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『名古屋シネマテーク叢書』について


 1982年にオープンした名古屋シネマテークが、7年後の1989年に「企画表現としての上映活動としての上映活動のみに留まることなく、文章表現としての出版活動にも積極的にかかわっていきたい」と『名古屋シネマテーク叢書』を創刊。監督特集の際に来館し講演した監督たちの貴重な話を文章化。
 
 その第一弾となったのは1987年5月21日の鈴木清順監督の講演をまとめた『シネアストは語る―1 鈴木清順』(1990年12月20日発行)。冒頭から清順節が炸裂。「実は昨日から歯が痛みだしまして(笑)。何でこう痛いのかな、と思って気がついたら、今、中日ドラゴンズがトップになってるそうなんですね(笑)。私は巨人ファンじゃない、阪神ファンなんで……」と名古屋に来てのお話の最初がこれ。軽妙な清順マジックが炸裂の好著になっている。
  その清順マジックを美術監督として支えたのが木村威夫氏。1988年9月10に木村威夫氏を招き特集上映を開催。その講演録をまとめたのが『シネアストは語る―2 木村威夫』。鈴木清順→木村威夫とつながるのが上映者の矜恃。日本映画史を駆け抜けた美術監督の証言はあまりに貴重である。


 講演としては『名古屋シネマテーク叢書』の中でも一番古い1987年1月24日に行われたのが岡本喜八監督の講演を記録した『シネアストは語る―3 岡本喜八』。ダンディーな岡本監督の聞き手となったのが映画詳論家の森卓也さん。岡本作品から戦争問題、また助監督についた成瀬巳喜男監督、マキノ雅弘監督の思い出など、映画ファン必見の好著となっている。
 
 岡本喜八監督が助監督に付き、マキノ雅弘監督が連作した「次郎長三国志」シリーズ。1988 年2月6日に恩年80歳のマキノ雅弘監督をお迎えし、同じく森卓也さんが聞き手となって『シネアストは語る―4 マキノ雅広』が1992年11月15日に上梓。マキノ監督は出版された翌年1993年10月に85歳で亡くなっているだけに、あまりに貴重な本となった。マキノ監督の観客サービスに溢れる縦横無尽、抱腹絶倒の面白さ。詳しくは読んでのお楽しみ!


 そして『名古屋シネマテーク叢書』の最後となるのが、1993年10月6日に出版された『シネアストは語る―5 小川紳介』である。シリーズ中、倍のボリュームの大著であるが、それまでは1日限りの講演の記録だったのが、小川監督の3時間40分もの大作『1000年刻みの日時計―牧野村物語』名古屋上映の際に、小川監督が「小川プロの映画術」と題し4夜にわたって、すなわち1988年7月14日から17日まで4夜連続で行った講演を記録したものだからだ。講演は、第一夜「『青年の海』から『圧殺の森』へ」、第二夜「三里塚で」、第三夜「牧野に移って」、第四夜「次回作の話」に分かれている。小川監督は話の名手であり、読者を引き付けてやまない魅力に満ちている。
 
 しかし、次回作の話をしつつ、このわずか4年後の1992年2月7日に小川監督は死去。名古屋シネマテークでも6月に追悼上映が行われ、蓮實重彦氏が講演を行った。その後、4夜にわたった小川監督の講演に、この蓮實氏の講演、さらには詳細な講演の訳注、略歴などもまとめた大著として、1993年10月6日に『シネアストは語る―5 小川紳介』が上梓された。
 この本に先立つ、1992年10月10日、シネ・ヌーヴォの前身である「映画新聞」により『小川紳介を語る―あるドキュメンタリー監督の軌跡』を上梓。また山根貞男氏編集による『映画を獲る―ドキュメンタリーの至福を求めて』も1993年に上梓。この2冊と『シネアストは語る―5 小川紳介』の3冊は、小川紳介を巡る連動する企画として大いに注目される出版だった。


 
 ただ配給された作品を名古屋の地で上映するのではなく、志を持って「見たい映画の上映」にこだわった名古屋シネマテーク。それは上映だけでなく、映画を「製作→上映→批評」のサイクルで捉え、より映画の活性化に向けた運動体であらねばならないという考えからだった。
 名古屋シネマテークが2023年7月、最終企画として「特集/土本典昭監督と小川紳介監督」に続き、「原一男特集」を開催。7月22日から閉館日となった28日までの7夜にわたって「原一男《CINEMA塾》」を開催。かつての小川監督の4日を超える7日連続の原監督の講演は、まさに名古屋シネマテークの最後の企画にふさわしい。願わくば、この講演の記録を『シネアストは語る―6』として出版してほしいと願わずにはいられない。
 
 名古屋シネマテークの数万冊にのぼる膨大な映画書は高崎シネマテークに寄贈された。絶版された珍しい映画書も数多く、東京近郊の新たな映画の殿堂になることだろう。そして、『名古屋シネマテーク叢書』はシネ・ヌーヴォに寄贈され、本書の売り上げは、「シネ・ヌーヴォFROM NOW ONプロジェクト2023」への支援となる。名古屋シネマテークは閉館しても、その魂は、これからも受け継がれる。ぜひ、皆さまに購読をお願いしたい。
 
「名古屋シネマテークさんより『シネアストは語る』全5巻をご寄贈いただきました。」の記事はこちらです。https://note.com/_cinenouveau_/n/n99c2340e4b5f

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