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📕五月 その他の短篇(🖋️アリ・スミス/岸本佐知子訳)を読んで〜読書感想〜

とにかく「なんのこっちゃ⁈」な話ばかりだった。
ヴァージニア・ウルフの文体に近い(と思った)、流れるような語りだが、
読後は自分がどこに流れ着いたのか、位置がわからない。

それでも次の話をすぐにでも読みたくなる。
妖しく惹きつけられる短編集だった。

ーーーーメモーーーー


§普遍的な物語
思いつくままに語ったような、
とりとめのない話に思えるけれど、
何かがあるぞ、と頭の奥がぞわぞわする。
普遍的な物語だからね。
「グレート・ギャツビー」、
古本になっても存在感光ってる。
この話好きだな。

§ゴシック
書店の様子が日本とは全く違う。
困った客の困った行動がとんでもない。
そして語り手の私は問題ありありなのか。

§生きるということ
ヴァージニア・ウルフの「ダロウェイ夫人」の文章を思い出した。
意識の流れというのか、
脳が意識したことを瞬時に言葉にしているような。
しかも途中で語り手が交代して、
もしかして一人の人物が分身と話しているの?
もしかしたら語り手はやはり死神に取り憑かれてしまったの?
そして死んだけど受け入れられてないの?
分からない不思議な話だった。

§五月
「木に恋してしまった。どうしようもなかった」で始まる話は、かなり異常な執着の話だった。
そしてパートナーまで引き摺り込み、
最後は木になってしまうのだろうか。
この話も思いつくままに語り、
しかも語り手が途中交代するという、
なんとも自由な形態で、
ストーリーとも相まって得体の知れない雰囲気が
妙に癖になる。

§天国
ネス湖畔、観光地のスケッチから地元の
三姉妹のそれぞれの独白へと話が移り、
またスケッチに戻るという構成、
だと思う。
三者三様の語り口と各々の歪んだプライドが印象的。
ストーリーを追うつもりで読んでも、
それに応える話ではない。

§侵食
一編ごとに感想を書くのは
もはややめた方がいいかもしれない。
どれもこれも分からなさすぎる、
狐につままれた、
そんな読後感ばかりだ。

§ブッククラブ
幼い頃の話かと思っていたら、
タクシーに乗って帰宅途中の話だった。
幼い頃を思い出しているのだった。
と、突然現在に戻り、
タクシーは家へ到着し、
運転手との新しいロマンスが始まりそうな予感で終わる。
リアリティがある方で、
少しは分かって、
だから好きな話。

§信じてほしい
恋人に浮気(正確には既婚子持ちであること)を告白すると、
恋人からも告白が…‼︎
同じ相手と浮気しているという。
ということは、
この恋人たちは同性愛ってことで、
予想外だった。
お互い告白したあとの二人の燃えようといったら…。
つまり告白は刺激だったってこと?

§スコットランドのラブソング
認知症の独居老女は
バグパイプの楽団が家の中に入り込んで常に演奏していて他の音が全く聞こえない、
と思っている。
ヘルパーの若い女性との会話も筆談ですら、噛み合わない。。。
と思って読んでいたら、
またもや主語が変わっていて、
私は迷子になった…。

§ショートリストの季節
美術館での話。
語るほどでもないような、
些細な出来事が切り取られている。
フードに落ちた木の実が効果的。

§物語の温度
クリスマスイブの夜、神父の話を聞く人々でいっぱいの教会に
年代の異なる三人の女たちが入ってきた。
行く当てのなさそうな女たちのとるに足らぬ会話、
そして年下の女を残して二人は去る。
午前三時、犬の散歩の男性とすれ違い、
元気で、と言い返す…
こんな話をどう理解すれば良い?
ただほんのり暖かい気持ちになりはしたけれど。

§始まりにもどる
「あなた」と「私」の喧嘩はもう後戻りはできないものなのに、
一周まわって始まりに戻ることはできるのか。
蚊取り線香の渦巻きのように、
少しずつ内側に入って行くイメージがある。
最終的に中心にたどり着いて、
それはハッピーエンドなのかな。

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