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「コミンスキー・メソッド」 高齢者になったマイケル・ダグラスが教えてくれること

by キミシマフミタカ

 人間は誰でも齢をとる。それはハリウッドスターも例外ではない。マイケル・ダグラスも然り。役どころは、演劇スクールの先生。一人娘が、その運営を切り盛りしている。3度の離婚歴があり、お気に入りの生徒(といっても50代?)に心を寄せる。親友は同年代のエージェント会社の社長。その親友の妻がガンで亡くなるところから物語は始まる。

 マイケル・ダグラスは、実年齢が74歳。しかし現役バリバリだ。最近、女優の蜷川有紀さんと再婚された、元東京都知事の猪瀬直樹氏も73歳なのだから、男性の若さとは、まさに生き方の問題なのだと思う。とはいえ、高齢者ゆえの悲哀や不自由さも丁寧に描かれ、頑固さに磨きがかかる親友とのドタバタ劇が繰り広げられる。

 シーズン1をイッキ見してしまったのは、純粋に物語が面白かったからだ。なにかすごい出来事が起こるわけではない。元有名な俳優の、前立腺に問題を抱える高齢者の日常生活が、淡々と描かれているだけだ。ときどきユーモアがあり、ときどきホロリとさせられる。だがリアリティは、そんな高齢者の自分自身を受け入れながら、でも諦めずに何かに抗おうとしているマイケル・ダグラスの、いい感じの表情にある。

 円熟味といってしまえば、身も蓋もないもないが、このドラマは、マイケル・ダグラスだからこそ成立しているドラマともいえる。たとえば、それがクリント・イーストウッドであっても、ジョン・トラボルタであっても、それなりのドラマになるのだろう。だがあの独特の、軽さと真摯さを醸し出せるのは、やはりマイケル・ダグラスだけだ。

 このドラマを見ながら、高齢者が決してやっていけないことを、つらつら考えた。思いついたのは、バスの中。高齢者は、バスが停留所に着く前に、決して座席から立ち上がってはいけない。それは、三浦雄一郎がエベレストに登頂するよりも危険なことだ。そこには、あなたの体調をチェックし、見守ってくれる医者などいない。傍らにいるのは、床にぶざまに転がったあなたを冷ややかに見つめる、他の高齢者の乗客だけなのだ。

 立ち上がらずに、じっと待つ。親友が側にいたら、それにこしたことはない。
 
 カッコいい高齢者になるのは、とても難しいことだと思う。ハリウッドスターであっても、かろうじてクリアできるレベルの高いハードルだ。あるいは役者だからこそクリアできるのか? ならば、人生は究極の演技の連続なのだと考える、それも一つの賢く生きる方法(メソッド)なのだろう。

 ちなみにこの作品で、マイケル・ダグラスは第76回ゴールデングローブ賞の主演男優賞を受賞、シーズン2の撮影も決定しているという。

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