すごく破壊的なものを

五月病の前段階にいるので、今はすごくやる気に満ち溢れている。

ホラーが苦手なので「検索してはいけない」も苦手である。昔は好奇心で調べていたが、今は専ら見なくなった。皆、あんな怖いものをよく見るなあと感心している。
しかし、そういったものが嫌いではない。むしろ好きである。私は破壊的なものも存在価値があると思っている。しかも「検索していけない」は心掛けさえあれば回避できるコンテンツだ。程よい塩梅で存在していて、だから今も楽しまれているのだと思う。
では、回避できない破壊的なコンテンツならば価値がないのだろうか。僕は一概にそうは言えないと思う。
昔VRChatに"shutdown"というワールドがあった。その制作者は普段、普通のワールドを作る人であった。例えば夏に海で囲まれた家など。幻想的で楽しいが、ある意味凡庸なワールドばかりだった。
そんな人が急にホラーテイストのワールドを作った。説明文は正確には覚えていないか「It's time to sleep.」だったと思う。僕はウキウキでそれに入ってみた。読込が終わるや否や、視界の端にタイマーが表示された。それを横目に辺りを見渡すと、開かない扉と、細長い通路だけがあった。「閉じ込められた!」と察した僕は、恐る恐る通路をたどった。その先には不快感を煽る演出があり、僕の心は躍った。
そして、タイマーのリミットが迫る。そのタイマーはやや長く、通路を探索し切った僕は漫然と待った。次第にカウントダウンは分刻み、秒刻みになっていき、ついに、0秒を示した。
その瞬間、身体の動きが鈍くなった。世界がカクつく。慌ててメニューを開こうとすると、動けない。程なくしてVRChatは強制終了した。

僕は「してやられた!」と膝を打った。
Unityの標準機能を用いてメモリ超過を起こしたのだろう。なるほど、僕は頷きながらこの事の顛末を思い返していた。
はっきり言うと、僕はこの展開を暗に予想していた。"shutdown"というタイトルに説明文、それからタイマーの演出。ある程度インターネットに慣れている人なら、演出の一つにソフトウェアのクラッシュがあることくらい予想できる。現に、そんな演出はいくらでもありふれているからだ。
しかし、それをVRChatという既存のプラットフォームでやる根性は並大抵ではない。僕はそこに意表を突かれ、感銘を受けた。

数ヶ月後、そのワールドを晒して注意喚起するツイートを見た。ワールドは消えた。

これは適切な手順を踏まなかった破壊的なものなので、淘汰されて当然である。他人のプラットフォームでそんなものを作れば、消されてしかるべきである。自浄作用が働いていると思うし、こうした動きが消えたコミュニティはみるみる腐っていく。僕はそういう場面を必要不可欠だと思う。
ただ、今の社会は枠の中に入った威力のあるものを求めているのは事実だと思う。いくらホラーとはいえ、こちらに噛みついてきたらその時点で受容不可能だ。檻に入れて楽しむのが一番で、ちょっとでも外に出てきたらアングラとして烙印を押される。
だから、その揺り戻しが来ると思う。
むしろ今ものすごく破壊的な何かを提示すれば、反転するのではないだろうか。もちろん、本当に殺傷力の高い作品を作ると議論を呼ぶだろうから、ある程度は枠組みに入れる必要があるのは事実だ。しかし、それを取っ払って噛みついてくるものが、今来ている気がする。

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