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神戸の方角を見て書く

広島時代の1年半の間、狂ったように通わせてもらった喫茶店があった。そこのお父さんとお母さんとは、2回目の来店から本が好きという共通項の一点で仲良くさせてもらった。常連の本好きが集まって数ヶ月に1回開かれる読書会にも何回か参加させてもらったことがある。

喫茶店のお父さんは、人気作家の福田和代先生と交流があり、いつか読書会に招待すると言っていた。僕が広島にいる期間はタイミングがなく、三重に引っ越して2ヶ月後、遂に福田和代先生が読書会に参加することが決まった。

大変失礼ながら、これまでの読書歴で福田作品は読んだことがなかった。しかし、喫茶店のお父さんに作品を紹介してもらってすぐに書店に寄ってから、積読の最前線をヌシとして陣取っており、僕の読書ライフの確定未来であった。この世の中に"絶対"はないと言われているが、唯一挙げるとしたら僕が福田作品を読むことだけである。買ったのに何故読まなかったのか。って?それは、いつか福田和代先生にお会いできる日まであえて読まずにいた時、作品より先に作者にお会いできることは先にも後にもあり得ないと思ったからだ(福田信仰過激派に襲撃、拉致され熱湯の中で全作品を朗読するまで帰してもらえない罰にあっても文句は言えないくらい失礼であったと自覚する)。

そんなこんなで当日。新幹線に乗って2ヶ月ぶりの広島。まず寒い。この日は広島市内で初雪が観測される寒さだった。この街も変わんねえな(2ヶ月ぶり)なんて思いながらいつもの喫茶店に向かう。店に着くと、鞄を置く隙さえ与えられず、お父さんに引っ張られ福田和代先生とご対面する。「は、は、初めまして。航です。(あわあわ)」ちょっとくらい気持ちの準備をさせてくれ。そこで福田和代先生から「天動説読みましたよ」って。?????????今、天動説読みましたよって言いました????エグいいいいいい。やってしまった。(※天動説→僕が初めて書いたショートショート。1番下にリンク貼ってます。是非読んでください。)

文章ど素人の僕は福田作品を読まずにこの場に来た。なのに、僕と対面する直前に福田和代大先生はこれから来る、青いままでへたも取れず落ちたほど熟れない文書きどころか作家の"さ"の字に毛も生えない程度の僕が初めて書いた物語を読んでくれたらしい。お父さん。何をしてくれたんだ(ありがとうありがとうありがとう)。ここで本来あるべき作家と読者の立ち位置が逆転してしまうバグが起きた。大変失礼なことをしたと思う。

テンポの良い会話、綺麗な着地、読みやすさを褒めてもらって、初雪の降る広島で1番火照っていたと思う。素直に目を合わせられなかった。お世辞でも録音しておけばよかった。毎日聴きながら寝たい。帰り際、タクシー乗り場まで送らせていただいた時、文章を書く上で気になることを個別に質問させてもらった。僕は作家になりたいならない(なれない)問わず、まだまだこれからも文章は書き続けるんだろうなって思った。「足を向けて寝れない」風な言い回しがあるとすれば、これから、神戸以外の方角を見て文章は書けないですね。

帰りの新幹線から暖め続けてきた福田作品を読みます。
貴重なお時間ありがとうございました。


↓初めて書いた、天動説

↓2作品目の、Gaku

ちなみにあと3つ書こうと思ってて。
色々練ってます。次は、「2年と1500万」か「たまきとすがわら」です。

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