ルディレイムーア

『ルディ・レイ・ムーア』←このタイトル失敗でしょ

by 輪津直美

原題は、「DOLEMITE IS MY NAME」だそうだ。日本タイトルは「ルディ・レイ・ムーア」だが、日本人でこの人のことを知っている人が何人いるだろうか。それどころか、これが人の名前だとわからない人もいるのではないか? なぜわざわざ日本向けにタイトルを変えたのか。どうせ誰も知らないんだから、原題を生かして「俺の名はドールマイト」とかでもよかったのではないか? 個人的にはこっちの方が見てみたい気になる。

ところで、ルディ・レイ・ムーアとは誰なのか。

簡単に言えば、ラップの元祖で、アメリカの綾小路きみまろで、黒いエド・ウッド(ただし成功した)なのだ。おわかりいただけただろうか? って余計わからないか。

とにかくこの人物は日本での知名度が低すぎるし、英語の、それも黒人の弾丸トークなんていうのも日本人にはハードルが高すぎるので、たとえ主演がエディ・マーフィーでも一般公開しないのは正解であった。

エディーマーフィーが名調子で下ネタを連発するから、それはもうアメリカの黒人の間では大爆笑なのだろうが、こっちはその10分の1も楽しめていないと思う。いや、でもビバリーヒルズコップはすごく笑えたよなあ。なんでこれは笑えないんだろう。

多分、彼が歳をとったからだろう。これはコメディアンの宿命だ。ほとんどのコメディアンが反射神経と頭の回転と体の動きがいい若い頃に全盛期を迎える。

ビバリーヒルズ・コップを見返してみたら、やっぱり全然違う。キレッキレだ。芝居もすごく上手い。今はよく言えば味が出てきたが、昔のようなキレはなくなってしまった。

話を戻すが、この映画、一言で言えば(以下ちょっとネタバレ)、しょうもない下ネタをマシンガントークで披露するコメディアンが、ただのスタンダップコメディアンでは飽き足らず、自分が主演の自主映画を作るという話である。

自分のネタが下品すぎて公共の電波に乗せられない(よって自主制作のレコードを売りまくっている)ので今ひとつメジャーになれない。だから、なんとしてでもビッグになるために、金もコネも経験もないのに主演映画を作るという、バカだがエネルギーに溢れた人物の話なのである。

お金がないから、スタッフには大学の映画学科の学生しか雇えない。それでいて、「ローズマーリーの赤ちゃん」にも出た一流黒人俳優(ウェズリー・スナイプスが演じる)や、真面目な大学教授兼舞台脚本家を口八丁で口説き落として無理やり引き入れる。

途中まではよくあるサクセスストーリーなのかと思ったのだが、後半は映画作りの話になっていて、映画好きには後半の方が面白いかもしれない。滲み出る映画愛に、ちょっと「カメラを止めるな」を思い出した。それから、ウェズリー・スナイプスのセリフに「一緒にローズマリーの赤ちゃんに出たジョン・カサヴェテスってやつがくだらない映画作ってる」みたいなセリフがあって、グッときたのは私だけではないだろう。ちなみに、映画好きの方はご存知だと思うが、ジョン・カサヴェテスは「インディペンデント映画の父」と呼ばれている名監督で、元々は俳優だった人である。

映画の最後に、実際の映画「DOLEMITE」が数シーン出てくるので、それを楽しみに最後まで見て欲しい。




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