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アメリカ ルート66を巡る旅 11 ニューメキシコ州 東部

ニューメキシコ州を走る旧ルート66

ルート66の旅、今回はニューメキシコ州の東部を紹介します。ニューメキシコ州という州は日本ではあまり聞かない地名だと思います。ここはアメリカ中西部に広がるグレートプレーンズとロッキー山脈から続く高地の境です。テキサス州からニューメキシコ州に入ると時計を1時間巻き戻し、段々と標高が上がっていきます。それまで砂漠だった土地に木が増えてきて、それは広大な森になります。そして気温も徐々に下がっていくのです。景色が砂漠から森に変わる境目でポツンとTucumcariという町に出会います。

今回はテキサス州とニューメキシコ州の州境からニューメキシコ州のLas Vegasまで270kmを紹介します。止まらずに走ると2時間30分程の距離です。

<Tucumcari>
テキサスとの州境の町グレンリオを通り過ぎ、しばらく走ると、久しぶりに町に到着します。ツゥクムカリという町。町といってもかなり小さいです。でもここには、町としての最低限の店と宿泊施設、いくつものガソリンスタンドがあるのです。ノスタルジックなモーテルが沢山ある町として知られています。
ツゥクムカリのメインストリートでもある旧ルート66を車で走ってみると、この町は我々が思い描く典型的なルート66の町であるということを理解しました。旧道沿いにはカメラマンやデザイナーだったら興奮するほど沢山の「古き良きアメリカ」の町が残っているのです。60年代のモーテル、サイン、ダイナー、ガソリンスタンド、夜になるとネオンが美しく、まるで60年代にタイプスリップしてしまったのではないかと思えるほどノスタルジックな世界です。この光景は圧巻です。実際旅行者の多くはインナーチェンジ付近の近代的なモーテルに宿泊するのですが、ルート66のイメージを撮影するにはベストな街であることは変わりありません。

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<Blue Swarrow Motel>
ブルー・スワロー・モーテル。ルート66を紹介している本や雑誌にはこのモーテルのネオンが必ずといっていいほど載っています。ルート66の代表的なポイントです。実際に行ってみると、かなりくたびれた建物ではありますが、建設当時の面影を残しつつ、とても素敵なデザインにおおくの旅行者はうっとりするのではないでしょうか。部屋は狭いのですが、ルート66を旅する人ならば是非宿泊してみたいモーテルです。ここは、治安が悪くないので宿泊しても大丈夫だそうです。

ツゥクムカリの南を走る州間高速40号沿いには、全米チェーンのモーテル群、最新式のガソリンスタンドがたくさんあります。勿論チェーン店化したファーストフード店、レストランが軒を並べているのです。
町は完全に2分化され、栄えているのは南の新しい町です。かつて繁栄した旧ルート66の町は現在どんどん寂れて行っています。町の遺構は文化的な価値を見いだされず、どんどん破壊されています。私のような旅行者にとってこれら古き良きアメリカの遺産は大切にして欲しいのですが、産業としては、なりたたないのでしょう。確かに私も懐かしいモーテルに泊まらず、新しくできたホテルに泊まってしまっています。この矛盾がルート66の全てを物語っています。人が便利を追求し、心が豊かだった頃を忘れてしまっているのです。
そんな矛盾を感じたツゥクムカリの町でした。

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<Santa Rosa>
ツゥクムカリを過ぎると、道は上り道となりだんだん標高が上がっていきます。そして、その先には大高原地帯が迫っています。まだこの辺りは砂漠地帯で、周囲には乾いた大地が見渡せます。砂漠最後の地域に、かわいらしい町Santa Rosaがあります。サンタ・ロサもツゥクムカリのように古き良きルート66の面影を強く残している場所です。

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<Rt 66 Restaurant>
60年代のデザインが多数残されていて、何とも言えないほのぼのとした光景がそこにはありました。ルート66レストランもそのひとつです。
*2021年時点でこのレストランが存続しているか不明です。Google Mapから消えてしまいました。この店の現状をご存知の方は教えてください。

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<Club Cafe>
ツゥクムカリ程ではないですが、この町も古い物は壊されていっています。かつて旅行者や地元の若者で賑わったであろうカフェがありました。しかし、残念ながら閉店しています。この遺構もいつまで残っているのか心配です。

<Oasis Motel>
現在も営業中のルート66らしいモーテルです。ツゥクムカリから西、カリフォルニアの手前あたりまでのルート66周辺にあるロードサイド・アトラクションのデザインは、ツゥクムカリ以東のデザインと異なります。ちょっと明るい色使いとPOPな印象が強くなります。メキシコの影響や西海岸の影響があるのだと思います。オアシスホテルのデザインもそういった影響を受けたこのあたり特有のものでした。
*2021年時点でこのホテルが存続しているか不明です。Google Mapから消えてしまいました。この店の現状をご存知の方は教えてください。

サンタ・ロサは、ルート66観光では軽視されがちですが、実は見所がたくさんあります。スケジュールではサンタ・ロサ観光の時間をゆっくりとっておいてください。

サンタ・ロサの先は、旧ルート66は、2つのルートにわかれます。
1937年より前のルート:
ルート66が企画されたときは、山脈を北に迂回するルートが整備されました。サンタ・ロサを通り過ぎると北に向かい、サンタ・フェに向かいました。そしてサンタ・フェを抜けると南に下りアルバカーキに到着します。アルバカーキからはまた西に向かって進みます。ギャラップを通りアリゾナ州に入るのです。北側に大きく迂回するルート66。この道を作る頃は土木建築技術が発達していなかったので険しい山を回避しながら道を建設していったのでしょう。
1937年以降のルート:
しばらくすると、サンタ・ロサとアルバカーキの間にある山脈を通り抜けるルートが造られます。これによりルート66は時間にして4時間短縮することになりました。サンタ・ロサから北ルートを通ることなくほぼ西に向かって道は延び、サンタ・フェを通ることなくアルバカーキに到着するのです。このルートができたおかで旅行者は大陸横断がかなり楽になったはずです。

今回は、新しいルートではなく、北に迂回する旧道を走ります。サンタ・ロサをすぎ84号線を北上します。このあたりは草原です。遠くに山が見えますが360度大パノラマが楽しめます。ルート66は、かつてのサンタ・フェ・トレイルを通りサンタ・フェに向かうのですが、私たちはちょっとだけルート66を逸れ、ニューメキシコ州、ラス・ベガスに寄ってみました。

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<Las Vegas>
有名なネバダ州のラス・ベガスではなく、ニューメキシコ州のラス・ベガスです。同じ名前ですが、こちらはとても静かな街でした。かつてアメリカ横断鉄道ができた頃、ここに駅ができました。駅にはハーヴィ・ハウスという富裕層向けのホテルがオープンし、東海岸に住むお金持ちたちがこのリゾートホテルに宿泊するために鉄道に乗ってやってきました。今でもシカゴとロサンゼルスを結ぶアムトラック・サウスウエスト・チーフ号が1日1往復走っていて、この駅に停車します。
街はメキシコ文化が残り、建物もメキシコっぽいです。この街はこれら歴史的建造物を観光資源にしています。

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ラス・ベガスは、かつてサンタ・フェ・トレイルの宿場町として栄えました。鉄道も開通しかなり賑わったそうです。現在も使われている駅舎はとても洒落たデザインです。町外れに位置していますが、駅からダウンタウンまでは歩いて散策できるようになっています。この町は結構人が住んでいますが町自体は1900年前後のままです。でも古くはないのです。住人は石作りの古い町並みをきちんとメンテナンスして維持しているのだと思います。こういった文化はヨーロッパの都市と似ているような気がしました。

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<Hotel Castañeda>
1800年代後半になるとフレッド・ハービィという人が、ラス・ベガス駅の隣に洒落たホテルを建てました。ハービィは、鉄道網の発達により、大陸横断が東海岸の富裕層に流行ると感じ、中西部から西海岸の都市にハービィ・ハウスと呼ばれる高級ホテルを建築していきました。当時は、東海岸から西海岸までの大陸横断にはとても時間がかかりました。鉄道は夜行ではなく夜は駅に止まり、乗客は駅近くのホテルに宿泊したのです。しかしその頃の西部開拓時代の町は不潔で安心できるホテルもありませんでした。ハービィは、主要駅に有名デザイナーを採用した清潔で豪華なホテルを建設し、地元で美しい女性のみを採用しサービスを始めたのです。このビジネスは大成功します。東海岸からお金持ちが押し寄せ、ハービィ・ハウスが建っている駅周辺はとても潤ったそうです。このハービィ・ハウスで働く女性達の物語は、「ハービィ・ガールズ」というタイトルで映画化され主演はジュディ・ガーランドでした。

一世風靡したハービィ・ハウスですが、現在でも営業しているのは、グランド・キャニオンのエル・トバとサンタ・フェのラ・フォンダくらいです。殆どは建物自体が壊されてしまいました。

ラス・ベガスにはこのハービィ・ハウスが残っています。ホテル・カスタネーダです。ラス・ベガス駅の隣にある立派な建物です。しばらく廃墟になっていましたが、最近新たな所有者が営業を再開しました。
近年、アメリカではハービィ・ハウスの人気がでてきているそうで、ウィリアムスにあったハービィ・ハウスは修復されレストランとしてオープンしたそうです。

*コラム:ニューメキシコ*
テキサス州を過ぎ、ニューメキシコ州に入ると、乾燥した空気ではなくちょっと違う空気に包まれます。テキサスとは違う湿度があるのです。おそらくテキサスやカンザスはカナダから吹く風とメキシコ湾から吹く風が影響しているのではないでしょうか。ニューメキシコ州はロッキー山脈の影響を受けているような気がしました。住んでいる人はメキシコ系が増えてきます。大きな街はありませんが、木々が見えてきて、それが次第に森になり、寂しさは消えていくのです。
ルート66を走ってきて、セントルイスで雰囲気が一変したのと同様、久しぶりにこの辺りで雰囲気が変わりました。

次回は、サンタ・フェを観光し、ニューメキシコ州の州都アルバカーキに寄ります。お楽しみに。



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