見出し画像

声が戻るまで。


退院後に1番困ったこと

 退院してまず困ったのは、声がカスカスで上手に話せないことでした。声量もかなり落ちていて、ざわざわしたお店の中にいるときや道を歩きながらだと話すのが難しかったです。手術したことを知らない人が聞くと驚いてしまうくらいのかすれ具合。相手が「声どうしたの?」と聞いてこないかな、聞かれなくても不思議に思っているだろうな、気を遣わせて申し訳ないな、など色々考えてしまって。神経を使いながら話すのがしんどくて、あまり話さないようになっていました。
 入院中に話していたのは、看護師さんや主治医。当然声が出ないことを知っているし、私の声を聞き取ろうと初めから努力してくれるのでストレスなく会話できていました。覚悟をしていましたが、話せないことによる心へのダメージは大きかったです。想像よりもずっと、話すことにエネルギーが必要でした。

頑張り屋さんの右側

 朝は調子がよくても、夕方になってくると喉が疲れてくるのか声のかすれがひどくなっていました。朝起きたらとりあえず声を出して調子を確認。声を聞いては、「まだ治らないな…。」と少し落ち込んでいました。声が戻るまでは、話さずに済むよう工夫をして過ごしました。病気のことを知らせていない人にはできるだけ話しかけない、買い物をするときは指差しやジェスチャーを使う、などなど。話さずに生活するのはかなり難しいし、1日の中で声のことを気にする瞬間が何度もあるのが何よりもしんどかったです。
 声が戻らないまま、術後1か月検診の日を迎えました。鼻からカメラを入れて撮った声帯の写真を見ながら、声帯の状態について主治医が説明してくれました。左の声帯の動きが悪くて、左が動けない分まで右側が頑張って動いているそうです。手術直後には明らかな麻痺が見られた訳ではなく遅れて麻痺が出た形なので回復の見込みはある、とのことでした。ただし絶対に治るとは言えない。分かってはいましたが、改めて言われると悲しかったです。

回復の兆し

 話すのを極端に控えたり話しすぎたりしないように主治医から言われていたので、家の中では手術前と同じように話していました。声が戻ってきたな、と感じたのは術後1か月半頃。それから1週間くらいで劇的に回復して、手術前とほとんど同じくらいの声まで戻りました。術後2か月近く経った今でも長く話すと喉が疲れて声がひっくり返りやすくなりますが、話すことが苦痛ではなくなりました。
 声の回復を1番感じたのは、スーパーのレジで店員さんと話したときでした。
「ポイントカードはお持ちですか?」
「持っていません。」
「お支払方法はどうされますか?」
「現金でお願いします。」
たった二言なのですが、ためらうことなく声を出せた喜びは大きかったです。「嫌だな。」と思わずに声を出せる。手術前のように会話ができる。当たり前だった日常が少し戻ってきたことが、本当に嬉しくて。このときの感動は一生忘れないと思います。


▽ 続き

▽ まとめ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?