可能性もある。

(4)A班にするかB班にするか

 修習地にはA班の修習地とB班の修習地がある。
 主に大規模庁がA班でそれ以外がB班となる。
 何が違うのかというと,修習のスケジュールに違いが出てくる。
 A班は,導入→分野別→集合→選択型→二回試験という順番であるが,B
班は,導入→分野別→選択型→集合→二回試験という順番である。
 集合修習では,二回試験に向けた起案の対策を多く行うので,二回試験
対策的には,直前に起案の勉強ができるB班の方が有利ではないかという
ふうに考えられる。
 なお,制度の変更等に伴い,スケジュール等が変更になっている可能性もあるため,この点に関しても各自で十分に確認すること。

5.最後に


 ここまでいろいろと書き連ねてきたものの,希望が通ろうが,外れようが,所詮,密に繋がるのは10か月程度の話である。この期間だけで,人生が決まってしまうなんてことはほぼないので,少しぐらいは待ち受ける修習生活に思いを馳せながらも,過度に悩みすぎずに決めてしまうのがよいであろう。住めば都である。

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