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守りたい人たちと出会いすぎてこの様だ


 スーパーは結構、失くしかけている季節感を補給してくれる場所のような気がする。毎年クリスマスの買い出しぐらいに開設するあのお正月コーナーのおかげで、次の年の鏡餅を買い忘れなくてすんでいる。ただその鏡餅を食った記憶は、ここ数年ない。

 あれを包丁で切り分ける気が、なんか起きない。たぶんあのちょっと食材離れした形に包丁を入れる作業が、自分の中で調理のカテゴリに入っていないんだと思う。だから「がわ」がプラスチックで中に切り餅が入ってるやつを買ってもみたけど、それでもやっぱり三月ぐらいまで冷蔵庫で眠らせたあと、捨てた。

 その年ぐらいからなんとなく、自分は餅を食う気がないんじゃなくて、本心から「自分の正月」を作る気が無いんだと気付いた。ストーブとみかんと守られた時間。歳月に、穏やかに追い出されたことへの反抗が、たぶんそこに少し混じってる。

 相変わらず「自分の正月」を作る気はないけれど、娘がごはんを食べられるようになって初めての正月は、ふしぎなもんでお雑煮を作る気が起きた。

 誰かに作ってもらったり、誰かに作らせてもらったり。もしかしたら季節って、そうやって初めてわかるものなのかも知れない。まぁスーパーが補給してくれる安い季節感も好きなんだけど。

 だから今年の最初の目標は、ちゃんとお餅を食べること。そのために、食べる気の起きる食べ切れるだけのお餅を買うこと。特設コーナーでカゴに入れた鏡餅とは別に、陳列棚を渡り歩いてミニ切り餅の使い切りパックを見つけた。5個入り税抜七十八円。お餅が製粉コーナーにあることを初めて知った。
 手まり麩とほうれん草を入れた何年かぶりのお雑煮は、のどの奥が少しざらざらした。

 今年は、たぶん、凄まじい。
 いままでの感覚を取り出す作業を、動画とロゴと紙束に拡張する案件が数件。それとお店を開く準備。
 独りを大切にするために、みんなと生きるための本カフェ。自分のために正月を作る気もなかったやつが、守りたいと思う人たちと出会いすぎてこの様だ。まずは土地探しとクラファンの準備からで、たぶん、絶対、凄まじい。

 でも、だからこそ自分の心と向き合いながら一つずつ机に広げて、この手に納まるだけの本当に大切にしたいことを、丁寧にやっていこうと思う。食べる気の起きる食べ切れるだけのお餅を、ちゃんと棚から選んで買うように。



#フリーロードエッセイ
2021/Jan №1
お題「2021年の抱負」

🔎 #フリーロードエッセイ とは?

作家・野田莉南さん(@nodarinan)主催の企画エッセイ。毎週土曜日21:00にTwitter上で発表されるお題をもとに、指定の文字数内でさまざまな作家さんが執筆します。

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