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展示「コシノジュンコ 原点から頂点」


あべのハルカス美術館にて開催している展覧会「コシノジュンコ 原点から頂点」。終了日前日に滑り込んできた。

コシノジュンコの原点は絵だそうで、意外にも展示は油彩画とデッサンから始まった。ポップで鮮やかで華やかな印象しかなかったため、油彩画のほの暗さ、影の濃いデッサンに驚く。

万博ユニフォームは今見ても素敵で、あの衣装を纏った方々がてきぱきと働く様子を見たかったとすら思う。

個人的には資生堂の広告がすごく好ましかった。切なげな白黒の写真と添えられた詩に魅入ってしまう4作。どなたの詩か分からず悔やまれる。
以下1作引用。

昼下がりの海に置き忘れられた小船がねむっていた
耳にあてた白い貝よりもあなたの頬は透き通っていた
いつかその街の空に銀河を見ることは出来なくなっていた
ためらうこともなくあなたは街を捨てていった
そして今もあなたはほの白い果実のような肌をして
今も星くずのようにきらめく心を捜しつづけている
うつろい変るさまざまなひとの言葉も知らぬげに
美しさがいつまでも肌をつつむ佳き化粧品ベネフィーク

対極のあたりはただただかっこいい。自然的な円と人工的な四角、太陽の赤と夜の黒、様々な事象の対極をあわせもって宇宙を表現するというコンセプトもかっこよく痺れる。

私はやはり黒が好きなのだと再認識したこのあたり。着たいなんていうのは烏滸がましいが、例えばこれを着て歩いたらどうだろうと夢想する。きっと背筋は自然と伸びて、目は未来を真っ直ぐに見つめ、優美に歩くことができるだろう。ハイヒールひとつでできる女に早変わりできる私は身に纏うものの力をよく知っている。このような実用性のまったく度外視の衣装を人々が自由に纏える世界が来たら、華やかでおもしろそう。衣装同士が引っ掛かったり電車に挟まったりと野暮なことも考える。そこから生まれる美しい出会いなんていうのもあるかもしれない。諍いも同様であるが。

私は女性的な曲線がよく現れる衣装、ぴったりとしたトップスやタイトスカートを好むが、そのような柔らかい曲線的なラインの美しさと固い棘があわさった衣装にため息が出た。素敵。

展示の中で一番ときめいたのは、大分県の伝統工芸とのコラボで竹を素材にやたら編みの技法で制作されたビスチェ(左)と、福岡県の伝統工芸とのコラボで山葡萄の蔓を素材に編み組細工の技法で制作されたビスチェとスカート(右)かもしれない。市川春子を偏愛している私には25時のバカンスの乙女さんがすぐに思い出された。彼女の脚を目前にしたような経験。きっとこのビスチェやスカート同様、透き通った美しさと軽やかさ。新しく目にしたものが、自分の記憶や経験と結びつくおもしろみ。本などの内容をすぐに忘れてしまうことに落胆することも多いが、たくさんのものを見て、しょっちゅういろんな角度から引っ張り出してもらうのが一番いいのかもしれない。できるだけたくさんのことを覚えていたい。

圧巻の衣装たち。

楽しかった。

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