第1 概要
 検察起案は概ね,下の構成で成り立っていることが多い。
 1 起訴状起案
 2 終局処分起案
 3 小問

第2 注意事項
 検察起案の特徴は,検討すべき人物が複数になる可能性があることや,フル起案の場合もハーフ起案の場合もあるということである。
 犯人が複数いる場合は,どの犯人について検討が必要なのか必ず起案要領を見て確認すること。
 また,起案の対象についてもちゃんと確認すること。不要な検討事項の場合は,ちゃんと「犯人性については検討を要しない」などと書いてある。
 余事記載をしてもおそらく減点はされないが,当然のことながら加点もされないし,検察起案自体がそもそも検討すべき内容や記載すべき内容が多いから,余計なことを検討しているとそれだけで時間などが浪費してしまって必要な検討ができなくなってしまう。
 検察起案は型を無視すると点数が下がるとか,検討すべき罪名が模範解答と異なってると点数が伸びない(検討罪名を間違えると5段階評価でどれだけ上手に書けていてもCまでしかいかないが,検討罪名さえ合っていれば余程のことがない限りCを下回ることはないなど)とかいう,ある意味理不尽な科目なので,とりあえず修習生のうちは黙って起案すること。
 検察起案は,「終局処分起案の考え方」という白表紙があり,これがルールブックみたいなものなので,これを読むのが一番手っ取り早いが,当記事では,講評等も踏まえた記載をする。

第3 起訴状起案
 公訴事実の書き方は検察講義案を参考にすること。
 講評での模範記載例などを見ると,意外と書いている量が多いので,余事記載なんじゃないかと思うぐらいの意識で書くぐらいでもいいかもしれない。
 罰条は,未遂犯処罰規定が既遂犯処罰規定より先に来るとか,共同正犯(刑法60条)が後付けになるとかいうルールがあるが,これも検察講義案の起訴状の例をよく読めば載っている。
 なお,講評で指摘された一般的注意事項は以下の通り。
・構成要件に該当する具体的事実を訴因特定の見地から過不足なく論じる
 ・「六何の原則」を意識する
 ・必要な事実を簡潔に,余事記載を避ける
 ・証拠に忠実に記載する
・個別的留意事項
 ・行為と結果,それぞれの時期や場所を意識する
 ・着手時期と既遂時期を意識する
 ・動機や経緯の記載は原則として不要
 ・因果経過を示すときは「よって」,法的評価を示すときは「もって」を使う
 ・「暴行・脅迫」,「~の傷害」など,法的評価を示す言葉を忘れずに書く
 ・年齢の記載の要否などその他の約束事は,当日配布される「検察起案作成上の注意点」に従う
・罪名及び罰条について
 ・罪名末尾に「罪」不要
 ・「刑法」は記載する
 ・項番号,前段・後段も忘れずに書く
 ・罪名は検察講義案の「罪名表」を参考にする
 ・未遂は未遂犯処罰規定が先
 ・共犯は刑法60条などが後付け
 なお,送致されてきた罪名で起訴しない上その他の罪名で起訴することもない場合には,不起訴裁定が必要となり,不起訴裁定をする可能性も万が一あるので(二回試験ではここ20年は不起訴裁定事案が出ていない模様だが,受ける年に出ないとは限らない),その場合には,被告人でなく被疑者と書く,認められる範囲で事実を書くなどあるが,それらは検察講義案を参考に書ければおそらく十分だと思われる。
 講評で指摘された不起訴裁定に関する注意事項は以下の通り。
 ・送致事実について公判請求しない場合に不起訴裁定を記載する
 ・理由の記載は不要
 ・起訴猶予の場合には認定した事実を書き,嫌疑不十分の場合には送致事実を書く

第4 犯人性起案
 犯人性起案も必ず型に従うこと。
 1 間接事実に基づく検討
  ⑴ 証拠から認定できる本件の概要
  ⑵ 間接事実その1
   ア 認定した事実の概要
   イ 認定プロセス
   ウ 意味付け
  ⑶ 間接事実その2
  (中略)
 2 直接証拠に基づく検討
 (3 共犯者供述に基づく検討)
 4 犯人供述に基づく検討
 5 総合評価

 特に,1~5の順番を無視したりすると,それだけで一発不可となりかねないので気をつける。
 ⑴については,「考え方」だと⑵アの中で書けば十分という記載であり,実際,そのような書き方でも問題はないと思われるが,記載欠缺で減点されても厄介なので,先出ししておくのがよいと思われる。
 アでは長々とした記載は不要。長く書きすぎると,本当にその事実が認められるのかが問題となるし,イと同じことを書くようになってしまって意味がない。ただ,必ず犯人とAとのつながりが分かるように書くこと。迷ったら「犯人はV方の窓から侵入したところ,V方の窓にAの指紋が付着していたこと」などと,「犯人は~したところ,Aは~したこと」型で書いておくと間違えにくい。
 イの部分では,必ず犯人側の事情もA側の事情も認定すること。事実を認定する際には証拠の射程を意識する必要がある。つまり,証拠から言える範囲以上のことを認定してしまうと,減点対象となる。例えば,「犯行から3時間後の実況見分でV方の窓が開いていた」という事実が実況見分調書から分かる場合に,「犯人が窓から侵入した」と認定してしまうと,射程外の事実を認定することになってしまう。そういう場合には,例えば「防犯カメラ画像を解析したら犯行時刻に窓から侵入する人物が居た」という内容の捜査報告書やWの供述調書などと合わせて,「犯人がV方の窓から侵入した」という事実を認定する。いきなり間接事実に飛びつくことなく(間接事実がストレートに認定できる場合はそれほど多くない)とにかく細かい事実を積み上げること。証拠は書き過ぎではないかと思うぐらいガンガン認定根拠として記載するぐらいがいいと思う。根拠欠缺で減点されるリスクは回避すべきである。なお,この部分では,取調官に対するAや共犯者の供述が使えないルールになっている(取調官以外の人物(Aの友人など)に対する発言は使用可能)。供述を根拠とする場合には,必ず当該供述部分の信用性を検討すること。刑事裁判起案と同様に,最近は供述者ごとではなく供述部分ごとに信用性を検討するのが最近のセオリーらしいので,それに従うのが合理的である。
 ウの部分では,刑事裁判起案みたいに経験則を明示する必要はないが,なぜかかる事実が犯人性を推認する事実なのかという理由を記載すること。
 推認力の検討段階では,Aの供述にとらわれずに説得的な反対仮説を考えること。ここで「Aは偶然通りがかったら窓が開いていたので窓に触れて中を覗いてみた旨弁解するが~」みたいにして,A供述に起案で触れてしまうのはルール違反である。もし自分が犯人だったらどうやって弁解するかという意識を持つと反対仮説がイメージしやすくなる。反対仮説は認定した事実の蒸し返しになってはならない。民事でいうと,事実を否認してはならず,事実を認めた上で抗弁を出さねばならないイメージである。つまり,事実があるとしても,それが成り立つ上での反論を組み立てなければならない。反論が組み上がったら,その反対仮説が成り立つ可能性を判断する。そして,それに基づいて推認力を判断することになる。
 間接事実は以下の7つの視点に基づいて抽出するとされる。一般的には番号が若いほうが推認力が強く,①~③(特に,①,②)でAとの結びつきを踏まえて誰が犯人か考え,④~⑦で挙がってきた犯人らしき人がその人で間違いないかチェックする感じらしい。
 ①Aと現場等における遺留物・遺留痕跡のつながり
 ②Aと事件関連物品(凶器等)のつながり
 ③特徴の合致・類似
 ④犯行機会の存在・前足後足
 ⑤犯行可能性
 ⑥前後の言動
 ⑦動機

 最近は,間接事実が4つぐらいあるパターンが多く,それも,(たまに④~⑦に分類される事実しか抽出できない問題もあることはあるが)視点①~③の事実であることが多い。推認力の微弱な間接事実を挙げすぎると印象が悪いので,推認力の強い3,4つの間接事実を挙げる意識を持つとよいと思われる。なお,推認力が弱そうでも実は推認力の強い事実だったりすることもあるので,検討漏れとされないように,そういった場合は簡単に記載するのが賢明と思われる。
 間接事実の抽出は,①~⑦の視点で行うため,これらの視点については,起案時にはスラスラ出せるようにしておくこと。最悪,起案が始まったタイミングで草稿用紙に①~⑦の視点を殴り書きして,間接事実が抽出できるようにすること。
 供述の検討段階では,まずは事実認定に関連するであろう供述部分の具体的内容について記載するのがよいと思われる。特に,犯人性における直接証拠たる供述証拠,つまり犯人識別供述であるならば,犯人の犯行状況を目撃し目撃した犯人がAであると識別したものでなければならないが,犯人識別供述といえることを冒頭で触れておいたほうが賢明と思われる。また,被疑者供述については犯人性を肯定する場合でも否定する場合でも検討することが求められているので,忘れずに検討する。検討する場合には,客観証拠との合致,視認・記憶状況,利害関係,秘密の暴露の有無,供述態度・過程,供述内容に照らして,信用できるか否かを判断する。共犯者供述を検討する場合,検討の冒頭で「共犯者であり引き込みのおそれがあるため信用性については慎重に判断する。」と答案上に明示するのがよい。
 総合考慮では,「Aが犯人でないにもかかわらず,偶然⑵の行動をして,偶然⑶の行動をして,偶然⑷の行動をして,偶然⑸の行動をすることは,推認力に照らすと,そのような事態はおよそ考えられず,合理的な疑いとはいえないため,Aが犯人であると認定できる。さらに,AがVを刺したのを見たとする信用できるWの供述や,刺したことを認める旨のA供述の存在に照らすと,Aが犯人であることは明らかである。」などと記載する。

第5 犯罪の成否起案
 1 客観的構成要件該当性
 (2 共謀の成否)
 3 主観的構成要件該当性
 4 違法性・責任・訴訟条件
 (5 罪数関係)
 6 その他の犯罪の成否

  の型で書く。
 なお,犯罪の成否の段階では,犯人性検討独自のルールは外れ,原則通り捜査官に対するAの供述の使用や直接証拠から検討等は可能である。
 終局処分起案は終局処分に至る思考過程を示すものなので,終局処分である起訴状の公訴事実で記載した事実をここで認定することになる。
 司法試験に慣れてしまうと,司法試験刑法みたいな感じで,事実から罪責を論じれば十分だと考えてしまいがちだが,必ず検察起案の型に則って記載し,公訴事実と犯罪の成否で認定した事実がずれないようにすること。
 1 客観的構成要件該当性
 まず冒頭で構成要件を列挙する。
 次に,各構成要件の検討に入る。
 各構成要件の検討では,①構成要件の意義,②認定根拠及び証拠から認められる事実,③結論を明示する。
 明らかに問題がない場合には短く書けるが,ここでいう「明らかに問題がない」とは,争点になっていないという意味ではなく,「死亡したこと」というような構成要件と具体的事実が同じであること(つまり,法的評価がいらないような限定的場合)をいう。どれだけ短く書く場合でも,①②③の要素は抜かさないこと。
 短くても,「死亡結果については,司法解剖鑑定書,医師の供述調書から,Vが左胸部刺創による失血で死亡したと認められ,人の死の結果が発生したといえるから,死亡結果の発生が認められる。」ぐらいの記載は必要になる。
 なお,実行行為の認定については,上の簡潔な事実認定ではなく,必ずきちんとした三段階記述をすること。
 2 共謀
 共謀共同正犯が問題となるような場合には,客観的構成要件該当性と主観的構成要件該当性の間に共謀の検討が入る。
 共謀の成否を認定して,共謀に基づく実行行為といえるかを検討するという二段階の検討をする。
 ⑴ 共謀の成否
 御存知の通り,共謀についてはその解釈が分かれている。
 だが,検察教官室では,共謀とは「犯罪の共同遂行の合意」とするのが実務であるとして,共謀の意義についてそのように理解しているので,少なくとも検察起案ではそれに従う。
 共謀の成否では,人的関係,利害関係,意思連絡の経過や態様,積極性,実行行為の分担やその他の加担行為の有無,犯行後の行動等の視点から,犯罪共同遂行の意思連絡や正犯意思の有無を踏まえて検討することになっている旨,「考え方」に記載がある。
 ⑵ 共謀に基づく実行行為
 共謀が成立する場合には,実行行為が共謀に基づくといえるか検討する。
 共謀の射程の問題が生じる場合には,この段階で厚めに検討して記載する。
 3 主観的構成要件該当性
 ⑴ 故意
 故意とは「犯罪行為及び結果の認識・認容」と解される。
 ここでも,認定根拠とともに事実を認定し,それに基づいてAの主観について犯罪行為と結果の認識・認容があったか検討する。
 ⑵ その他の主観的構成要件該当性
 忘れがちだが,財産犯では不法領得の意思の有無も検討する。
 4 違法性・責任・訴訟条件
 おおよそ問題となり得るような事情がない場合には,「本件では,違法性や責任,訴訟条件について問題となり得るような事情は認められないため,これらについては認められる。」といった簡潔な記載で十分である。
 問題となり得るような事情がある場合には,各要件ごとに①意義,②認定根拠及び証拠から認められる事実,③結論といった三段階記述をすること。
 5 罪数関係
 複数の犯罪が成立する場合には,具体的理由とともに,牽連犯・観念的競合・包括一罪・併合罪などの検討結果を記述する。
 6 その他の犯罪の成否
 終局処分の対象犯罪以外に問題となる事実,つまり,犯罪が成立しそうなのに起訴しなかった罪名がある場合にはここで結論と理由を記載する。
 記載する場合には,そもそも事実関係に照らして犯罪が成立するか,成立し得るとしたらなぜ起訴しなかった(終局処分の対象としなかった)のかを記載する。
 送致罪名と起訴罪名が異なる場合はその理由をここで記載すること。
 しっかりと構成要件該当性や共謀,違法性等について事実認定して当てはめて結論を導くことができれば理想だが,おそらくそんな余力は残ってない人が大半なので,「~という事実から客観的構成要件該当性,~という事実から故意は認められ,違法性等は問題にならないが,~という理由から起訴猶予とした。」ぐらいの記述が現実的な線だと思う。

第6 情状関係
 情状関係の問題が出題されることがあるので,その場合には,先にAに不利な事実を挙げ,その後でAに有利な事実を挙げる。
 情状事実がどういうものかについては,「検察講義案」にも記載があり,一応「刑事弁護実務」にも書いてあるので,それらを参考にすること。

第7 量刑
 量刑の問題が出題されることもある。
 情状事実に照らして求刑を記載する。求刑については,法定刑から外れないのは当然であるが,実務的な感覚が求められるので,検察修習や刑事裁判修習等を思い出してどれぐらいの求刑が実務的かを意識する。
 まず,犯罪類型から,どの量刑分布を用いるかを検討する。あくまで量刑分布は量刑傾向を知るためのものなので,サンプル数が十分にないと傾向が十分に反映されておらずデータとしては不適切なものとなる。最低でも100件以上あるような量刑分布を使うこと。
 次に,犯情事実,つまり,本件に固有の事情を踏まえ,行為責任主義の観点から量刑分布の中でどのあたりに位置するのかを考える。
 最後に,一般情状,つまり,本件と関係のない事情(もし仮に他の犯罪でも考慮するような事情)を踏まえ,絞った量刑の幅でどの位置にするのかを決定する。

第6 小問
 刑事訴訟法に関する実務的な問題が出題される。
 問題のレベルは司法試験レベルから実務修習等を経ないとなかなか答えが思いつきにくいようなものまである。
 「検察演習問題」という白表紙が配布されるはずなので,それを検討することが対策になる。薄い教材だが,問題が列挙されていて問題量も割とあるので,検察修習中に他の修習生と検討しておくなどして,二回試験直前になって慌てて取り組むことがないようにする。なお,集合修習のタイミングで参考資料のようなものが配布されることはあるが,模範解答等は配布されないので,そういった点でも他の人と検討して納得できる結論を導いておくのがよい。
 実際の答案に記載する際には,他の起案と同様に結論を冒頭に明示するのがよいと思う。
 また,条文の指摘や条文及び制度の趣旨について触れた上で当てはめに入ること。その内容で枚数的にも指定枚数(多くは2,3枚ぐらい)ぐらいになる。

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