大学院受験とイニシエーション

はじめに

 現在、私は心理系大学院の受験をし、合否の発表を待っている。発表までの間に、受験勉強に向けて勉強していたために読めなかった本の消化や、ぼーっとなんとなしに考え事をしている。そんな風に過ごしているうちに、今までの学習や大学院受験、そしてこれからの学習や試験は心理職(臨床心理士・公認心理師。以下、心理職と記述。)になるためのイニシエーションなのではないかと思い至った。

大学院受験とイニシエーション

 人の成長や発達において、ある段階から次の段階へ移行することを助ける儀式をイニシエーションという。イニシエーションというと、前近代的なイメージをもつ人もいるだろうが、日本でも成人式や結婚式、葬式などが行われている(形骸化しているという見方もあるが身近な例として挙げた)。イニシエーションが成立する条件として、日常から離れた場所に連れていかれること、結果については自分以外のものに委ねられていること、生死が賭けられていることが挙げられる。
 現在、心理職を目指し、大学院を受験している。この記事を書いている段階では結果はまだ出ていないが、この受験がキャリアや適性の見定めとして、「命がけ」であると感じている。先ほどのイニシエーションの要件に照らし合わせると次のことが言えるだろう。まず内部か外部かに関わらず、試験会場という日常から切り離された空間があり、そこに受験生が集められる。次に、筆記試験や面接試験を受けることになる。筆記試験では、一問一答などであれば結果が他者に委ねられることはないだろうが、論述形式の場合、採点者に委ねられる部分が大きくなるだろう。また、面接試験では、ライヴ的に受け答えをしなければならないが、そこでのやり取りやその評価は面接官に委ねられていると言っていいいだろう。加えて、先述したように、大学院の合否はキャリアや適性の見定めの材料となり、それらに生死が象徴される。これらのことから、大学院受験はイニシエーションとして機能しているのではと考える。

この先経験するであろうイニシエーション

 大学院受験がイニシエーションとして機能しているとするならば、心理職を目指す以上他にどのようなイニシエーションが待ち受けているのかを考えたい。素朴に思い浮かぶのは資格試験である。心理系の資格として有名なのが臨床心理士と公認心理師である。前者は大学院での実習が要件となっている民間資格であり、後者は学部と大学院での学習・実習が主な要件となっている国家資格である。どちらの資格も大学院において学習や実習を経験してはじめて受験資格が与えられる。大学院受験が学部から大学院への移行を促すものであるなら、資格試験は大学院から現場への移行を促すものであると言えるだろう。この資格試験は先述した大学院受験がイニシエーションの要件を満たしていることと同型の説明ができるだろう。また、大学院の中においてもケースカンファレンスが心理臨床家としての成長を促すイニシエーションとして機能しているとの指摘もある(名取,2017)。

参考文献

名取琢自(2017). 「3時間のケースカンファレンス」の意義と効用 中島登代子(編) 心理療法の第一歩 創元社

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?