製薬企業のR&Dサイエンティストの生み出す価値

ご無沙汰してます。田中です。

昨年、ダラダラと執筆をしていたら1年が終わってしまい、なんならシン・臨床薬理屋を廃業することになってしまいました(笑)

廃業記念ポストはまたいずれ執筆するとして、昨年1年間も使ってダラダラと書いていたシン・臨床薬理屋が感じていたことを、今回は紹介できればと思っています。

コストが高すぎる日本と、それは正当だと考える現場

これは過去記事でも書きました。とにかく日本で医薬品を売ろうとすると、その初期薬事コストが高すぎるのです。

驚きのポイントはそのコスト高そのものではなく、それが当然だと思える現場感覚にあります。私達の仕事にはその価値がある、と。

仕立て屋さんのスーツとサラリーマン

私はよく「仕立て屋のスーツ」という話をします。
仕立て屋さんのスーツは、オーダーメイドですし、生地から始まり一つ一つにきめ細かいこだわりがあり、手間暇もかかっているので、当然高い。私は自民党の麻生さんのスーツ姿が好きなのですが、あのクオリティは量産品では出ないですよね。
ただ、(我々のような)一般サラリーマンには仕立て屋さんはあまり縁がないです。なぜなら、そんなに高いスーツは必要ないからです。そりゃ、麻生さんのような立場になれば、あのスーツはめちゃくちゃ活きると思います。でも私には必要ない…、着て出かける機会がないんですよ。
私達が作るスーツこそが本物のスーツ、いいから一回試しに使ってみるといいですよ、もう他のものには戻れませんから…。いえ、いいです、必要ないんで。私には量販店のスーツで十分なんです。そこまで言うなら量販店クオリティでよいのでもっと安く作ってもらえませんかね…。量販店と全く同じ価格にしてくれとは言いませんが、量販店の何倍もの価格を提示されても買おうとはならないです…。

質が高いと価格が高い?

麻生さんのスーツ姿が素晴らしいことは誰の目にもわかることなんですが、私達が提供する仕事やサービスの質って、よくわからないですよね。我々の仕事の質は高いとよく言いますが、それは誰目線なんでしょう?
この手の話でよくやり玉に上がるのは「質が高いCTD」ってやつです。実際なぜ高価格なのかと聞くと、よく「質が高い」って言われるんです。質って何ですか?

質の高いスーツというのは、意味があるんです。「すげぇスーツ着てるな、高そうだな、いくらもらってるんだろな」と思わせる効果があります。麻生さんのようなトップクラスの政治家たるもの、勝負は出会った瞬間から始まるわけです。オーラで負けてはいけない、日本を舐められてはいけない。
でも一般サラリーマンにはあまり縁のない話です。むしろ商談で高そうなギラギラしたスーツで相手が臨んできたら、普通は「アイツいやらしいな」と思うわけです。そういうのが求められるのは、不動産屋くらいのものでしょう。

スーツの質に求められるのは「相手からどう思われるか」。そういう意味ではCTDも同じですね。間違いだらけのCTDは読み手にうんざりされるんで避けるべきでしょう。ただ…質の高いCTDとはなんでしょう?相手を威圧するようなオーラを発するCTDではないのだと思います。せいぜい「読みやすいCTD」くらいのものだと思いますが、読み手が気持ちよくCTDを読めれば不承認が承認になるのでしょうか?残念ながらそうはならないでしょう。

CTDの質に求められるのは「間違いだらけで不快にさせない」、そして「読み手に誤解を与えない」最低限のクオリティです。それ以上のものは本来求められないはずです。なので、読みやすくて感動するような高い質のCTD(ただし価格がべらぼうに高い)というのは、顧客目線では不必要で、値段が高い分「オーバークオリティ」です。必要最低限レベルのCTDであっても、読みやすくて感動するようなCTDであってもどちらでもいいけど、安くて早い方をください、って話です。

ただ同じ製薬の開発系サービスでも、CTDと当局相談資料だと話は違って来ます。それは何故か?それは「顧客に与える価値」が異なるからです。
CTDの場合、顧客は承認申請をするフェーズです。ですので、CTD提出後の「顧客価値」は「承認」か「不承認」の2パターンで決まります。ただCTDそのものに「承認」「不承認」を左右するインパクトはないので、CTDは最低限のクオリティでよい。
しかし当局相談は、相談の仕方を間違えると「追加試験」「試験開始の遅れ」に繋がります。これらは「顧客価値」へのインパクトが大きい。うまくやれば「試験省略」「コストカット」に繋がります。当局相談資料には「必要最低限のクオリティ」よりハイクオリティなものへのニーズが、顧客側からあるはずです。それなら、価格が高くてもそれだけサービスの質がよければ、顧客は買ってくれるかもしれません。

結局、質の高さを付加価値として認めて購入するか否かは、その質の高さが顧客側の価値として跳ね返ってくるかどうかにかかっています。サービスの価値を決めるのは顧客側でありサービス提供側ではない、それを頭に入れておく必要があります。

自分たちのサービスの価格は高くあるべき?

仕事やサービスの「質の高さ」、実際のところどうなのかはさておき、その自己評価をを裏付けているのは何でしょう?第三者的な評価があるとすれば、上司の評価でしょうか。
私の十数年の短い社会人経験をもって言えるのは、日本の社会人の自己評価を決めているるのは(賞与含む)給与額ではないでしょうか。日本の製薬産業、特に新薬を生み出せる大手企業の給与は高いので、高い給与をもらって働ける自分はエラい、となっています。
もちろん給与が高いのには高いなりの理由があるとは思いますが、実際高い給与に見合うだけの価値を生み出しているのか、というところが問題なのかと思います。
実際のところ、R&D部門の生み出している価値に人件費が見合っている製薬企業は、日本にはそんなに多くはないのではないでしょうか。
組織や自分が生み出している価値を、一度計算してみるといいのだと思います。

R&Dの生み出す価値

質が高いと価格が高い?の項でも書きましたが、受けるサービスの価値を決めるのは顧客側です。CROのサービスであってもメーカー内のR&Dサイエンティストであっても、最終的にサービスの価値を受領するのはメーカーの株主で、株価の上昇又は利益の分配という形でそのサービス価値を享受することになります。企業にサイエンティストが雇われているのは、企業の株主にとってその「価値」があるからです。
つまり、サイエンティストであろうとなんであろうと、企業に従業員として雇われている以上、企業の価値アップに貢献する、利益を上げることに貢献することが、その雇用の対価であり、それができないのであれば雇用する価値はありません。

R&Dサイエンティストの場合は、そのR&D活動を通して企業の価値アップに貢献することが必要です。営業の方は自分が売上を上げて直接利益を増やしていくことがそのまま企業価値向上につながるのでわかりやすいですが、同じ営業部門でも例えばマーケティングに従事している場合は、一人一人の企業価値向上への貢献が見えずらくなるのと同様に、R&D部門の場合はさらにそれが見えずらいものになります。そこに甘んじる形で、R&Dはその存在そのものがpricelessで価値があるもの、と見なす考え方を取る方が結構多いのではないでしょうか。だって製薬企業は研究開発に大きなリソースを割く必要があるから…そうなんでしょうけどそれは青天井にリソースを突っ込んでいいということではありません。研究開発へのリソース配分にも適正ラインがある。そのラインがどこにあるか、意識して仕事をされているでしょうか?

実は、製薬企業のR&D部門の企業価値向上への貢献は結構見えやすいです。上で説明したとおり、利益が増えることが「想定」されれば株式の価値が向上します。「想定」とはすなわちNPV、正味現在価値で算出されます。
例えば、年間5億円程度の利益をもたらす医薬品が開発過程にあるとしましょう。現在第三相試験を実施中で、今年中に結果が分かり、来年には申請そして承認、再来年年初から販売できるとしましょう。第三相試験のコストは10億円、その成功確率は70%を見込んでいると。申請承認に関わるコストは2億円とし、申請して承認が得られる確率は90%とします。
今年10億円の費用がかかることは確定しています。試験が成功すれば申請するため、来年2億円のコストがかかりますが、その発生確率は70%です。無事に承認され、再来年以降毎年5億円の利益が少なくとも5年は続くとします。その確率は90%×70%で63%です。
NPVは、-10-2x0.7+5x5x0.63で簡単には計算できます。実際には「割引率」の概念があるのでもう少し計算は複雑になりますが、将来の利益の想定とはこんな感じで行われています。製薬企業の株価はこれをすべてのパイブラインに対して計算した結果が織り込まれている、少なくともそれを織り込んで株価の高低を判断している人がいます。証券アナリストですね。

R&D部門の企業価値向上への貢献とは、例えば上記の例で第三相試験を成功させると、上記NPVの計算に含まれる確率部分が-2x1+5x5x0.9になるので、第三相試験の成功前の状態と比較して、約6億円の正味現在価値のプラスになります。つまりこの前提条件においては、第三相試験の成功に貢献することによって6億円分の企業価値向上に貢献したこたになるわけです。第三相試験にざっくり20人くらいの貢献者がいるとすれば、一人当たり3000千万円程度の企業価値向上への貢献ということになります。人件費等の間接コストと比較してこの3000万円が黒字と考えられれば、わざわざR&D従業員を雇用するだけの価値が出せているということになるわけです。

ここにある数字は全て計算結果を例示するための仮定でしかなく、また実際には割引率の概念のために将来の利益もコストも減額されますが、とはいえ、R&Dの企業価値への貢献は意外と簡単に計算されます。もちろん、将来のことは正確には予測できませんので織り込んでいる利益は仮定でしかないのですが、株価というものはそういうものを全て織り込んだ仮定のもとで決まってくるものなので、決算の実績が予想と異なれば株価もその時に調整されますが、結果が見えるまでは予測値が企業価値を決めるわけです。

CROへの外注費用と価値のバランス

製薬メーカーの研究開発に携わるのは、メーカーのR&D従業員だけでなく、CROも多かれ少なかれ関わります。メーカーはCROに費用を支払ってプロダクトの「開発を進めてもらう」=「プロダクトの現在価値を高めてもらう」わけなので、プロダクト価値の高まり以上のコストを発生させてしまえば赤字です。
もちろん、研究開発の全ての(外注を含む)業務がプロダクト価値を高めるわけではなく、治験は現在価値を高める可能性がありますが、申請承認関連業務(例えばCTDを作ったり信頼性調査の対応をしたり)というのは、プロダクトの現在価値を高めるような業務ではありません。コストでしかない。
もちろん、とんでもなくひどいものを作ってしまったらプロダクトの価値を下げてしまうので、最低限のクオリティは確保したい。例えばPMDA申請用のCTDを作るとして、日本語が通じない、試験の成績が正しく記載されていない、そのようなクオリティのCTDでは承認が望めないです。ただ、一応日本語として意味が通じる、試験の成績が正しく記載されていさえすれば、正直、どんなに美しい文章が並んでいようと、どんなに考察が雑であったとしても、承認可否にはそれほどインパクトがない。であれば、最低限のクオリティが担保されるCTDをいかに安く作るか、それがプロダクトの現在価値のマイナスをいかに少なくするかという観点で考えるべきことです。

また、これらの作業を行う上でもう一つ大事な要素はスピードです。作業スピードが遅ければ、それだけプロダクトを市場に出すタイミングが遅くなるわけで、スピードはプロダクトの現在価値に直結します。遅ければ遅いほど、プロダクトの現在価値は下がります。
上記のPMDA用のCTDを作成する業務であれば、PMDAに褒められるレベルのCTDを1年かけて作ることと、PMDAに読みづらさに対して苦言を呈されながらも必要最低限の内容を含むCTDを6ヵ月で作ることを比較することになれば、それらのサービスを購入する顧客の立場に立てば、後者の6ヵ月のサービスを購入することが合理的であり、前者の1年のサービスを購入するのは経営的に不合理です。なぜなら1年のCTDには、6ヶ月分の営業機会損失が発生するからです。

顧客が必ずしも経営的に合理性のあるサービスを選択するとは限らないです。PMDAから苦言を呈されないという効用を高く評価する顧客だって存在します。顧客のニーズに合わせてサービスの形を変化させられるならさせればよいとは思いますが、合理性のある判断をする顧客を相手にするなら、プロダクトの現在価値をプラスにはできない作業に対しては、必要最低限のものを最も速く行うことが最も価値のあるサービスということになります。

官僚型組織の中での「評価」と「仕事の価値」

高い給与をもらって働ける自分はエラいと考えている-上でこんなことを書きました。さすがにヒドい言い様かもしれません。もう少し現実的に解釈しましょう。
転職して給与を上げるにしても、転職せずに出世して給与が上がるにせよ、給与が上がるということは、自分の仕事が評価されていると人は解釈します。給与が高ければ高いほど、自分がこれまでに出した成果や身につけてきたスキルにプライドを持つものです。
ただ現実には、日本の製薬企業における給与の設定というものは、企業の持つプロダクトの価値への貢献という観点では設定されていない-と考える方が普通だと思います。
これまでの例を踏襲すると、例えばこれまでに何本もCTDを作ってきた評価の高いメディカルライターがいたとして、そのライターさんが評価されているポイントが「質的には雑だが、とにかく人よりも短期間にCTDを作れる」というケースは稀だと思われます。どちらかというと、上の人間がそれほど手を入れなくても済むような、高い品質のCTDを作れることが重要視されるケースが多いのではないでしょうか。評価の価値観が自分達の組織内の業務の観点で閉じているのです。

こういった組織の特徴は「官僚型組織」の特徴と言えると思うのですが、その解釈は正しいでしょうか。「官僚」というと、いわゆる国の役人のことですが、「官僚型」と例えられるのはどちらかというと嫌がられることの方が多いでしょう。私はこの価値観をここでは批判的に論じていますが、「官僚型組織」が必要とされる組織は実際にあって、その代表が「役所」であり、本来的には「官僚型」という言葉自体にネガティブな意味合いはないはずです。与えられた役割を決められた予算でこなすのが「官僚型組織」の「歯車」に求められるスキルで、まさに役所とはそういうことを求められる組織です。

「役所」以外にも「官僚型組織」といえる組織の特徴は「予算消化型」の組織であることで、製薬企業の開発組織はまさに「官僚型組織」の代表格と言えます。「こなす」ことが重要で、創意工夫の行き着く先は「効率化」。与えられた任務を着実にこなすことが求められ、「事務処理能力」こそが仕事ができるできないの指標。その組織で評価、そして給料を上げるためには、「効率化」の規模を大きくし、人に迷惑をかけず、定められたタイムラインと予算から逸脱しないことが求められるのです。そしてそれが自らの価値を決めている、と考えているはずです。

製薬企業のR&D、特に開発組織にいる人は、CROも同じかもしれません。まさか自分達の仕事が「官僚型」だなんて一度も思ったことも考えてみたこともないかもしれません。(規制当局であるPMDAならまだしも、)自分達は「サイエンス」を仕事にしている「クリエイティブ」職だと自負してきた、のではないでしょうか。しかしよくよく考えてみてください。結局自分達がやっている仕事で「サイエンス」に基づく「クリエイティビティ」が自分の評価を上げてきたのでしょうか。逆に、例えば自分以外の「仕事ができない」人と思われている人は、実際何ができていないのでしょうか。私がここで述べたことを、クリアに否定することはできるのでしょうか?

このように、官僚型組織における「評価」はあくまで与えられた任務はいかに効率的にこなすかという部分に力点があり、どちらかというとコスト削減の意味合いでの貢献です。ビジネス的「価値」を高める場合、「売上を増やす」か「コストを削減する」かの二つの観点があるわけですが、官僚型組織・官僚型人材の貢献は主に「コスト削減」側であり、その「評価」も「コスト削減量」によって決定されていると考えることができるでしょう。

あなたの提供するサービスはいくらなら買ってもらえますか?

サービスの価値の話に戻しましょう。

R&Dサイエンティストはどこで働いていようと「顧客の企業価値上昇」にいかに貢献できるか、これが本来追求すべき点です。
メーカーで新薬開発プロジェクトを運営する立場にたった場合、CROにサービス提供を依頼する場合には、それ相応の対価をプロジェクト予算から支払う必要があるので、そのコストの算定根拠にはよりシビアになるはずですが、メーカー内にいるR&Dサイエンティストがプロジェクトに参画させる場合は「自分の財布は痛まない」ので、内部リソースは「コスト」という感覚にはなりません。むしろ給与等の固定費をサブスク的に定額払いしているわけですから、「いかに使い倒すか」という発想になるかと思います。
ただ、R&Dサイエンティストがそのコスト(=サブスク費用)に見合った働きをしていないと考えられるなら、そのサブスク契約はできれば解除したいところです。「見合った働き」のクライテリアはどこにあるのか、という話はこれまでにしてきた通りで、どれだけの価値創出につながっているか、ですので、結局外注する場合の費用根拠と拠り所は同じになるはずです。

R&Dサイエンティストであるあなたのサービス費用にはいくらの値がつくのでしょうか?ありがちなのは、自分の生み出すサービス価値は「自分の給与」×「工数」相当という考え方です。すなわち給与という自分の雇用コストを上回る売上があれば赤字にはならない、という考え方です。仮にあるサイエンティストの時給が5000円くらいだったとして、給与以外のもろもろの経費をカバーするのに給与の3倍程度のコストがかかっていて、稼働率を8割くらいとすれば、1時間当たり20000円以上のサービス単価をつければ、一応黒字にはなるかな、って感じですかね。

本来は違います。大学教養レベルのミクロ経済学の話ですが、価格を決めるのは需要と供給のバランスです。あなたの給与は根拠ではなく、むしろ給与額の算定根拠は提供するサービスの価格であるべきです。これまでお話ししてきたとおり、需要側のコスト計算は「価値創出」を根拠にしています。「価値創出」に対して高すぎる価格を供給側が設定したところで、そのサービスは売れないのです。

製薬メーカーのR&D組織のような大きな「予算消化型組織」に属しているとピンとこないかもしれませんが、個人事業主のように自分のサービスを売って生計を立てる立場では、自分の収入は自分の売るサービス価格とその販売量で決まります。当たり前ですよね。製薬メーカーのR&D組織はその考え方が通じない「官僚型組織」なので、生み出すアウトプットの質や効率的に予算消化する能力が自分の給与を決めるというような誤謬にハマっているのです。

官僚型R&D組織の行く末

その考え方でぬくぬくとできているうちはそれでいいでしょう。ただ、そういう考え方が蔓延している組織の行く末は、どうなっていくのでしょうか。
R&D組織がロクにパイプラインを生み出していなかったり、パイプラインのステージアップによる価値創出に対して人件費がかかりすぎているとすれぱ、経営層からは不採算部門とみなされても仕方ありません。経営者としては不採算部門は整理しないといけないですよね。製薬メーカーでは価値創出に苦しんでいる企業がぼちぼちあるように感じますが、組織の整理が必要な企業はすでにそれなりにあるのかもしれないです。

ポイントは「なかったら困るのかどうか?」ということですね。当事者的には「なかったら困るに決まってるだろ」ということになろうかと思いますが、必ずしもそうとは言い切れないかなと私は思っています。シン・臨床薬理屋を廃業し製薬メーカーの中で戦略担当となった今、そういう思いはなおさら強く持っています。(日本の医薬品開発を担当する)R&D組織は、必ずしも製薬メーカー内に必要なのか?ということです。

私は日本専門の薬事コンサルタントとして働いていたわけですが、その使命は「日本未進出の製薬メーカーの日本開発支援」でしたので、日本に自社開発部門を持たずして日本での医薬品開発を遂行するというビジネスモデルは、すでに安定的に稼働している状態です。それどころか、CRO同士の競争も激しくなってきており、このビジネス自体が徐々にレッドオーシャン化してきている気配もあります。私はこの現象を「日本での医薬品開発ビジネスのコモディティ化」と呼んでいます。
ちょっと前に某SNSの運営会社(外資系)のリストラが話題になりましたが、米国バイデン政権のinfration reduction actのために、製薬業界もすでに冬の時代に突入しているという話で、日本国内でもリストラの話をチラホラと聞くようになりました。少し昔の話ですが某内資系のT社がCROに日本開発部門を売却したなんて話もありましたが、製薬ビジネスをグローバルレベルで考えた場合、日本での開発のためだけに存在している部門を自社内にそれなりの規模で持たなくてはならない理由は、年々無くなってきていることを考えると、今後数年間、不採算部門整理の流れの中で日本の医薬品開発をどうするのか、という話は再燃するのではないかと思います。

結局R&Dサイエンティストはどうすればよいか?

とりあえず、不採算組織とともに沈んでいく展開だけは避けましょうか。
自分の組織が、価値創出に忙しいかどうか、です。自分のしている仕事がメーカーの価値創出に直結しているのか、それはキャリアを考えるうえでも非常に重要なことだと思います。仕事のための仕事(例えばタスクフォースなど)ばかりに従事している状況はよくないです。外から人を取ろうとする組織は、価値創出のポテンシャルに対して人的リソースが不足している組織です。そういった組織が「タスクフォースの達人」を欲しがることはないです。人的リソースが不足している組織のほうが、得られる経験の量も質も高いことが想定されます。自分の仕事や組織の状況を鑑みたとき、自分が今いる組織は、どの方向に向かっているでしょうか?

自分のいる組織の将来に危機感を感じるのであれば、転職を考えるべきでしょう。特に臨床開発に従事している場合には、幸いにして人材の流動性も高く、転職の理由として「価値のある仕事がないから」というのは真っ当です。そういう転職を繰り返しておけば、不採算組織とともに沈むという最悪の事態を免れることは可能でしょう。募集ポジションがまだあるうちに動いておくべきです。

ただ本来ならもっと理想-「自らが価値の高い仕事を行う」-ことを追求したいところです。パイブラインの価値創出に対して直接的な役割を果たすことを優先する価値観を持つだけで、仕事ぶりには違いが出てくるように思います。
組織のしがらみで思うようには動けない可能性も高いですが、自分の影響力が及ぶ範囲を可能な限り広げ、その中だけでも理想を追求していきたいですね。
ビジネスについて勉強するのもいいのかもしれません。私自身、MBAという看板にはあまり興味はないのですが、メーカーのR&D技術畑で社会人生活を送っていると、ビジネスのことについては疎くなりがちです。MBAを取る必要性があるかないかは別として、体系的にビジネスについて学ぶ場は用意されているので、使える立場なら積極的に使うのがいいのだと思います。

知らんけど(笑)


今回も長文にもかかわらず、ここまで読んでいただきありがとうございました。Twitterはそれなりの頻度でつぶやきますので、是非フォローお願いします。


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