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『グッドガールズ:崖っぷちの女たち』 不倫された主婦がギャングになって失ったもの

by キミシマフミタカ

「ブレイキング・バッド」主婦版と言えばいいのだろうか。崖っぷちに追い込まれた主婦3人が、その状況から抜け出すため、決死の覚悟でスーパーを強盗する。でもそのお金(予想外に多かった)はギャングの裏金で、それをきかっけに平凡な主婦たちが、ギャングと組んで悪事(マネーロンダリング)に手を染めはじめる。

4人の子供を持つ主人公のベスは、中古屋を営む夫に貯金してきたお金を使い込まれ、不倫され、住宅ローンが払えない。その妹のアニーはスーパーのレジ係で生活が苦しく、離婚した裕福な夫に一人娘の親権を奪われそうになっている。もう1人のルビーは黒人で、夫は安月給の警官、娘の臓器移植の手術代がなくて困っている。

確かに、みんな崖っぷちだ。だからといって、スーパー強盗をしてもいいのか? という疑問はあるのだが、案の定、ギャングに弱みをつけ込まれ、悪事を続けるはめになる。抜け出すタイミングもあるのだが、それをしないのは、意外にも彼女たちが “犯罪を楽しんでいる”からだ。
 
主婦たちの逆襲という、ともすれば陳腐な展開になりそうなドラマが、危ういところで回避されている理由は、3人の女優たちの個性なのだろう。主人公ベスを演じるクリスティナ・ヘンドリックスは、1960年代の広告業界を描いた名作ドラマ「マッドメン」でセクシーな(?)な女秘書役を演じていた。このドラマでは本領を発揮、堂々の主役だ。

ベスは一度、悪事から足を洗おうと決断したときがある。けれど、ママ友と公園で子供たちを遊ばせながら、PTAの話をしているとき、彼女は突然、虚しさに襲われる。それまでの日常生活が、なんと刺激のない退屈なものだったのか、気づいてしまうのだ。失った物は既に色褪せている。彼女は後戻りすることをやめ、自分らしく生きる道を選択する。

「ブレイキング・バッド」で主人公がそれに気づくのは、長いドラマの終盤だった。犯罪に巻き込まれ、にっちもさっちもいかなくなったのは、すべて退屈な自分の望んだことだったのだ、と。だがこのドラマでは、シーズン1の途中で、主人公がそれに気づいてしまう。だから「グッドガールズ」はある意味で「ブレイキング・バッド」の続編なのだ。
 
ドラマが進むにつれ、目の前にある危機が回避できたと喜んだのもつかのま、彼女たちは新たな崖っぷちに直面することになる。そして自分たちの人生が、大きな音を立てて変わっていくことを受け入れざるを得なくなる。運命が自分たちの手のひらから溢れ出す。

最後のシーンは、シーズン2へと続くクリフハンガー(人物が危機や驚きに遭遇したところで物語を中断すること)が仕掛けられている。秀逸なドラマの定石であるサスペンスを維持しながら、主婦たちの葛藤を絶妙なバランスで描く「グッドガールズ」。ベスの妹役のメイ・ホイットマンの明るいキャラクターが、深刻になりがちな物語を救済している。

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