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踏み切れないのは。

 

 あぁ、病気になったことを封印してしまいたい。

 初めてそんな風に感じて、自分で自分に驚きました。全部無かったことにしてしまいたい。「手術をする前とまったく変わらない私だ。」と思い込んで生きていたい。でも実際は難しいでしょう。毎日薬を飲んで、定期的に病院に行かなければいけません。どちらも元気でいるために必要です。手術の痕は残っているし、首元を触れば甲状腺がないと分かります。手術前には戻れない。ただし、病気になったことを封印しようと思えばできるでしょう。でも、記憶の箱の中に閉じ込めきれない私がいます。
 がんになったことを、無かったことにしたくない。私が闘った足跡を残したい。そう考えていたからnoteを始めたし、自分の経験や今の状況を周囲へ積極的に伝えていました。でも今は「無かったことにしたい。」という気持ちが出てきて、戸惑っています。
 もしかしたら私は、「甲状腺がん患者の私」であることに少し疲れてしまったのかもしれません。がんになったから得られたものはたくさんあるし、それに感謝もしています。でも、失ったものも多いです。失ったものを数えたらきりがないし、数えても戻ってこないから数えません。焦りはないけれど、周りと同じように過ごせないのはやっぱり悲しい。気をつけていても比べてしまいます。私だけが違う世界にいるように感じてしまうのです。
 「無かったことにする」のに踏み切れないのは、得られたものまで「無かったことにする」ことになるからじゃないかなと思いました。告知を受けるまで不安な日々を送って、いくつも検査をして、万全じゃない状態で国家試験を迎えて、手術を受けて、就職先と何度も相談して、春休みなのに楽しいことはほとんどできなくて。振り返ってみると、本当にたくさん我慢をしたと思います。私のつらさも頑張りも、私自身が1番知っているはずなのに。私が無かったことにしてしまったら、私の頑張りも私を支えてくれた人達の存在も、全部全部無かったことになってしまう。それは、いやです。

 どうして無かったことにできないのか、文字にしてみたら自分のことが少し分かりました。人生で得られるものも失うものも、きっと人それぞれ違う。そう分かっています。でも、やっぱり。

 「そういう運命だったんだな。」なんて、まだ割り切れません。1歩進んでは1歩戻って。なかなか難しいです。いつか、心から認められる日が来るのかな。

 

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