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少女と師と、青年と

少女が愛したのは師だった
師は少女の愛を受け止めるわけにはいかなかった
少女が少女だと知っていたから
師は少女の成長だけを望んだ
少女の気持ちに気づかないふりをしながら
それがどれだけ少女にとって残酷なことかなど
師は知る由もない
いや知っていて師はそのような仕打ちを少女に加えるのだ
それが少女にとって最善だと知っているから
師が望むのは、
若く、賢い、精悍な青年が少女のそばにいることだった
老いた自身にその役目はないと知っていた
しかしただの青年にその座を譲る気もなかった
師は少女の心をつかみながら、自らの心を与えることはしなかった
師はその意味で傲慢だった だが少女を愛していた
少女は師の想いを知ってか知らぬのか
それでも若さゆえの熱い情熱を師に向けつづけた
それは少女を鍛え、他方で少女を絶望させた
悲しみにくれた少女は、ある日、そばにいる少年の存在に気づいた
考えてみれば、少年は常に少女の隣にいた
少女の心は頑なに閉じていた
少女は、師以外の何者にも心を明け渡したくなかった
ましてや少女と同じ年の若く、未熟な少年になど
それでも少年は少女のそばを離れなかった
少年は、少女よりも、師よりも、愚かではなかった
少年は、苦しむ少女、哀れな少女、可憐な少女、
ときに女の顔を覚えつつある少女
その少女のあらゆる側面を愛し、同時に憎む心を抱えながら
それでも少女のそばを離れなかった
少女はそのことを知ったとき
師の意思も、少年の意思も悟った
少女は少年の手をとり、師の姿を心に焼き付けた
異なる愛の形を受け止めたとき、
少女は、ひとりの女になった。



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