見出し画像

俳句幼稚園 君の名は

バイト先にサナと呼ばれていた子がいた。
メイクを秤に乗せたら多分10gは余裕でありそうな
フルメイクの子だった。
つけまつげも2枚重ねだし。羽音がしそう。

いつもお高めブランド服を着て外車に乗る彼女は
社内でも浮いていた。
仲のいい子も派手目だったけど、遥かに上回る子だった。
出社日も時間も不定期な、
正社員なのかアルバイトなのか謎な彼女は
話によると、どうやら社長の彼女らしい。
夜もキャバクラでバイト?をしているという話を聞いて
まあ、何もかも納得だった。


そんな接点無さ過ぎの彼女に
仕事を急遽手伝ってもらう事になった。
お願いしたい内容を伝えると
気さくに「良いですヨン」と返事を頂く。

仕事もひと段落ついたときはお昼。
滅多に現れない社長が事務所に出てきた。

「サナ、昼食べるだろ?」と呼びに来る。
「何処ぞのさんも」と言われ能面になる。

入ったのは近所の定食屋さんだったのは意外だった。
自分は実はお昼を食べる習慣がない。
そして社長が「A3つ」と頼むので、不安しかない。

どんぶりの山盛りのご飯と焼き魚と唐揚げに
小鉢にはホウレンソウと切り干し大根
お味噌汁はデフォ。

ご飯をみてたじろぐ自分に彼女は
「ご飯、大杉。」と言ってどっから出した?タッパーにご飯を詰める。
そして空になったどんぶりに自分の目の前のお茶碗から
ご飯をどんどん引き取っていく。

へえ、良い子じゃん。と思った。
彼女は「粗末はダメ。ホントダメ。」と言う。
食事も終わり、そそくさと事務所に戻ると
作業は続いていたが、トイレに行った彼女は戻らず。
まあ、想定範囲内だったので特になにも思わず。


翌日彼女が声を掛ける。
「何処ぞのさんメンゴ~。昨日誕生日だったのぉ」
少々酒臭い息だったが、まあ、そんなもんでしょと
軽くうなづいておく。なにせ社長の彼女だし。


その後来なくなり、いつしか忘れかけていた頃
彼女の私物と履歴書がロッカーに放置されていたのに
気付く。

履歴書を見る。写真のモリモリメイクには驚かず。

だけど名前は予想外だった。

青田 早苗


象形文字よろしく書かれた連絡先の住所は米どころで有名な県だった。




千々に去りたわむ時待つ苗代や
ちぢにさり たわむときまつ なわしろや


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?