髙橋俊也

広告ディレクター。児童館職員。日本語学校講師。

髙橋俊也

広告ディレクター。児童館職員。日本語学校講師。

最近の記事

童話「タツオのやらなきゃいけないこと」

あさい海のそこに、にょきにょきと生えているピンク色のサンゴ。 そのサンゴのあいだから、ほそくて黄色いくだのようなものが出ています。 そのくだには・・・、あ、まんまるい目がついていました。 そして、からだは・・・、あれ?  その黄色いからだは、サカナとちがって立っていて、シッポの先がクルッとまるまってます。 「さてと、居場所を変えたほうがいいかな」 からだが立っている黄色いいきものは、まんまるい目でまわりを見て、 サンゴをはなれていきました。 岩にはりついたイソギンチャクの、

    • 童話「こうもりバティの夢」

       すべてを明るくてらしていた陽がしずみ、ここ、海のまん中にうかぶ小さな小さな島にも、夜がやってきました。  昼間はねていて、これから目をさますのが、こうもりです。 「あー、よくねた。さあ、今夜もいろんなところへ行ってみよう!」 木の枝にさかさまにぶらさがっていたこうもりの子どもバティは、たたんでいたつばさをぱっとひろげて、くらい夜空へはばたいていきました。  バティは黒いかげが空の雲のようにもりあがった森の前にきました。 「このおくは、いったいどうなってるんだろう」 バティ

      • ハミングバード

         搬送車が大学病院を出て羽田空港へ向かって走り出した。運転席の後ろの座席には、シルバーのクーラーボックスがシートベルトとバインダーでしっかりと固定されていた。その横の座席でボックスに手をかけていた柏木遥は、一度窓外に目を向けたがまたボックスに目を戻した。この小さな命が、やっと旅立てる。そう思った遥は、いや、まだまだ喜んではいられない、と首を横に振りすぐに自分を戒めた。提供者、ドナーの子どもの心臓は、何事もなく羽田を飛び立ち無事金沢の病院に着いて、移植手術が行われなければ。そし

        • 「ルーカス!」

           4年の新学期、オレのクラスに隣町からブラジル人のルーカスが転校してきた。サッカーが一番うまいと思ってるオレは、体育の時間や休み時間にサッカーをしようとしないルーカスが気になってしかたがない。ある日オレとルーカスが公園で子どもたちとサッカーをすることになった時、オレはルーカスのすごいテクニックを見せつけられた・・・。心に秘めた思いを抱えながら、出会い、ぶつかり、次第に気持ちを通わせていく少年二人。約束を交わしたサッカーで光る、汗と涙と友情の物語。       1 あたりのさ

        童話「タツオのやらなきゃいけないこと」

          Hair dressing

           今日、失恋した。なんか、合わないんだよね。一年付き合って、突然言われた言葉がこれだ。 私は、彼のことがすごく好きだった。彼も私のことを愛してくれていると思っていた。でもそれは私の思い込みに過ぎなかった。  彼との付き合いは話が合い、顔もタイプだったところから始まった。本や映画の好き嫌い、服や持ち物の趣味も合っていた。料理の味も辛さの好みに違いがあるくらいだった。きれい好きなところも、時間を守るところも、いろんなことがこんなに合う人はいない。この先は結婚も・・・、と思ったりも

          Hair dressing

          童話「プレコと12ひきのメダカたち」

           みずのなかを、ぴゅっ、ぴゅっ、ぴゅっと、およぎまわっているのは、 ちいさなちいさなメダカたち。かぞえてみると、1ぴき、2ひき、3びき、こっちに、4ひき、5ひき、6ぴき、そっちに、7ひき、8ぴき、9ひき、あっちに、10ぴき、11ぴき、12ひき。  ぜんぶで12ひきのメダカたちが、すいそうのなかでいっしょにくらしています。  1ぴきめのメダカが、よこのガラスをみて、こえをあげました。 「あ、おはよう!」 メダカたちのとなりにはもうひとつおおきなすいそうがあって、 そのしたのほ

          童話「プレコと12ひきのメダカたち」

          春日の桜

          宮古島に紅色の桜が咲く一月の終わり、仲里春日(はるひ)は、幼いとき海で亡くなった父武志にある報告をするために、島に帰って来ていた。春日は一昨年、夢の実現のために入学した東京の専門学校での勉強の最中に、自分の目がよく見えなくなっていることに気づいた・・・。 人生に起こる突然の喪失。その悲しみ、絶望、苦難から立ち上がり、人は顔を上げ前を向こうとする。その強さ、ひたむきさは時として心の声となってあらわれ、人々の胸に深く響くーー。       1  窓を拭こうとした今日子が、外の右

          春日の桜

          スナップショット

          何げないまばたきの一瞬に、人生の奇跡が映る。 夫ががんになった。早期発見で通院治療で完治するという。妻は不安の中で生活をしながら夫を見守った。夫はめいに、何か趣味を持つことをすすめられ、カメラをはじめることにした。何を撮ればいいのかと夫が出歩いている時、妻には健診の再検査の通知が届いていた・・・。日常のささいな出来事の中にこそ起きている人生の奇跡。それに気づいた初老の夫婦の、思いやりのまなざしと、こまやかな愛情に満ちた物語。       1 「だから大したことないっていっ

          スナップショット

          「ちがうこと」

          ちがうことが、したい。 どうしても、ちがうことがしたい。 ともだちが、ボールをなげる。 じゃ、ぼくは、ちがうこと。 そうだ、ボールをけろう。 おもいっきりボールをけってやる! おかあさんが、せんせいとはなしてる。 じゃ、ぼくは、ちがうこと。 そうだ、つくえにすわろ。 いすより、つくえにすわろっと! ぼくは、ほんをよんでいる。 みっつめのまるまでよんだから、もうほんよみじゃなくて、ちがうことがしたい。 ぼくは、えをかいている。 すきなあおをいっぱいぬったから、もうおえか

          「ちがうこと」

          「君に咲く桜」

          時を知り 立ち上がる君に はなむけの言葉より 肩に手をやり力を込める また会おう くだらないことに腹の底から笑い どうしようもない悲しみに胸の奥で泣いた 吐き出された心無い言葉に憤り 人の幸せをわがことのように喜んだ 分かち合った日々の思いが胸の中に輝く そして今  ただ前を見つめる君の眼差し 彼方にはまばゆい光が広がる もうすぐ桜が咲くだろう それは、君の新しい兆しに咲く桜 それは、君の進みゆく道に咲く桜 それは、君の見果てぬ夢に咲く桜 また、会おう 時が

          「君に咲く桜」

          「ママ、カエル」

           「いったいどこへいっちゃったんだろう・・・」 車のまわりにつもった雪に、わたしとパパの長ぐつのあとがたくさんついてる。 「亜里沙、もうあきらめよう。この雪の中じゃ見つからないよ」 パパが、体をおこして言った。 雪はどんどん降ってくる。車の駐車場は空き地みたいなところだけど、あたりは一面まっ白。わたしがクルマをおりて後ろのトランクを開けた時に、リュックを肩にかけた。その時に飛び出しちゃったのかな・・・。見るとサイドポケットのチャックが開いていた。  なくしたのは、自転車のカギ

          「ママ、カエル」

          「マダミヌキミニ」

          その手をおいて目をつむり ゆっくりと息をしてごらん。 猫は人の目につかないところで夢をみるために眠り フクロウは油断しているリスにまばたきもせずじっと狙いをさだめ イルカは遊び飽きることを知らずどこまでも泳ぎ続けているよ。  スクランブルの信号が青に変わり、溜まりに溜まっていた人々が一斉に歩き出した。  ミクも、肩の髪をはらい赤いスマホを耳に当てて歩き出す。東京、シブヤの、すべてが明るく輝く夜。目を上げれば周りのビルの上は大型ビジョンだらけで、若者向け飲料水のCMやア

          「マダミヌキミニ」

          「ひかる、12才」

          夢。人生の夢。かなえたい夢をいくつでも、人は心の中に描くことができます。その夢は、その人の思いの強さで、頑張りで、本当にかなうことがあります。でもその夢は、どんなに頑張ってもかなわないことも、もちろんあります。それが、現実。夢よりもそんな現実がほとんどだということも、人は人生の中で知っていきます。でも、だからこそ夢を描いて、精一杯生きることに価値があることを、人は人生の中で知っていくのです。       1 授業が終わった帰り、わたしが玄関で上ばきをはき替えようとした時、ク

          「ひかる、12才」

          「おとなりのお皿」

           ぴんぽーん。  英子さんの家のチャイムがなりました。玄関には、手にお料理をのせたお皿を持っておとなりの友子さんが立っていました。 「ねえ英子さん、これ作ったんだけど、食べてみて!」 「ありがとう友子さん、お皿あけるから、ちょっと待ってて」 英子さんが受け取ったお皿を持ってキッチンへいこうとすると、 「あ、いいのいいの英子さん、お皿はあとで返してくれれば」 友子さんはそう言いながら玄関を出ていってしまいました。  英子さんは三年前に夫をなくしてひとり暮らし。でも持ち前の明る

          「おとなりのお皿」

          童話「とぶひよこ」

           お日さまがまぶしい、とってもきもちのいい朝。 一わのひよこが、ぴかぴかのランドセルをせおって歩いています。 名まえは、“ひなた”。 今日からぴょー学校にかようひなたは、うれしくてしょうがありません。 だってぴょー学校に行けば、いろんな友だちに会えるから。  ひなたがよこを見ると、知らないひよこが歩いています。 ひなたが早足で歩き出すと、知らないひよこも早足で歩き出します。 ひなたがかけ出すと、知らないひよこもかけ出します。 ひなたが思い切り走ると、知らないひよこも思い切り

          童話「とぶひよこ」

          童話「こぶのすけ、うみをいく」

           ここは、どこまでもあおくすんだ、みなみのうみ——。 にょきにょきとはえたさんごのあいだからかおをだしたのは、ちいさなイカのコブシメです。  コブシメのなまえは、こぶのすけ。  こぶのすけが、からだのまわりのひれをひらひらさせておよいでいくと、まわりをいろんないろやかたちをしたさかなたちが、おもいおもいによぎっていきます。 「だれかと、ともだちになりたいな」 こぶのすけがそういいながらあたりをみると、かいそうをはさみでとってたべているちいさなカニが目にとまりました。 こぶ

          童話「こぶのすけ、うみをいく」