第1 概要
 民事裁判起案は概ね,下の構成で成り立っていることが多い。
 1 訴訟物,訴訟物の個数,併合態様
 2⑴ 要件事実
  ⑵ ⑴に基づいた争点
 3 主張の撤回に関する問題
 (4 争点整理の理由)
 5⑴ 争点についての結論
  ⑵ ⑴の結論に至った理由
 1~4がいわゆる争点整理問題,5がいわゆる事実認定問題である。

第2 注意事項
 民事裁判では,よく「争点整理と事実認定は車輪の両輪」という言葉が使われるが,修習生の立場からしてもこれは言い得て妙である。
 つまり,争点整理をして絞り込まれた争点について事実認定を行うのだから,争点整理の結果がガタガタだとその後の事実認定もガタガタになり,評価が伸び悩むという結果になる。
 実際,民事裁判教官室でも,争点整理と事実認定の重要度をほぼ同等に考えているようなので,どちらも手を抜かずに対策するのがよい。
 また,起案要領をよく読むこと。争点が何個もある場合でも,事実認定をすべき争点が起案要領で限定されていることがあるので,記載漏れや余事記載を回避するためにもよく読む。

第3 問1について
 1. 訴訟物について
   基準時は口頭弁論終結時。訴状だけで判断すると,訴えの撤回や取下げなどを見逃して間違う可能性があるので,ちゃんと記録の手続調書を見て反訴の提起や訴えの撤回・取下げなどがないかを確認する。
   突拍子もないものは出ないと思われるが,基本的な事項なので必要十分に簡潔に記載する。
   契約が何個もあるような事案の場合は,「原告の被告に対する○年○月○日成立の売買契約に基づく売買代金請求権」などと,当事者や日付までちゃんと特定するのが望ましい。
   「所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記請求権」などの長くてややこしいものや,遅延損害金=「履行遅滞に基づく損害賠償請求権」などよく使うものは丸暗記してしまうのが楽。
 2. 訴訟物の個数
   物権的請求権の場合は,侵害の個数×侵害の態様で計算する(例えば,4つの土地の上に建物が建っており,土地の返還を求めている場合なら,4つの不動産侵害と,建物所有による占有という1つの態様の侵害があるため,4×1=4で訴訟物の個数は4個となる。)。
   債権的請求権の場合は,債権の発生原因の個数で考える。起案で出るのはほとんど契約に基づく請求権なので,契約の個数で考えればよい(例えば,売買代金と遅延損害金を求める場合は,売買契約に基づく売買代金請求権と履行遅滞に基づく損害賠償請求権の2つとなる。保証債務の履行請求の場合は,損害等を全てひっくるめて保証するものなので,保証債務履行請求権1個となる)。
 3. 併合態様
   当然だが,訴訟物の個数が複数の場合に記載する。
   ほとんどの場合,単純併合。
   忘れずに記載する。

第4 問2について
  いわゆる要件事実の問題。
  ロースクールでやるような民事実務基礎よりも幅広い主張について争点整理が求められる。
  特に,当事者の主張書面を見ても,法律構成が書いてないこともあるので(特に抗弁などで多い),どの法律構成を主張しているのかを読み取って争点整理する必要がある。
  そのため,司法試験受験時と同じくらいの民法の知識が求められているといっても過言ではない(司法試験合格者しか基本的にいないのだから当然といえば当然だが)。
  白表紙の「新問題研究」だけだと足りないので,少なくとも「紛争類型別の要件事実」ぐらいは持っておきたいところ。また,おそらく大体の人は大島本や30講も持っていると思われるし,人によっては要件事実マニュアルも持っている。
  具体的に要件事実として答案にどのように記載すればいいかについては,白表紙の「事実摘示記載例集」を参照する。
  「主張自体失当として記載しなかった主張とその理由」については,記載しなければならない場面は少ない。民事裁判起案だから,ちゃんとした当事者が主張立証しているという前提に立っているのかもしれない。
  書く際は,ちゃんと記号を用いて記載すること(例:「あ 原告は,被告に対し,令和2年1月1日,別紙物件目録記載の土地を代金1億円で売った。」)。また,特定できる範囲で日時,場所,当事者等も摘示すること。
  民事裁判起案における「争点」は,当事者が争っている主要事実をいうので,事実上の実質的争点(例えば,「被告は,原告に対して,○年○月○日の打ち合わせにおいて,「それでお願いします」とは発言したか)は,「争点」とはいわない。
  争点を摘示する際には,問2⑴で用いた記号を用いて記載すればよい(例「設問2⑴の(あ),(い),(サ)の各事実」)。

第5 問3について
  よく考えれば分かるが,逆によく考えないと分からないことが多い。
  主張自体失当になっている主張であることが多いので,それまでの当事者の主張の内容や,法的主張の根拠条文やその周辺をよく見て,どういった理由で要件不充足となるのかを考えるのがよい。
  書き方としては,問題となっている主張が,請求原因,抗弁,再抗弁等のどこに位置づけられるのかを示す→主張の成立要件を示す→当事者の主張に照らして主張が成立しない理由を示す,の3ステップで書くのがいい。

第6 問5について
  問5⑴では,「認められる。」か「認められない。」だけ書けば十分。
  結論にも点は振ってあるので,必ず記載すること。
  問5⑵では,具体的な事実認定を行うことになる。
  いきなり事実認定から入らずに,まずは判断枠組みを示すこと。
  まず,「直接証拠たる類型的信用文書」があるかを検討する。この「直接証拠たる類型的信用文書」というのはキーワードなので,判断枠組みの検討においては必ず記載すること。
  ある場合には,その成立の真正に争いがあるかを検討する。
  争いがある場合は,二段の推定のどの部分(印章と印影の一致→本人による押印という推認部分なのか,本人による押印→成立の真正という推認部分なのか)について争いがあるのかを検討し,前者ならば第三者が印章を使用することが可能だったか,後者ならば押印後に書面に書き込みや改ざんをすることが可能だったかといった点から,推認が破られるかを検討する旨記載する。
  争いがない場合は,書面が存在するとしても,その書面通りの意思があったとは認められないとする特段の事情の有無を検討する。
  「直接証拠たる類型的信用文書」がない場合は,直接証拠たる供述があるかを検討する。当事者の供述であっても直接証拠になり得るので注意する。
  ある場合には,かかる供述の信用性を検討する旨記載する。
  ない場合は,間接証拠から争点について認められるか検討する旨記載する。
  重要なのは,判断枠組みを示すとはいえ,変わるのは上記判断枠組みに従った結論の方向性が変わるだけであり(特段の事情があるか?or成立の真正の推認が破られるか?or特段の事情があるか?or供述が信用できるか?or争点が認められるか?),結局やることはどれも変わらず,動かしがたい事実を抜き出して推認するということである。
  最後にちゃんと判断の中心(「特段の事情があるか」,「成立の真正の推認が破られるか」,「特段の事情があるか」,「供述が信用できるか」,「間接事実から争点が認められるか」)を記載する。
  判断枠組みを示したら,事実認定とそれに基づく検討に入る。
  検討に入る際には,当事者のストーリーを意識してどっちのストーリーに沿ったほうが自然に事実や証拠を説明できるかを考える。また,時系列表や関係図を作った方が検討しやすいので作成すること。
  次に,動かしがたい事実の4視点(争いなし,供述の一致,不利益事実の自認,成立の真正が認められ信用性の高い書証に記載)に従って,記録中から動かしがたい事実をガンガン抜き出していくのがよい。自分に有利そうな事実だけを抜き出すようなことはしないこと。
  その後,抽出した動かしがたい事実を,視点ごとに割り振って分類する。視点としては,事前の事情,契約時の事情,事後の事情の3つに割り振っておけばとりあえずは一安心である。その後で,例えば,間接事実ごとにまとめられるのであれば(例「契約締結の動機の存在」,「契約締結時の被告の発言」,「受領した代金の使途」など),その3分類の中で小区分としてまとめられれば十分である。
  割り振る際に,積極事実と消極事実の2分類にはしないこと。同じ事実でも積極方向にも消極方向にも用いることができるからである。
  事実を割り振ったら,認定根拠とともに認定した事実を記載する。書証の場合は証拠番号,争いのない場合は「争いなし」,供述の一致や不利益事実の自認の場合には供述者と供述番号を記載する(例「被告は,原告から,○年○月○日に1000万円を受け取った(争いなし,甲1,原告15,被告12)。」)。認定した事実には記号を付しておくと,その後の検討場面で使える。
  事実を認定したら,検討に入り,かかる事実単独や,他の事実を組み合わせてどのようなことが推認できるかを記載する。検討段階で使わない事実があれば,上の認定した事実から消すこと。推認に用いない事実を記載してはいけない。逆に,推認に用いる事実は検討前にちゃんと認定しておく。自分の結論の方向にばかり推認するのではなく,反対方向の推認にも必ず触れること。「~(反対の結論)とも思えるが,~という理由から不合理であり,むしろ~(自分の結論)と考えるのが合理的/自然である。」などと記載すると説得的に書きやすい。その上で,分類全体の推認力がどれぐらいあるのかを記載するとより丁寧である。
  以上の検討を各分類について行ったら,総合判断をする。
  自らの認定した事実やそれまでの検討結果を踏まえて,なぜ自分の結論に至るのかをなるべく具体的に説明する。
  起案全体の最終場面であり,時間も体力も気力もなくなっていると思うが,点数が振ってあるので,1ページ程度でもいいから記載するのが望ましい。
⑴⑵⑶

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