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イギリス史ここが面白いよ⑴:保守と革新

イギリス史の「面白いポイント」についてざっくり話す。
細かい人名とか西暦とかは一切出てこないので、気楽に読んでほしい。

そして、もし興味があれば、各種のイギリス史関連書籍を調べてみていただきたい。
個人的なおすすめは、ミネルヴァ書房の"MINERVA 西洋史ライブラリー"シリーズである。
他にもおすすめがあれば、教えてほしい。

保守と革新

「イギリス=保守と革新」というイメージは、イギリス史好きでなくとも、結構持っているのではないかと思う。

だってイギリス、世界に先駆けて議会制民主主義とか始めた割には、いまだに王室とか階級とかもあるじゃん? 不思議なことに。

あれって何なのかといえば「革新的であるがゆえの保守性」なんだよね。
イギリスって、支配層がまあまあ柔軟なんだ。

王室関係でいえば、隣国フランスがサリカ法典ガンギマリでかたくなに男系男子世襲王政しか認めなかったのに対して、王位継承絡みで流血沙汰を起こしまくったイギリスは、早くに女系・女子への王位継承を認めているんだよね。

(イギリスに女王がいるのに、フランスに女王がいないのはこのため)

貴族とかの広い意味での支配層も同じだ。
イギリス史においては、元々貴族という支配層がいたところに、勢力を増したジェントリとかシティの市民とかがヌル〜っと取り込まれていって、新たな支配階級が構成されていくということが起こってきた。

(ヘンリー8世の修道院解散→元修道院領の多くがジェントリの手に渡る→ジェントリの勢力拡大とか、何かしらの契機があるんだよね)

このように、支配層が保守的・守旧的というよりむしろ革新的であったからこそ、却ってイギリスは劇的な改革を経験しなかったともいえる。
革新的であるがゆえの保守性──ここがまさに、イギリス史のおもしろポイントなのである。

(まあ、いうて三王国戦争とかやってるし「劇的な改革を経験しなかった」というのは、あくまでも「イングランド目線」感はあるけどね)

これは、特にフランスなんかと比較すると分かりやすい。

男系男子を固守したフランスの王室や、明確で固定的な身分制度は、フランス革命という劇的な改革によって、結果派手にぶっ壊された。
また、この革命の担い手は、改革したいブルジョワ+彼らに率いられた一般庶民だった。

一方のイギリスは、ピューリタン革命なども起こったとはいえ、現在に至るまで形を変えつつ王室を維持している。階級意識も健在だ。
そしてイギリスの革命は、一般庶民よりもブルジョワが主体となって起こしたものだったのである。

こうやって見ていくとどうだろう。
イギリスの持つ謎の古臭さと新しさの両面が、理解できたのではなかろうか。

そして、おそらくだが、イギリスの支配層が持っているこの「柔軟性」は、他者との折衝・妥協の必要性から生じてきたのだろう。

あの狭い島の中にひっきりなしに異民族が去来し、やがて三つのネイションがひしめき合うようになっていった。その上、向かいにアイルランドはあるわ、フランスもあるわ、デーン人は来るわ、普遍権威が首を突っ込んでくるわ、宗教的にもバラバラだわ……

こんな状況で「古いあり方」を墨守しようとしたら、多分、変化していく世の中に取り残されて滅ぶだけだからね。
イギリスという国をまとめ上げるために、支配層は各文化集団を緩やかに治め、柔軟に対応していかねばならなかったのだ。そこが面白い。

イギリス史の魅力は、第一に、ヨーロッパの荒波の中で培われた保守と革新のバランス感覚にあるのである。

次回↓

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