記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

『変な絵』感想

ネタバレあり
読み終わってすぐに殴り書いているざっくばらんな感想だから、読みづらいかも


読んでまず思ったのは「むっちゃ読みやすい」ということだ。

絵や図解などが数多く挿入されていて、紙面がとっつきやすいし、単調さもないように思われる。
文字だけのページも、改行が多く挟まれていたり余白が多かったりして圧迫感がない。
筆者がウェブライターだからだろうか、重要な箇所がボールド体になっているのも面白い。本ってこんなに自由にできるんだ……

「2012年11月20日の記事」が15ページにも38ページにも書かれているように、「重要な文章」が作中で話題になるたびに改めて提示されるのもありがたい。いちいち前のページに戻らなくて済むからね。
記憶力ガバガバ鳥頭でも「あれ、あの文章ってどこで出てきたんだっけ……?」とならずにどんどん前に進める。

それと、文章にクセがない。平易な言葉で、ちょうどいい長さの文章が淡々と書かれている。
読んでいて「うん? 今なんつった?」とか「知らん言葉出てきた……」とか「いつまで同じ話すんねん、くどいわ!」となる場面がほぼない。

あと、ストーリーの構成が面白い。
「バラバラに見えた複数の章が一つにつながる」というのも面白いが、個人的には物語を構成するピース──登場人物などに面白さを見出している。

ざっと見る限り、登場人物やシチュエーション、人物同士の関係性に大きな特徴はない。

「子どもを守るためなら何でもする、子煩悩な母親」
「母親の小さな恋人のようになっている息子」
「多数に疎まれ嫌われつつも、一部に慕われる熱血教師」
「教師に秘めた複雑な愛を抱いていた女性」
「真相にたどり着いたがゆえに殺された、熱意ある若手記者」
「後輩の死の真相を突き止めようとするベテランの元記者」

──大体どこかで見たことのあるキャラクター造形だ。
けなしているのではない。とにかく分かりやすく、受け入れられやすいキャラクター造形ということだ。
ゆえに「あーね」「そういう感じね」と、すぐさまキャラクターの行動原理ないし彼らを取り巻く環境を推測することもできる。

シチュエーションや人物同士の関係性も同様だ。
「真相に気づいて殺される」「子どもの教育方針で揉める夫婦」「弱みを握って肉体関係を迫る」「女と女の確執」など、一つ一つを切り抜いてみれば、どこかで見たような感じもする。

面白いのは「絵」をフックにしてこれらの「ピース」をつなぎ合わせ、一つのストーリーに仕立て上げているところだ。
ここのつなぎ合わせ方が『変な絵』の独自の部分であり、面白さなのではないかと思う。それぞれのピース自体は割とありふれたものだろうから。

ただ、この作品を通して描かれている「情念」みたいなものは、独特の深みを持っているような気もする。

例えば、直美が子どもや文鳥に対して抱いていた母性本能。

──今野直美の所業を最初から最後まで読んだときに私が思い出したのは、シェーラーが『同情の本質と諸形式』で言っていた「愛と母性本能は対立する」という部分である。
いわく、母親の「愛」は子どもを自立させようとするが、「本能」は我が子を胎内に押し戻そうとでもするかのように、子どもにひっきりなしの庇護を与えるというのだ。

そして、直美が「子ども」に向けていた情念は、清々しいほど「本能」に振り切れていた。直美というキャラクターの分かりやすさも、この極端さに由来しているように思う。
「本能」だからこそ、獣じみていて、残虐で、自分たちの外敵に対して驚くほど鋭敏に反応する。自分と子どもが生きるため、他を食らうことにためらわない。実に動物らしいといえる。

けれど最終的に、彼女は自分の母性が子どもの自立を妨げてしまっていたことに気づきもした。

ここに情念の深みがある。他のキャラクターも同様だ。

由紀は三浦に対して、「父親への愛」「恐怖や疎ましさ」「恋心」といった、複雑な感情を抱いていた。
熊井が直美を追い詰めた背景には「岩田の敵討ち」の他にも「真っ先に真相にたどり着いた岩田への対抗心」「病気から来る人生への焦り」などがあった。

キャラクター造形は基本的に分かりやすい。が、掘り下げると、少し複雑な一面が見えてくる。
単純すぎず、複雑すぎず、非常に「ちょうどいい」。

「分かりやすいピース」を使って作られた一つの「面白いストーリー」があり、そこに「人間くさい情念」が血を通わせているのだ。

だから面白いのだろうか?
……何かを「面白い」と感じる理由を説明するのは難しいね。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?