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「モンクバッグ(monk bag)」製作日誌:ウッドリング編04-まるい木の輪

みなさまこんにちは、イトウでございます。

本日はいよいよウッドリングの製作工程に迫ってまいります。

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この丸い木の輪っかがどんな風に出来ているのか想像できますか?

私は、あのドーナツの形状に自動で切り出してくる機械ががあるのかと思っていたのですが、工場を訪れてみると全工程が職人さんの手作業によって行われていたのです。


お邪魔したのは、春の良く晴れた日。
木曽谷にも暖かい光が差し込みます。

酒井産業さんから歩いてすぐのお蕎麦屋さんで山菜の天ぷらのざるそばをいただいて、まずは腹ごしらえをば。常連さんの会話の聞こえる和やかな雰囲気、すぐそこで採れたんですというフキノトウの天ぷらの緑が輝いていて、もちろんお蕎麦も美味しく素敵なお店でした。
気分は木曽路を行く旅人です。



そうして出発した酒井産業さんから、木曽谷をさらに1時間ほど南下したところに楯木工製作所さんはあります。

▼楯木工製作所さんについて

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木曽谷の南端、南木曾に位置する楯木工製作所さん。
特に組子細工を得意とする三代続く建具屋さんです。

▼組子細工って?

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写真は、楯木工製作所さんの事務所に置かれていたミニチュア組子細工。
色んなパターンの模様がありますね。

あ!なんだか見覚えが!という方もいるでしょうか?
和室の障子や襖の上にある、「欄間」と呼ばれる部分に使われているのを見たことがある方もいるかもしれません。

この組子細工とは、釘などは使用せず木のパーツを削り、組付けて無数の幾何学模様を表現する日本の伝統的技術。
隙間なくきっちりと合わさった継ぎ目は、全体に馴染んで一体となり繊細な文様を形作ります。

最近では和室が減ってきていることもあり、欄間自体見かけることが少なくなってきましたが、楯木工製作所さんでは伝統の技術と最新の技術を融合させて現代の暮らしにもマッチする組子細工の作品を生み出しています。

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そんな作品の一つがこちら。
「C60 PENDANT LIGHT」
C60とは炭素原子60個がサッカーボール型に集まってできた奇跡のような美しい分子。
「バックミンスターフラーレン」とも呼ばれるこの形に組子の技術を落とし込んだのがこのライトです。
六角形の部分には組子細工、五角形の部分にはレーザー加工機で彫刻された麻の葉模様があしらわれています。

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レーザー彫刻されたものは、光にかざせば透ける薄さ。
ライトとしても温かい灯りを落としてくれます。
和の伝統技術をふんだんに使用しているのに、不思議とモダンさも兼ね備えています。

あとは、過去にはこんなところにも組子細工が潜んでいたそうなんです。

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SANSUIのスピーカーです。
スピーカーグリルの部分が組子細工で出来ています。
とても手の込んだ贅沢なつくりですね。


その他にも、現在は組子細工を盛り込んだ、テーブルや衝立、ランチョンマット、初代から受け継いだ曲木の技術を活かした作品なども手掛けています。

そんな楯木工製作所の組子細工に欠かせないのが木曽桧。

▼木曽桧

今回モンクバッグに使用するのは桧ではなくコナラの木なのですが、木曽のお話をする上で桧のことは切っても切れないのでちょこっとご紹介させていただきますね。

日本最古の木造建築・法隆寺の柱にも使用されている木曽桧。
寒さの厳しい木曽の地で、ゆっくりと時間をかけて育った桧の年輪は目が細かく美しい光沢を持ち、古くから良材とされてきました。

しかし戦国時代以降、神社仏閣の建立に木材が使用され木材需要が高まると、全国的に森林が乱伐されることになりました。
木曽も例外でなく、森林資源が枯渇状態に陥ります。

そこで江戸時代には厳しい森林保護政策が布かれることになり、「ヒノキ・サワラ・アスナロ・コウヤマキ・ネズコ」の木々は木曽五木としてその伐採を禁止されることになりました。

「木一本、首一つ」
と言われるほど禁止木を切ったものの罪は重く、五木は大切に保護されました。(ハンムラビ法典より怖そうです。)

そんな歴史を持ちながら、現在まで土地の名産として名高い木曽桧となっております。


▼ウッドリング製作工程

さあ、いよいよウッドリングの製作工程に迫ってまいります!


ウッドリングに使用するのは6年以上しっかりと天然乾燥された、コナラの木。アファンの森に光を落とすために伐採された間伐材です。
木片を手に持ってみると、しっかりと乾燥しているのにずっしりとした重みを感じます。

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01:製材・マーキング

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まずは樹皮がついたままでやってきたコナラの木を、板状に切り出し、さらにレーザー加工機で丸いガイドを焼き付けていきます。
割れや、節、虫食いは無いかなど、この板を切り出して見極める工程が一番大変だそう。
この工程を見誤るとせっかく手間暇かけた製品に割れがでてしまったり、時にはきちんと見極めて加工したものでも割れが起こってしまうことも。
自然のものを扱うということは、一筋縄ではいきません。

03:内径を切り出す

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先ほど、マーキングした中心と円盤の中心を慎重に合わせて、
ボール盤と呼ばれる機械で内径をくりぬいていきます。
コナラの木は密度があって堅いのでゆっくりと刃を沈めていきます。

04:内周の角をとる

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先ほどくり抜いた内周に、トリマという機械をあてて角をとって滑らかに仕上げていきます。

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手前がトリマ前、奥がトリマ後。角が滑らかになっていますね。

05:外周の切り出し

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続いては帯ノコで外周を切り出していきます。
曲線をじっくりずれないように。見ているだけで息が止まりそうです。
一枚の繋がった木の板から、一つ一つの粗削りの輪っかになります。

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06:外周を整える

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外周を真円に近づけるため、外周をすこしずつやすり掛けしていきます。

07:外周の角をとる

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再びトリマを使って外周の角を削ります。
裏表、ひっくり返してきれいに面取りしていきます。

08:丸くしていく

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ここからは手作業でサンダーで丸く仕上げていきます。
はじめは平面の残された段階からドーナツ状へ。
なんとリングのまあるいカーブは手作業でつけられていたんですね。

やすりの目の粗いものからはじめて徐々に目を細かくして滑らかに。
機械の入らない内径の部分は全て手作業でやすり掛けが行われて、こんな風に一点一点ウッドリングが成形されています。

驚くほどに丁寧な手仕事。
機械はあれど、もちろん機械だけでは何の仕事もしません。
人の目、人の手が入って一つの作品が生み出されます。

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▼余談ですが

見学の後、ふと見ると工房の隅に子供用の椅子が。

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背もたれには平成24年と書かれたシールが貼られています。
ということは2012年製、9年前に作られた椅子が修理の為に楯さんのもとに戻ってきました。

地元の小学校で使用されているこの椅子は、楯木工製作所さんのデザイン。
木材には樹齢300年のヒノキを使用しています。

どんなにお金を払っても、300年という時間は手に入りませんからその桧のもつ価値は計り知れないものがあります。

座っている今はまだその価値に気が付かないかもしれませんが、いつかそのありがたみが分かった時にまた自分の故郷を好きになるんだろうな、とにんまりしてしまいます。

木曽に息づく木の文化。
その歴史に裏付けられた確かな職人業をもってウッドリングは作られています。

忙しい製作の合間にウッドリングの製作工程を見せていただいた楯さんにはこの場をお借りして感謝申し上げます。

楯木工製作所ホームページ




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