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「モンクバッグ(monk bag)」製作日誌:帆布をひもとく-前編

みなさまこんにちは、イトウでございます。

現在、纏うカバン「モンクバッグ(monk bag)」を制作中です。
そのカバンに使用するのは、日本国内でやわらかに織り上げられたオックスフォード生地。
岡山県の帆布メーカー、タケヤリさんで織られた生地になります。

今回、生地の生産の様子を見学に行ってきたのですが、その世界にすっかり魅せられてしまいました。
まずは前編として帆布とタケヤリさんについて、後編で纏うカバンに使用する備前コーマオックス生地がどんなふうに作られているのか手順を追ってお話させていただきますね。

▶そもそも帆布って?

恥ずかしながら、わたくし帆布の読み方を知ったのはそう昔の話ではありません…
私のお仲間のため、念のため「はんぷ」と読みます。
英語だと、CANVAS(キャンバス)ですね。

文字通り、船の帆に使用されたことが帆布の起源といわれています。
一般的にその定義は、綿糸や麻糸を使い平織りされた厚手の生地のこと。
糸を撚り合わせる本数や密度をかえることで1号~11号までその厚みを変化させます。
1号~11号、数字が小さいほど厚く、大きいほど薄くなっていきます。
特に1号~3号の極厚の帆布を織りあげるのは難易度が高く、国内だと倉敷でしか見られない技術なんだとか。

歴史を遡れば古代エジプトから人間の生活に寄り添ってきた帆布生地なのですが、
きっとみなさんも例外でなく暮らしの中で手に触れたことのある生地のはず…
メジャーどころであればトートバッグ
相撲のまわし
柔道着のズボン
跳び箱の上段の座面
体育館マット
なんと目に見えないところだと電線の中にも使用されているそうです。

跳び箱の上段が帆布と知ったとき、ひんやりと手になじむあの感触が一気に蘇りました。
トーンとジャンプして触れるほんの一瞬のことなのに感覚の記憶ってこんなに残るんですね。
もうずっとずっと昔の小学生時代のことなのに、不思議です。

▶倉敷帆布

そんな帆布の国内一大産地が岡山県倉敷にあります。

温暖な気候や豊富な水源に恵まれ、綿花の栽培が盛んに行われたことから
撚糸や機織の技術がこの地で発展していきました。
現在では帆布の国内生産量の約70%がこの地で生まれています。

帆布以外にも岡山といえばデニムもありますよね。
帆布だけでなく綿織物の生産が強みの地域です。

▶日本最古の帆布工場「タケヤリ」さん

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その始まりは1888年(明治21年)、今から133年前のこと。
(だいぶ昔のことなので、ちょっと想像つかないなあと1888年に起こった出来事を調べたところ画家のゴッホが左の耳たぶを切り取った年だとか。日本では翌年の1889年に大日本帝国憲法が発布されます。)

農業や行商をしていた武鑓石五郎、機織りの名手である梅との結婚を機にタケヤリさんの歴史が始まりました。
角帯や、足袋の底地の生産を皮切りに、現在では老舗の帆布工場として国内外に生地を送り出しています。

タケヤリさんでは先にご紹介した、1~3号の極厚帆布を含め、
1号~11号の全ての帆布製造を手掛けています。

ちなみに、1号帆布がどれくらい厚地なのかというと、
厚み約1.5mm、重さは一平方メートルあたり約1キロほど。
触った感覚としては、これなら命を預けられると思うほど安心感のある素材です。
馬具の基布に使われているというのも頷けます。

タケヤリさん製品一覧から一号帆布の厚みをご覧いただけます。
http://takeyari-tex.co.jp/company/product/index.html

▶ベルギー製シャットル織機「ピカノール」

そんな極厚帆布を織りあげるのに欠かせないのはベルギー製シャットル織機ピカノール。
*シャトル織機とも表記されますが、今回はタケヤリさんの表記に倣いシャットルと記載されていただきますね。

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40~50年前に輸入されて、職人さんの手によって、修理、調整されながら今に至るまで現役で働き続けているそうです。

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織機自体が希少な為、パーツが大切に保管されています。

本国ベルギーでも生産停止となっており、他では類を見ない旧式のシャットル織機ですが
この織機で織りなされる、不均一な表情が他にはないやわらかな風合いに繋がっています。

帆布という生活に根差した素材、旧式の織機。
昔ながらを守りぬいてきたプライドは現代を生きる私たちの胸に響くものがあります。

私たちのカバンに使用する生地も、このピカノールのシャットル織機で織られたものになります。
次回は、糸の段階から生地になるまでをお届けしますね。

それではまた、

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