心は繋がる。


私は人から声をかけられやすい人だということを、
まじまじと自覚したのはここ数年でだと思う。
本当に幼い頃からなもので、その体験や経験が、
今の私をつくっていると言っても大袈裟じゃない。

学生の頃から東京へ1人で旅行に来ていた頃は、
1日に2度も道を尋ねられたこともあった。
いざ都内に住んでみるとそれらは嘘だったかのように、
ぴったり止まった。

でもここ最近、復活したっぽいのだ。
これはある日得た素晴らしい出会いのお話。

所用でよく品川駅を利用することが増えた。
6月のとある日もまた、朝から出向き用事を済ませ、
お昼には帰路の電車に乗っていた。
もうあと1駅で最寄りという車内で、大きなスーツケースを持った1人の女性に声をかけられた。

「日暮里駅はいつ着きますか?」

その女性が韓国人であることがすぐにわかった。
と同時に、東京の土地鑑に疎い私でも、今この電車が、
日暮里とは全くの無縁だということもすぐにわかった。

どう端的にわかりやすく説明すればいいのか追いつかない頭を置いて、とにかく違うということを表情で精一杯伝えた。私の雰囲気を察して、彼女も一大事だとわかってくれたようで血相を変え慌てはじめた。

これはまずい。
きっと空港が行き先で飛行機の時間が迫っているんだ。
とぴんと来た。そして今の彼女の気持ちが痛いほどわかる。なぜなら私も同じ経験があるから。

どう説明するよりも動いたほうが早い。
これは私が連れて行かねば。
着いてきて!と一緒に電車を降りた。

改札に上がるエレベーターの中で、ここ数年の私の中で1番頭をフルのフルに回転させて1番早い手段を調べ上げた(つもり)。その間も日本語が流暢な彼女は、青ざめた顔に冷や汗を浮かばせ、心配と不安の言葉をいくつも伝えてきた。

彼女の予定とは全くの別の手段だったけど、
もうこれしかない。来た道を戻るように、
品川駅に向かう電車に飛び乗った。

せめて私は絶対に冷静に。
自分を強くするために、
自分自身に必死で言い聞かせた。

時間的に厳しいことを私は薄ら感じていたけど、
それがわかると彼女の心がもたないだろう、
彼女の額の冷や汗が増えていくのを見ながら、

「大丈夫。絶対に大丈夫だから。」

自分自身にも言うように彼女の腕をさすった。

品川駅についてからは、ぶっつけ本番勝負。
私も買ったことがない特急のチケット、券売機。
駆け回りながら駅員さんに尋ねては、素っ気ない返しをされ人は自分ごとにならない限り、なかなかに冷たい人が多いのだなと、わかってはいたけど落胆しては、彼女が待つ券売機に走って戻ると、他の駅員さんがサポートしてくれていた。

いや、ちゃんといる。

そんな要所要所でアップダウンを繰り返し、
テンパりながら3人で1つの財布からお金を出した。

あの瞬間のBGMは間違いなく『天国と地獄』。

「あと9分あるから大丈夫!」駅員さんの言葉に、
3人で焦りの残る笑顔で頷き合った。

ホームに着き、無事に、無事に、
私の計画した電車に間に合った。
彼女は泣きそうな声で何度もお礼を言ってくれた。
連絡先を教えてとインスタを交換し、

「韓国に来る時は絶対に連絡してください。」

そう涙ぐみながら電車に乗って行った。

ほっとした。力を果たせた。よかった。
安堵の言葉の数々が胸に湧き上がりながらも、
「どうか間に合いますように。」祈る思いだった。

夕方、インスタにメッセージが入った。  

私が代筆して載せるより伝わるものがあるかなと。


残念ながらも間に合わなかった。
だけど1時間後の航空券が取れたと。
今はうどんを食べて待っていると。

本当にホッとした。

私はこの出来事で、感じ得たことがある。

韓国から来日した彼女の旅の思い出は沢山あるだろう、それが最後で少しでもトラウマになってもらいたくない。また日本に来たいと思ってもらいたい。ちょうど私は約3ヶ月間アメリカに行って5月に帰ってきたばかりだったこともあり、両方の気持ちがあるようだった。
きっとアメリカで出会った人達も良い思い出を作ってほしいその一心だったのではないだろうか。同じ立場になってみて私も同じように思えた。

そして私が昔、今日の彼女のように道で困っていた時、
助けてくれたお兄さんの恩を、繋ぐことができた。
いつの日か私が心に誓ったことをちゃんと実現できた。

旅立つ彼女を見送った後、
無事に着いてほしいと願う、思い遣りの心。
この優しい気持ちは自分自身をも温めてくれた。
すごく心が穏やかなのに強さも生まれた。

あの時のお兄さんもこんな気持ちだったのかな。

私が同じように人から助けてもらったことを伝えると、
こんな素晴らしい返信をくれた。

国は違えど、国を越えて、思いを配る、
こうしたことでも、少しずつでも、
平和な世界になるのではないか、
言語や文化や習慣、価値観はみんなそれぞれだけど、
思い遣りの心はみんなに同じなのだと実感した。

過去の思い出を通しても今回のこの出会いにより、
全部が繋がった瞬間だった。
これからもこの幸せを繋げられる人でありたい。




最後まで読んでくださりありがとうございました。
お兄さんに助けられたお話をこちらにおいておきます。
もしご興味をお持ちいただけましたらご一読ください。



雛子

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