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『ファーゴ・シーズン3』 真実はときどき、つくり話よりも偽物っぽい

by キミシマフミタカ

建物から出たところで、上からクーラーが降ってきて、頭をつぶされて死んでしまう。そんな話はできすぎていて、まるでつくり話みたいだ。誰もそんな話は信じないだろう。死んだ本人だって信じないに違いない。真実はときどき、つくり話よりも偽物っぽい。

ある知り合いが最近、某オンラインメディアに、自伝的な内容の記事を掲載した。その記事は主要なニュースサイトに転載され、万単位のPVを獲得、投稿数も千近くに及んだ。記事の内容は、偽りのない真実である。むしろ抑制して書かれてさえいた。

ここで、その記事の内容を詳しく言及するつもりないが、一言でいえば、ある女性の悲惨な人生の物語を描いたものだ。その記事に寄せられたコメントを読むと、多くの読者がその物語に心を動かされ、共感を覚えているようだった。だが、ある一定数の読者は、「なんだ作文か」「これはフィクションだと確信した」などと書き込んでいた。悲惨さが出来すぎているがゆえに、創作だと思ったのだろう。真実とは、そんなものだ。

コーエン兄弟が製作総指揮に名を連ねる「ファーゴ」のシーズン3。ドラマの冒頭に「これは実話をもとにしたストーリーである」というお馴染みの字幕が入る。今度の舞台は2010年のアメリカ・ミネソタ州。相変わらずの、魅惑的な「ファーゴ」的世界が繰り広げられる。「ファーゴ」的世界とはつまり、つくり話なのに、奇妙なリアリティを感じさせるものだ。あるいは“普遍的”なリアリティ? 人はときにそれを寓話と呼ぶ。

奇妙なことといえば、なぜかドラマを見終わっても、主演がユアン・マクレガーだと気づかなかった。ハンサムで家族思いの不動産王と、太鼓腹で髪の毛が薄い保護観察官。特殊メイクをほどこし、一人二役の怪演を見せている。しかもその後の報道によれば、第75回ゴールデン・グローブ賞のテレビムービー部門で、主演男優賞まで受賞している。そう言われれば、ユアン・マクレガーそのものなのに……。これもまた奇妙な真実だ。

主演に加えて、脇役のニッキー・スワンゴ役のメアリー・エリザベス・ウィンステッド、V・M・ヴァーガ役のデヴィット・シューリスも怪演している。登場人物たちは、それぞれ思い込みが激しく、その思い込みに盲従して、勝手気ままに行動する。その行動こそが、物語を奇妙な具合に蛇行させ、つくり話よりも偽物っぽい真実を生み出している。

シーズン3の最終話。視聴者は、真実がどこにあるのか、曖昧になる。マトリョーシカのように、真実と見えた内側に、また別の真実がある可能性が示唆されるからだ。そして結局、つくり話こそが真実なんじゃないか? と思えて来る。ドラマの冒頭シーンは、戦後の東ベルリンの取調室から始まる。一見、本編とは何の関係もないように見えるが、いま振り返れば、そのプロローグに、このドラマのテーマが暗示されていたのだ。

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