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『メンタリスト』 殺人鬼に妻と娘を殺されたパトリック・ジェーンの幸福

by キミシマフミタカ

パトリック・ジェーンになりたいと思う。出自は、巡回サーカス団。サーカス団仲間の娘と結婚して女の子が生まれるが、連続殺人鬼“レッド・ジョン”に愛妻と娘を殺されてしまう。その過去はとても悲しいが、物語はその後からスタートする。これは彼の“レッド・ジョン”に対する復讐劇であり、また復讐の後も続く人生を描く151話の物語である。

メンタリストという名の通り、ジェーンは人の心理を巧みに操る。目的は“レッド・ジョン”への復讐だが、並行して捜査本部に協力して事件を解決してゆく。武器は、ゴージャスな笑顔だ。邪気のない顔で微笑むと、たいていの人間は警戒心を解き、女性たちは好感を抱く。操られているのを知ると激怒するが、逃げ足が早いので被害にあわない。

捜査チームは、そんなジェーンが大好きだ。いつも彼の勝手な行動に振り回されるが、結果的に犯人を捕まえてしまうので、次第に敬意を払うようになる。なによりも、憎めないゴージャスな笑顔である。愛飲する紅茶(コーヒーではない)を啜り、ソファに寝転びながら犯人を言い当てるジェーンのことを、快くは思わないが、認めざるを得ないのだ。
 
上司のリズボンは、そんな自分勝手なジェーンのことを「ほんとにもう!」といつも怒っているが、じつは心を寄せている。彼の悲惨な過去を知っていて、彼の心の痛みを、自分の痛みとしても感じている。そしてなんとかしてあげたいという思いが、やがて愛にかわり、彼を失うことが耐えられなくなる。なにしろ、笑顔がゴージャスだから。

シーズン8にも及ぶ大人気シリーズについて、気の利いた批評をするのは難しい。パトリック・ジェーンになりたい、という阿呆のような感想しか浮かばない。誰もが人に言えない闇を抱えている。でもそれを隠しながら、軽やかに課題を解決したいと願う。正しい評価は得られないかもしれないが、理解してくれる友人たちがいて、闇からの離脱を支えてくれる女性がいる。その理想の女性は、じつは一番身近なところにいるのだ……。

復讐を遂げた後の、ドラマの展開がどうなるかが心配で、少し間延び感があったのは否めないが、後はもう、ジェーンとリズボンの恋の成就を見守るだけだった。思えば第1話を見たのは、もう5年くらい前、DVDを借りて見たのが最初だった。昨日、Netflixで最終話を見終わり、心が痛んだ。物語が終ったことに対する悲哀ではなく、5年前の自分が、あまりにもパトリック・ジェーンとかけ離れた存在だったことに気づいたからだ。


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