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「モンクバッグ(monk bag)」製作日誌:草木染編03-ここから生まれる色

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長野県は大町市、美麻地区。
豊かに広がる緑、北アルプスから湧き出る水に恵まれたそれはそれは美しいところです。

通る風、そよぐ木々と鳥の声、なんだか清々しくて気持ちがいい。
そんな場所で、モンクバッグを綺麗に色づけていただきました。

▼「solosolo」さん

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すでに何度かsolosoloさんについてお伝えしてまいりましたが、
モンクバッグを染めていただくsolosoloのお二人について改めて簡単にご紹介。

田澤康彦さん(写真左)と苺禾さん(写真右)。
染色家の康彦さんと、デザイナーの苺禾さんの草木染のユニットがsolosoloさんなのです。北アルプスの美しい水と薪で煮出し、優しく瑞々しい草木染の作品を生み出してらっしゃいます。

薪割や染料採集、製作の細やかな部分まで見せていただき、お伺いすると柔らかいお二人の空気感にすっかり心が満たされて美麻を後にするのです。いつも丁寧に草木染のことを教えていただき本当にありがとうございます!

solosoloさんでは、毎月1-6日アトリエオープンもおこなってらっしゃいます。
詳しくはこちらからご覧いただけます◎


本日は、染色を行う康彦さんに製作の様子を見せていただきましたので、早速ご紹介してまいりますね。

舞台はこちら。

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左手には大きなシンク。右手には、自らわった薪で火を焚くかまど。
もともとお料理の仕事をされていた康彦さん。「ざっくり使えるキッチンをイメージしました」とのことで、おお、確かに火も水も寸胴鍋もあって冷蔵庫があればここはもうレストランかも…!

▼草木染ってどうやって染めるの?


01:染液を煮出す

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今回染めに使用するのは、ヤシャブシの木と実と葉。
こちらは、煮出した後の状態です。モンクバッグの色出しに使ったヤシャブシの総量は7.4kgとのこと。前回の草木染編でもお伝えした通り、こちらはすべて地元の里山から採集してきたもの。こんなに沢山、ありがとうございます…!


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煮出して色を出した後の実は虫がでないのでリースづくりに良いのだそう。窓辺に並べられたヤシャブシがかわいい…

02:精練(せいれん)

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通常ここでは精練(せいれん)とよばれる染まりやすくする工程を踏むのですが、今回、モンクバッグに使用している生地はキナリのまま糊付け無しで不純物もすでに取り除かれた生地になりますので、精練の工程はスキップ。
乾いたまま染めるとムラになってしまうので、全体を水に濡らしてよく脱水します。

03:染め

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モンクバッグにはポケットがたくさん。
空気が入ると染めムラができるので、空気が入り込まないようにひとつずつ染液のなかに漬けていきます。
ギチギチには詰め込みません。生地が鍋の中で泳ぐくらいに。
染め時間は生地によってまちまちですが、今回は密度もあり糸も太い生地を使用しているのでじっくり一時間。

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ときおり薪を足しながら。

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バッグはこれまたお手製の木の棒で液のなかに沈めます。
鉄媒染・茜・黄色系の染料で使い分け。

04:媒染(ばいせん)

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ここで登場するのがすっぱい香りの液。お酢のようなツーンとする感じです。成分としては鉄錆のお水。これが媒染液(ばいせんえき)です。

染液のそのままでは水溶性のものなので、水にさらすと色はほとんど抜けてしまいます。これを鮮やかに発色させ、さらに定着させるのが媒染の工程。

この媒染の工程がまた面白いのです。
よーく見ていてくださいね。

こちらが媒染前。一回目の染めが終わった状態。
ほんのりベージュに色づいています。

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それを媒染液につけると…

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じわ~っとグレーに。なんという不思議。

これ、どういうことなのかと言いますと生地に染み込んだ色素と、媒染液の金属イオンが反応して繊維に定着しているのです。

この媒染に使われるのは鉄だけではなく、ミョウバンに銅媒染もあって、それぞれ反応した時の色が異なります。

ヤシャブシの場合だと、、、
ミョウバンだとベージュ。
銅だとくすんだベージュ。
鉄だとグレー。

そう、あくまでヤシャブシの場合です。組み合わせる染料によって媒染後の色は異なります。

そしてさらに、染料を採集する時期、染料の新鮮さでも色に差がでてきます。

あとは染料の濃度であったり染めの時間だったり、、

ここまで聞いて、掛け合わせの膨大さに私は若干クラクラしてきました。
この色は、いろんな条件が重なった今この瞬間から生まれる色なわけです。

なんとなんと、康彦さんは以前、青島左門さんという芸術家さんの依頼で茜・藍の二種類の染料を使って50色もの色の表現をしたことがあるそうで。
掛け合わせる組み合わせで、色が変化する。その揺らぎも草木染の魅力の一つだと思います。なんだか、運命的じゃありませんか。

04:洗い

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30分ほど媒染液に付け込んだのち、水ですすいで脱水します。さっきまで、キナリ色で、ベージュになって、いまはもうグレーなのです。

05:再び染めて媒染

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脱水したら再び、染の鍋に移します。
脱水をしたらまた01の染液で染めていき、媒染し、すすぐ工程を合計三回繰り返します。繰り返すことで、イオンの結合を強固にし色を定着させます。
一回目の媒染、脱水を終えて二回目のモンクバッグが染液に入るとたちまち染液の色が変化します。
これは、すすぎを経てもバッグに鉄の金属イオンが残っているためです。

06:染液にひたす

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朝に沸かした染液につけこみます。
時折かばんをひっくり返したりしながらこちらも染めムラのないように。
「煮物のように冷ますことで味を染み込ませるのと一緒ですね」と康彦さん。刻んで、煮て、漬けて。草木染とお料理って通ずる部分がたくさんあるんですね。

05:できあがり

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お水ですすいで、脱水をしてよく乾かしたら出来上がり。
ただのグレーという言葉では表現しきれない、深みのあるグレーに仕上がりました。

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モンクバッグ第一弾の草木染では、ソヨゴの銅媒染(写真左)と、ヤシャブシの鉄媒染(写真右)で染めていただき、キナリ色と合わせて三色展開となっております。

ここから生まれる色が、みなさまのお手元でそれぞれの環境で使われてお手入れされることで、また二つとない色に仕上げっていくのでしょう。同窓会を開きたいくらいです。「ああ、君面影はあるけど雰囲気変わったね」とか。

移ろいゆく色味も、草木染の楽しみ。
お手入れ方法なんかもまたお話しできればと思います。

それでは、


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