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ヒーローを名乗れる社会

この記事を読んで思ったことを書きたい。

記事の論旨の主軸には完全なる同意と共感しかない。
その前提の上で記事内の 「プリキュアに男の子が演じるヒロインが出てくることで…」 という部分について思うことがあった。
これについて書きたい。

結論から書くが、キュアウィング(今期のプリキュアに登場する男の子プリキュア)は「ヒロイン」なのだろうか。
そもそも、今期のプリキュアは「ヒロインからの脱却」がテーマなんじゃないか。そしてそれは、それまでの価値観を塗り替えた初代プリキュアの正当継承なのではないか。

という話である。

「ヒロイン」という言葉の本来の意味は、ヒーローの女性形を表す単語だが、日本で「ヒロイン」というともっぱら「主人公ヒーローの相手役女性」という印象が強い。
では、ヒーローの女性版はどう表されていたかというと「バトルヒロイン」という言葉が使われていた。

ピクシブ百科事典の「バトルヒロイン」の項目は、え、これは書籍ですか?っていうくらいその歴史に対する考察が、ものすごい分量で書かれている。 そしてもちろんその中でも、プリキュアの登場はかなりの大項目として扱われている。

上記の内容を見ればわかるが、初代プリキュアはそれまでの女児アニメと徹底的に異なった。
なにせ「女の子だって暴れたい」をキーコンセプトに、ヒロインが肉弾戦(文字通りこぶしで殴る、敵をぶん投げる)を繰り広げる異色さだ。 しかも主人公のカラーは「黒」と「白」。ヒロインの配色として異色だ。

そんな「異端」なアニメの興行的な結果はご存じの通り、空前の大ヒットを生む。
プリキュアシリーズは現在まで約20年間、20シリーズを迎える、名実ともに女児アニメ界のトップコンテンツとなった。 そして、その記念すべき20作目が、今作の「ひろがるスカイ!プリキュア」なのである。

タイトルに冠されている「ひろがる」は、「ヒーローガール」とのダブルミーニングになっていて、スカイランドという異世界から迷い込んだ、ヒーローにあこがれる女の子、ソラ・ハレワタール(キュアスカイ)を主人公に、個性豊かなプリキュア達と一緒に敵に立ち向かうストーリーだ。

実は初代で行われた革新的な世界設定は、以降のシリーズでは引き継がれていないことも多い。 シリーズを通して最も多い主人公カラーは「ピンク」だし、肉弾戦もシリーズを経るごとに徐々に少なくなっていった。 だが、今作では原点回帰ともいえる設定をいくつも感じることができる。

例えばキュアスカイはスカイランド神拳の使い手という設定で、戦闘シーンにも肉弾戦が多用される。 必殺技も「ヒーローガールスカイパンチ」という言ってしまえば全力で敵をぶん殴る技だ。
そしてカラーも「青」。プリキュアシリーズ通して主人公カラーに青系を配するのは初めての試みらしい。

「女の子ってこういうのが好きでしょ?」という先入観を初代プリキュアが「ぶっちゃけありえない!」とぶっ壊してきたように、今作も従来のヒロイン象に真っ向から異を唱える設定だ。
そしてそれは、主人公だけにとどまらない。

冒頭で書いた、メインキャラとしてはシリーズ初の男の子プリキュアである夕凪ツバサ(キュアウィング)しかり、これまたシリーズ初の成人プリキュアとして登場する聖あげは(キュアバタフライ)しかり、主人公を取り巻く周囲のキャラクター設定も、初めてづくしなのである。

既定路線を壊し、新たな価値観を提案する。 ひろがるスカイ!プリキュアは、まさに初代プリキュアが唱えた世界観の正当継承なのではないかと思うのである。 そして個人的にこの決意が一番表れていると感じるのが「ヒーローガール」の部分だ。

つまり、「ヒロイン」ではなく「ヒーロー」なのだ。

プリキュアの生みの親である鷲尾氏も、今作お披露目の記者会見で

「第1作『ふたりはプリキュア』の時も(中略)女性が主人公なのでヒロインという単語が正しいのですが、当時、世間で言われてるヒロインとちょっと違うのではないかとずっと思っていて」
「今回、監督と話をしながら『ストレートにヒーローと言ってみようよ!』と監督からも出てきたし、私もそこについては『プリキュアの原点かも知れないね』という話をして、今回は『ヒーロー』を前面に打ち出していただきました」

と語っている。

今作のプリキュアからは、女の子も男の子も、子供も大人も、物理的にどんな特性を持っていたとしても、ヒーローに憧れていいし、ヒーローを目指していいし、ヒーローを名乗っていいんだ。という強いメッセージを感じるのである。

冒頭に紹介した記事も、物議を呼んでいるリトルマーメイドの配役は、子供たちの未来のために社会を多様性で満たそうとしての試みだろうという解釈だった。
そして、プリキュアもまた、20年も前から、ステレオタイプな社会に異を唱え、世界を変えようとしてきた、私たちの大切なお友達なのだ。

あ、そういうの抜きにしても、今期のプリキュア面白いからみんなも見てね。


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