見出し画像

きれいな人。

 ミモザを見ると思い出す人がいます。

 私の大学生活の半分以上に関わった人で、いつ会っても変わらない人。「心の声を聴いてね。」と伝えてくれた人。彼女といても「今日はあまり機嫌がよくなさそうだな。」とか、「疲れているのだろうな。」と感じることがないのです。彼女も人間なので機嫌がよくないときも疲れるときもあるのだろうけれど、あまり人には見せないのだと思います。相手の様子を敏感に受け取ってしまう私には彼女の在り方がとても心地良くて、よく頼っていました。取り留めのない話も、真面目な話もしました。彼女と話していると落ち着くことができるので、時間を共にするのが好きでした。
 昨年の春、彼女の足元にはミモザが咲いていました。咲いているといっても、本物のミモザではありません。ミモザの刺繍がされたパンプスを彼女が履いているのを見て、「ミモザが咲いている。」と思ったのです。淡いベージュのシアー素材にミモザの刺繍が鮮やかなパンプスは、彼女の柔らかい雰囲気を引き立てていました。「パンプスの刺繍はミモザですか?素敵ですね。」と伝えたのを覚えています。
 私は他人の素敵だと思ったところを積極的に伝えるようにしています。髪を切ったり染めたりした、普段と違うものを身につけていると気づいたときは、口に出して伝えます。目の前の人がおそらく自分の意志で選んだ変化なら、伝えるだけでなく積極的に褒めるようにしています。私だったら、変化に気づいたことを伝えてもらえると自分に関心を示してくれていると感じて嬉しいから。それに自分の気づきがきっかけで相手が喜んでくれると、私も嬉しくなります。
 足元にミモザを咲かせた彼女を見たとき、とてもきれいだと感じました。似合っていると伝えずにはいられなかったくらいです。パンプスそのものが素敵なのはもちろん、そのパンプスを身に付けている彼女がとても素敵に見えました。私の場合、「自分に合うものを身につけている人」を「きれい」と感じるのだと思っています。値段とか流行りとか有名さではなくて、自分が好きなものや自分に合うものを選ぶ人。もちろん、身に付けたいものに巡り合えてもそれが手に入らない場合もあるでしょう。状況を考えて、身に付けるものを選ばなければいけないときもあります。そんななかでも今ある選択肢から自分が好きなものや自分に合うものを見つけられる人は、今を楽しんでいる、人生を楽しんでいるように感じるのです。
 休みの日だから眼鏡にジーンズ姿の彼女も、大学に来るのとそれほど変わらない服装で筆を持つ彼女も、からし色のエプロンで美味しいご飯を振る舞ってくれる彼女も。みんな、そのときの自分に合ったものを身に付けているから「きれい」と感じます。

 ミモザの花が似合う彼女は、私の憧れの女性です。尊敬する彼女と過ごした時間を思い出し、自分が理想とする姿について年に一度は考えられるように。毎年春になったらミモザの花を家に飾るのが、今の密かな夢です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?