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エッセイ|夫を試してみた

きっとどこのご夫婦でも、25年も一緒にいれば互いに言いたいことはあるだろう。

結婚当初は愛が燃え上がっていたからさほど気にならないし、子育てをしていれば子供たちに主に意識が向くし、闘病中は自分のことで精いっぱいだったし。

けれども。子供たちも大きくなり、銀婚式を迎える今ではそれなりに歳を重ねて疲れやすくなっていて、そのせいか小さい不満がずーっと心をチクチクと刺すようになった。

その中のひとつはトイレ問題。
そう、『どうして残り10センチしかないのに交換しないんだ!!』という、よく聞くアレだ。

我が家は1階のトイレを主に娘たちが、2階のトイレを主に夫婦で使っている。だから、そんなことをする犯人はほぼ夫で間違いはない。たまにペーパーの芯はちゃんと外しているのに新しいものをセットしていないこともある。

交換は大した手間ではないのだけれど地味にイラっとしてしまう。手間じゃないからこそ「それぐらいやってよ」と腹が立つのかも知れない。

だから夫に仕返しをすることにした。

休日の朝、そっとトイレットペーパーを外して放置してみた。仕返しというよりは「ね?あなたもイラっとするでしょう?」と身をもって体験してもらい、それを機に気をつけてくれればいいなと考えたわけだ。

文句を言われたら「ごめん!でもわたしはいつも黙って交換してるけどね?」とか意地悪を言ってみようかしら、とも思っていた。

ところがだ。

夫が起きてから数時間経っても何も言ってこない。もしかしてまだトイレに行っていないとか?と確認しに行くと、ちゃんと交換してあるではないか。

あら?なんだか肩すかしを食らったような気分。

しかもその日の夕方、ふらりと出かけたと思ったら「ストックが少なくなっていたから補充したよ!」とトイレットペーパーを1階の分も2階の分も買ってきたではないか。さらに、いつも買い物ありがとうね、と笑顔で言われてしまった。

…なんということだろう。

夫は、自分がトイレでその状況になっても全く気にならないようだった。だからそこまで気が回らなかったのだろう。気が利かないと言ってしまえばそうなのだけれど、たしかに自分が気にならなければ仕方ないのだろうな。

イラっとしていたわたし。なんだか自分の器の小ささを目の当たりにしたようで、恥ずかしくなってしまった出来事だった。

夫よ、意地悪く試してごめんなさい。





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