見出し画像

謀逆のウサギ島 第1話 帰還

コミュニケーションゲーム『あつまれ どうぶつの森』のプレイ結果をもとに創作した物語です。ゲームの画像を使用していますが、ストーリーはゲーム本来の文脈や時系列を無視して自由気ままに再構成しています。それぞれのどうぶつのファンの方は笑ってお許しください。

本文中の出来事はすべてフィクションです。実在の人物・団体・国家などとは一切関係ありません。


プロローグ

少女は何事もない穏やかな島で育った。しかし、ある日を境にその人生は一変する。革命が起き、島に内戦の火の粉が及んだのだ。村は炎に包まれ、少女は目の前で両親を失った。

それから数年後。島に戻ってきた少女を出迎えたのは野生のウサギだけであった。村は跡形もなく消え失せ、島は変わり果てていた。

ウサギ島という名の島がある。
今はなき王国の要衝ようしょうに位置する小さな島だ。
都の住人の中には「地図から消された島」と呼ぶ者もいる。


契約

話は数日前にさかのぼる。

村が戦火に焼かれてこのかた島を離れて暮らしていたわたしは町である噂を耳にした。なんでも、革命を避けて王都を逃れた大商人が密かに村の再建を計画しているらしい。

悲しい過去と決別し、もう一度昔の暮らしを取り戻したい。そう心に決めたわたしは思い切って商人のもとを訪れた。

わたしの名はすず

灯りもない部屋に姿を現した商人は貧相な小男だった。聞けば革命軍に財産を奪われ、着の身着のままで都を逃れて来たらしい。

しかし、したたかな商人の隠し財産をすべて没収することなどできるはずもなかった。残る財産をすべて賭けてでも村を再建してみせる。男は熱っぽくそう語った。

たぬきちと名乗る商人がなぜそこまであの島にこだわるのか、まるで見当がつかない。

わたしがためらいがちに再建への協力を申し出ると、商人は満面の笑みを浮かべて懐から契約書を取り出した。それを一瞥いちべつしたわたしは思わず尋ねた。いったいあの島になにがあるのか、と。

男の笑みが凍りつく。わたしはあわてて目をそらすと黙って契約書にペンを走らせた。

歓迎

移住の支度したくを整えると、わたしたちは水上機で島へ向かった。乗客はわたしと商人を含めて6名。機内では皆一様に無言だった。

島の上空に差し掛かると荒れ果てた島の様子がはっきりと目に入ってくる。かつて村があった場所には青々と草が生い茂り、島のあちらこちらにわずかばかりの真新しい施設が建てられていた。

そのひとつ、仮設の空港から島に降り立った一行は幻想的な光景を目にして足を止めた。島中に住み着く野生のウサギがわたしたちを出迎えたのだ。

わたしたちが近づいて行くとウサギは驚いて逃げ去り、その姿を隠した。遠くの木陰からこちらの様子をうかがうウザギたちに囲まれながら、一行はさらに島の奥地へと足を踏み入れた。

一行は商人に先導されて島の中程にある広場に到着した。広場にはすでに資材が運び込まれ、野営用のテントまで張られている。財産のすべてを賭けると言った商人の言葉は嘘ではないようだ。

わたしはそこで初めて島への移住者が自分の他にもいることを知った。

一人はシオンと名乗る女性。大柄で体格が良く、張りのある声で話す。年の頃は二十そこそこか。

もう一人はタケルという名の男性。筋肉質で引き締まった体つきは日頃の鍛錬の賜物だろう。年齢はシオンよりわずかに年下に見える。

笑顔であいさつを交わした二人だったが、いずれもこの島に来た理由を語ることはなかった。

沈黙

残る二人は大商人たぬきちに仕える双子の奉公人であった。名をまめきちつぶきちと言う。常にたぬきちに付き従い、その振る舞いはまるで大商人に絶対の忠誠を誓っているかのようだった。

たぬきちは他の移住者にテントを張りに行くよう促すと、わたしだけをその場に残した。わたしと3人の間に重い沈黙が降りる。

無言のまま突き刺さる視線に居心地の悪さを感じ始めた頃、たぬきちはようやく話を切り出した。

ここは無人島。ここでなにが起きても外部の人間にはわからないのだ、と。

つぶきちがその後を続けた。なにかしようとすれば我々にはすぐにわかる。その目はそう語っていた。

この島で一番の権力者が誰であるかはもはや言われるまでもなくわかった。わたしは来てはいけない場所に来てしまったようだ。全身の感覚がそう告げていた。

命名

事件はその夜に起きた。たぬきちが全員を広場に集め、団結式と称してき火を囲んでいたときのことだ。

たぬきちは唐突に島に名前をつけることを提案した。わたしたちが住む以上この島はもはや無人島ではない。ならば名前が必要だ、と。

島中ウサギだらけだからウサギじま。たぬきちはあまりにも安直すぎる名前を口にした。さすがにそれはないだろう。わたしは正直そう思った。

ところが、わたし以外の全員が間髪かんぱつを置かずにたぬきちの案に賛同したではないか。どうやら、彼は事前に根回しを済ませていたようだ。食えない男である。

たぬきちは得意満面だったが、わたしを見る目は笑っていなかった。彼に追従ついしょうしなかったことをとがめているのだろう。

この事件はこの島における彼の力をまざまざと見せつけた。これからの生活にそこはかとない不安を抱きつつ、ウサギじまの夜はけていく。

つづく


本作を読んで『あつまれ どうぶつの森』のゲーム内容に興味を持たれた方はこちらの公式動画をご覧ください。動画と比較すれば本来の設定がどれだけ改変されたものかがよくわかります。

ウサギじまの夢番地は「DA-9087-0076-2151」です。日々変化し続けるウサギじまの今をご覧になりたい方は、『あつまれ どうぶつの森』の中でゆめみにこの番号をお伝えください。夢の中で現在の島を訪れることができます。

最後までお読みいただきありがとうございました! よろしければ投げ銭をお願いします。