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アメリカ ルート66を巡る旅 05 ミズーリ州 西部

今回はミズーリ州の西部を走ります。州間高速44号線の脇を並走する旧ルート66を走り続けていきます。治安の悪い都市・セントルイスが恋しくなるほど、延々と森が続きます。この辺りにはその森の中に寂しく小さな町がポツンポツンと点在しています。そして町と町の間隔も段々と広がっていくのです。
鬱蒼とした森が続き、なんとなく気分も暗くなりかけていた頃、遂に広大な平野が現れました。終わりがないと思われていた森林地帯が終了し、視界はとても広く開け、気分も上がります。

地図でみると、しばらくは広大な大地が広がっていることがわかります。そして久しぶりに大きそうな町がその先にあることを示しています。

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<Springfield>
大きな町スプリングフィールド。イリノイ州の州都だそうです。イリノイ州にあったリンカーンの生まれ故郷の町と同じ名前ですが、共通点はありません。この街は、南北戦争の激戦地だったそうです。現在も街の至る所に戦争の名前が地名として残っています。
1927年にはシカゴとロサンゼルスを結ぶ国道ルート66が通り、1970年にはセントルイスとサンフランシスコを結ぶ鉄道が繋がり、スプリングフィールドの街は栄えました。ルート66は、元々セントルイスとスプリングフィールドを結んでいた道路をベースに東西に拡張されたので、ルート66発祥の地としても有名です。
この街の産業は何でしょう?15万人を有する大きな街ですが、産業は中規模商工業だそうです。あとは宗教関係の施設がおおくかなりの雇用があるようです。宗教大学もおおく街は潤っているようにみえました。
我々には俳優ブラッド・ピットが生まれ育った街と聞くと親近感が沸くかもしれません。
見るべきポイントは、街の中に残るルート66が開通当初の遺構くらいでしょう。むしろルート66を旅する者にとってはこの街は宿場町みたいな使い方をします。理由は簡単です。スプリングフィールドの前後には大きな街はなく、あっても宿泊施設やレストランは限られているからです。車で旅する人々は、比較的大きなこの街で休むことを選択せざるを得ないのです。実際、ルート66の通る道路沿いにはたくさんのモーテルとレストラン、バー、ガソリンスタンドが並んでいます。どれも全米にチェーン店として広がる店舗ですが、むしろこの辺りの寂しい場所では安心感があります。

*コラム*
ミズーリ州のスプリングフィールドはキリスト教系の新興宗教の総本山です。この辺りに住む人たちは白人で、有色人種はほとんど見られません。そして家と家の感覚が広く、夜は真っ暗です。過酷な自然環境の中で農業を営んだり小さな商店を経営する人が多く、家族とささやかに暮らしているようです。スプリングフィールドの住人もそうですが、中西部の人たちは生まれてから亡くなるまで一つの街で人生を送るという方々がかなりの数いるのです。彼らは大都会ニューヨークで自由の女神を見たこともなく、ましてや海外情勢になんて興味はありません。自然の脅威に怯え、家族を大切に生きることが大切なのです。そんな彼らの心の支えが宗教です。メガチャーチと呼ばれるプロ野球の球場のような教会に週末は数万人が集い、祈りを捧げます。そして家族を守るためには銃が必要なのです。
こう書くと、この辺りの人は保守的で外国人排他主義の狂ったトランプ支持者なのか、と思われるかもしれませんが、そうではないのです。皆さん、神を信じ、共和党支持者ですが、我々を暖かく向かい入れ気さくに話しかけ、何かできることはないか聞いてくれるのです。日本での報道はちょっと極端で、右か左か、リベラルか保守か、みたいな論争になりますが、中西部に住む多くのアメリカ人は、穏やかで家族思いで心優しい白人層なのです。

スプリングフィールドを出発し44号線を走るとHalltownという小さな町のサインが出てきます。旧ルート66は、この辺りから西側にいくつかルート変更を行なっていますが、今回はミズーリ州を今までずっと走ってきた44号線を降り、州道96号線に入るルートを走ります。このルートが当時のルート66の面影を残しているからです。
96号線を西に向かいながらCarthageという街を目指します。
 
<Carthage Town Square>
アメリカ人の理想の街と呼ばれるカーセージ。この街は、ルート66上にある皆が思う「アメリカ」です。一説によると、映画「Back to the Future」のスタッフがここをロケハンして、映画の中に出てくる50年代後半の街を再現したそうです。
街の中心に行くと確かに映画に出てきたようなどこか懐かしい風景です。タウンスクエアの真ん中には時計台があり、スクエアの角にはカフェがあります。アメリカのどこにでもありそうで、ない、理想の街がここにあるのです。そして住人たちはこの街を大切にしていました。
私は早速カフェに入ってみました。このあたりは住人の90%以上が白人です。東洋人は珍しいはずですが、他の人と同じように話しかけ朝食を作ってくれました。美味しい卵料理とアメリカらしいフレーバーコーヒーは、冬の旅行者にとても暖まるものでした。店の人に映画の舞台になったことを聞いてみると、それは間違いだと言っていました。カナダ辺りの映画ファンが広めた噂だよ、と言っていましたが、映画と店の位置関係までもが一緒なので偶然ではないと思います。店の人は知らないだけで、実は美術チームがロケハンに来ていたのでしょう。そう思いたい程、映画にそっくりな街でした。ちなみに映画「Back to the Future」のタウンスクエアはロサンゼルスのユニバーサルスタジオのオープンセットです。私は実際に撮影が行われたセットにも行ったことがありますが、カーセージととてもよく似ていました。 

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<Drive In Theater>
カーセージにはタウンスクエア以外にもうひとつ素敵なポイントがあります。それは現在も営業しているドライブイン・シアターです。冬は営業はお休みですが、春から秋にかけては映画を上映しています。ひとり6ドルでした。車を駐車スペースに止めFMラジオをあわせると、映画の音声がステレオで車内に響くのです。かつては全米に広まったデートスポットであるドライブイン・シアター。現在はその殆どがクローズしています。映画館の視聴環境が良くなったので皆がシネコンに行くようになってしまったのです。そして、ドライブイン・シアターでは、低俗な作品が上映されるようになり、お客は遠のいていったのです。
このドライブイン・シアターでは、どんな映画が上映されているのかわかりませんが、近くに映画館がないようですし、とても奇麗だったのできっとメジャー映画が上映され、夏には沢山の家族連れで賑わうのだと思います。こういう光景も古き良きアメリカがそのまま残っている街だなあと感じました。

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カーセージを出て249号線を走ると66号線と交差しますので、右に曲がり66Wを走ります。この辺りからJoplinの街となります。

<Joplin>
ミズーリ州西端にある比較的大きな街。しかし行ってみるとダウンタウンは寂れています。数年前には竜巻が街の中心を直撃し大きな被害が出ました。元々は鉛工業で栄えた街だそうです。今でも廃棄された工場をたくさん見ることができます。鉱山が閉鎖されて街は衰退しましたが、その後70年代に再開発を行いました。その時多くのルート66の名所が破壊されてしまったそうです。現在ではKeystone Hotel、Fox Theaterなどいくつかの史跡が点在しています。

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*コラム*
ミズーリ州を走り抜け記憶に残ったこと、それは、とても心の豊かな人々がひっそりと暮らしている風景です。それほど大きな産業もなく決して大金持ちではない人々が、一見地味ですがお金では買えない豊かな心を宿しているのです。そして、近所の人々とカフェで話をして助け合う姿は、なんだか羨ましくなりました。日本では、マスコミはアメリカの悪い部分ばかり報道し、このような地味なことは伝えません。この偏った報道によりおおくの日本人は「アメリカ」を誤解しているのだと思います。そして偏った資本主義の概念ばかりをまねた結果が今の日本です。アメリカの良い部分に学ばず、悪い部分ばかり模倣してしまった日本。日本人としてちょっと悲しくなりました。
ミズーリ州の住人は敬虔なクリスチャンです。日曜日には必ず教会に行くそうです。どんな小さな街にも立派な教会が建っていました。スプリングフィールドのようにキリスト教系の新しい宗教も活発です。彼らは単に保守的なのではなく、大きな変化を望まない朴訥とした市民だったのです。
 
次回は、「オズの魔法使い」の舞台となったカンザス州を抜けます。
お楽しみに!


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