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母と息子

彼女には 僕が
苦しんでいるのが見えない
僕はあらゆる感情を感じていたいのに
かわいそうだといって
籠のなかに閉じ込める
僕は傷つくことを禁じられて
いたく傷つきやすい子になった
言葉を紡ごうとすると
彼女は僕の言葉を盗んでいく
代わりに吐き出されるガスに
窒息しそうになる
涙がでるのは苦しいから
なのに
かわいそうだといって
僕についてまわって
僕を守ろうとする
僕は愛されているのだ
誰かが 一度だけ
僕の言葉を知りたいと言ってくれた
だけど
僕にはもはや僕の言葉が分からなかった
僕は1人では生きていけない
安全地帯から出る術もなく
大海原の広さも怖さも知らない
空が青いことは知っているのに
空を飛ぶ自由を知らない
嵐で荒れ狂った灰色の空も
強い風も知らない
優しさだけで構築されたはずの世界は
僕以外なにもない世界と同じだった
僕は生きる羽を折られ
ずぶずぶと大量の愛と呼ばれる液体を注がれた
僕は愛されている
「愛されている」
なのに
僕は常に混乱している
僕は誰?
僕はどこにいる?
僕はどこへいく?
僕はどこに向かいたい?
そのうちに
僕の折れた翼に母さんの羽が生え
なにか禍々しいものが生まれた
むしっても むしっても
羽は生え続ける
「母さん、僕はへんじゃないよね」
彼女は歪んだ顔で
「おかしくなんてないわ」という
そうして鏡を見た僕は、驚愕する

 ”お前は いったい だれなんだ”


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