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「トラベラーズ」 もし人生がタイムラインのひとつに過ぎないのだとしたら

by 君島史隆

滅亡の危機にある未来から、生き残った人類が21世紀に送り込まれてくる。歴史を書き換えることで、滅亡する未来を救おうというプロジェクトだ。そんな予備知識だけを持って見始めた「トラベラーズ」。正直、最初の2〜3話でB級SFかもと思っていたが、シーズン3の最終回まで引っ張られてしまった。独自の世界観があったからだ。

未来からの訪問者という図式はありきたりだが、このドラマの未来人たちは、死ぬ運命にある人々に意識を転送する、という特異な方法を取る。送り込まれたチームは、FBI特別捜査官、知的障害を持つ女性、フットボール選手の高校生、虐待されているシングルマザー、ヘロイン中毒の大学生などに“憑依”して、極秘裏に人類を救う任務を遂行する。

指示はすべて未来のAIである“ディレクター”から送られて来る。人類はAIに未来を委ねてしまったのだ。だが、このドラマで未来の姿が描かれることはない。滅亡の危機にある地球がどのような姿であるかは、彼ら自身の口から語られるだけだ。その“ディレクター”に反旗を翻すトラベラーたちとの戦いが、物語のもう一つの軸になっている。

だが、こうしたSF的な筋書きよりも、このドラマが大人の視聴に耐えられるのは、トラベラーたちが、宿主の人生をどのように生きていくか、ということに多くの焦点が当てられているからだ。次々に与えられるミッションを遂行しながら、彼らは、彼らが未来人とは知らないパートナーたちと、21世紀を真摯に生きて行かなければならない。

たとえば、FBI特別捜査官であるグラント・マクラーレン(エリック・マコーミック)は、妻との葛藤に悩んでいる。“転送”以前の記憶がないマクラーレンは、ときおり会話が成り立たなくなり、妻はマクラーレンが“別人”になったのではと疑っている。その葛藤は、じつは未来人でなくても起こりうる。そもそも、いま目の前にいる人間を形成しているのは、いったい何なのか? 人格とは、必ず記憶を伴わなければならないのか?
 
数あるエピソードの中で、一番好きなのはシーズン2の第7話。人生の成功するタイムラインに辿り着くまで、出来事が何度も上書きされるという話で、そのもどかしい感じに、なぜかはわからないが、強烈な既視感を覚えた。シーズン3の最終回のエピソードは、これまで見て来たNetflixのドラマの中でも秀逸だと思う。新シーズンを見たいとも思うが、制作予定はなさそう。今回のタイムラインではここで終了がいいのかもしれない。


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