見出し画像

『ナルコス』シーズン1・2 度肝を抜くコロンビア麻薬王の生涯

by 輪津 直美

このドラマを1話で断念してはいけない。私は第1話を観てがっかりし、何か月も放置してしまったのを後悔している。

「ナルコス」は、コロンビアのコカイン密売組織「メデジン・カルテル」とそのトップ、パブロ・エスコバルを描いた実録ものである。

かつてコロンビアとは、極東の地にいる日本人にとっても「麻薬がはびこる怖い国」という認識があった。誘拐が横行し、左翼ゲリラが暗躍しているというイメージもあった。このドラマは、その時代の中枢にいた麻薬王パブロ・エスコバルが、左翼ゲリラ、ノリエガ政権のパナマ、共産主義政権のニカラグア、バスク地方の過激派組織ETAなどを巻き込みながら商売を大きく広げ、コロンビア政府、アメリカ麻薬取締局(DEA)と戦う話である。

第1話はエスコバルがコカインビジネスでのし上がっていく話で、主人公とその背景のいわゆる説明回だ。だからそれほど面白くはない。第2話からアメリカDEAが登場し、本格的に話が展開していく。

当時アメリカはレーガン政権であった。彼は俳優時代の赤狩りで、マッカーシーに仲間を大勢売った人物であり、大の共産主義嫌いである。そのため、CIAなどには南米の麻薬取引ルート撲滅よりも、共産主義者撲滅の方に多額の予算が行っていたらしい。ドラマでは、DEAによる予算獲得の苦労が描かれている。結局は、エスコバルの存在があまりにも大きくなりすぎて、予算も十分に回ってくるようになるのだが。

エスコバルはマイアミを拠点として稼ぎまくり、1989年のForbes誌で世界の富豪7位に選ばれ、一時は大統領を目指して国会議員になったほどの野心家であった。しかし、過去の悪事が暴かれて議員を辞職させられ、反カルテルの新大統領が当選すると、エスコバルの怒りの矛先は政府へと向かった。そして、コロンビアは血で血を洗う「内戦」へと突入する。

殺戮を繰り返したのはメデジン・カルテル側だけではない。大勢の部下を殺され、復讐心に燃えるカリージョ大佐もまた、マフィア顔負けの残忍さでエスコバルを追い詰めていく。

ドラマでは時折、実際のエスコバルの演説映像や、惨殺された遺体の写真などが挿入される。凄惨なバイオレンスシーンもこれでもかと登場する。実録ものは得てして盛り上がりに欠けがちになるが、ナルコスでは緊張感を維持しつつ、バイオレンスと人間ドラマがバランスよく描かれている。これは、エスコバルが持つ信じられないエピソードの数々を、腕のいい脚本家と演出家が上手く料理した賜物だ。

俳優陣も頑張っている。映画「トラフィック」では麻薬取締官を演じていた名バイプレイヤー、ルイス・ガスマン(Luis Guzmán)が、今回はカルテル幹部の「ガチャ」を演じている。怖い顔だがコミカルな持ち味がある彼は、緊迫したドラマに一瞬の緩みをもたらす。DEAのラテン系アメリカ人、ハビエル・ペーニャを演じるペドロ・パスカル(Pedro Pascal)は、バート・レイノルズを髣髴とさせる色気を持ちながら、男の哀愁を背中で表現できる俳優だ。

実在の麻薬王、凄惨なバイオレンス、と、地上波ではとても放送できないネタを高いクオリティで制作できるところがNetflixの真骨頂である。これからもポリティカル・コレクトネスやタブーなど無視してぶっ飛んだ作品を提供して欲しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?