『B'z LIVE-GYM Pleasure 2023 -STARS-』感想/デビュー35周年、サブスク解禁以降の歩みに見るJ-POPとの共生

これ以上のPleasureはもうないかもしれない。デビュー30周年を記念して開催された『B'z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI-』の最終公演、味の素スタジアムでのライブを見て、僕はそんな印象を抱いていた。
 
2010年代以降のB'zの代表曲となり、近年のライブではハイライトで演奏されることが通例となっていた「ultra soul」をあえて一曲目に持ってきて、テーマソング的な位置付けの「Pleasure 2018 〜人生の快楽〜」で本編を終え、アンコールに長年ファンに愛されてきた「Brotherhood」と「RUN」を持ってくるというセットリストは文句のつけようがなかったし、声を振り絞るように絶唱した稲葉さんの姿からは真夏のロングツアーの過酷さを改めて思い知らされた。
 
「RUN」のラスト、<飛べるだけ飛ぼう 地面蹴りつけて 心開ける人よ行こう>の後に、稲葉さんがもう一度「行こう!」と繰り返した瞬間に涙腺が崩壊して、B'zがこれからも走り続けることは確信した。それでも少し時間が経ってあの日を思い返すと、「もうあれ以上はないのでは」と思わずにはいられない自分がいたのも事実だった。
 
そんな2018年から5年、パンデミックという未曾有の経験を経て開催された『B'z LIVE-GYM Pleasure 2023 -STARS-』で2人は度重なる困難に打ちひしがれながら、それでも歩みを止めず、デビュー35年目にしてまた新しいPleasureを見せてくれた。
 
 
(ちょっと硬いので、ここからはもう少しライトに書きます)
 
 
①    セットリスト
 
まずはシンプルにセットリストがよかった。直近のツアーである『B'z LIVE-GYM 2022 -Highway X-』で演奏された「ギリギリchop」、「愛のバクダン」、「さまよえる蒼い弾丸」、「ZERO」、「裸足の女神」あたりをやらなかったのに加えて、「juice」や「BLOWIN'」といった鉄板曲もやらなかったのは、意外と言えば意外だった。
 
だからといって地味なセトリだったかというともちろんそんなことはなくて、「ultra soul」や「イチブトゼンブ」は(ライブアレンジで)当然やったし、CDシングル売り上げ1位・2位の「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」と「LOVE PHANTOM」もやったし、振り付け曲の「恋心」や「NATIVE DANCE」(清さんのスラップバチバチ)は夏のお祭りにはやっぱり欠かせない。
 
「FIREBALL」(この曲で連続ミリオンが途絶えたけど、この曲でエアロスミスと仲良くなったエピソード好き)や「JAP THE RIPPER」といったハードロック系も、「LADY NAVIGATION」のようなポップ路線もバランスよく揃えて、日替わりで披露された「夜にふられても」や「星降る夜に騒ごう」、演出込みで披露された「BIG」のようなレア曲も嬉しかった。
 
さらに「IT'S SHOWTIME!!」からの流れでライブ終盤を盛り上げたのが「君の中で踊りたい 2023」。『B'z LIVE-GYM Pleasure 2008 -GLORY DAYS-』でデビュー曲の「だからその手を離して」を当時と同じカラオケスタイルでやったのも楽しかったけど、過去曲を今に更新するスタイルはツアーごとにサポートメンバーも更新してきたB'zらしい。もちろん「あれやってない、これも聴きたい」を言い出したらキリがないけど、概ね大満足なセトリでした。
 
 
②「ultra soul」からの「BAD COMMUNICATION」
 
 
そんなセットリストの中でも今回特筆すべきは「ultra soul」から「BAD COMMUNICATION」への繋ぎでしょう。
 
正直に言って、僕はちょっと前まで「ultra soul」がB'zの代表曲とされることをあまりよしとは思ってませんでした。あの「ウルトラソウル!ハイ!」がお茶の間でもロックフェスでもB'zという存在をより国民的な位置に持っていったことは間違いないものの、B'zはやっぱり「THE ONLY SURVIVING HARD ROCK BAND IN JAPAN」(引用by『DINOSAUR』、ファイナルの開演前SEはブラックサバスでした)なのであって、打ち込みベースの4つ打ちの曲が代表曲なのおかしいでしょ!なんてことを思ってたわけです。
 
ただ2020年に行われた配信ライブ『B'z SHOWCASE 2020 -5 ERAS 8820』もあったりして、彼らの歴史を改めて振り返ると、デビュー当時は松本さんがTM NETWORKなどをサポートしていた背景もあり、打ち込みのダンスビートとハードなギターを融合させ、その後も生演奏のハードロック路線と打ち込みのポップ路線を交互に繰り返しながらキャリアを築いてきたことを思えば、その両側面が融合した「ultra soul」こそが彼らの代表曲に相応しいのではないかと思うようにもなりました。
 
そして、4つ打ち路線の初期の代表曲にして、B'zのブレイクの礎を築いたのが「BAD COMMUNICATION」だったわけで、つまり今回のPleasureではそんな歴史をこの2曲を繋ぐことによって体現してみせたわけです。『B'z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI-』で「LOVE PHANTOM」のオマージュ的な楽曲である「HINOTORI」を曲中に挟んだのもかっこよかったけど、こういう「メガミックス」(あえてこの言い方をします)はDJ文化・クラブ文化とも相性の良かった「BAD COMMUNICATION」にこそふさわしい。
 
ちなみに原曲のBPMは「ultra soul」が130くらいで、「BAD COMMUNICATION」が120くらいなので、音源よりテンポがちょっと上がってると思われます(ライブでやったのは「BAD COMMUNICATION -ULTRA Pleasure Style-」だったと思うけど、これも原曲のBPMは120くらい)。
 
 
③ 「兵、走る」
 
 
本編ラストが「兵、走る」だったのもよかった。2008年が「ギリギリchop」、2013年が「RUN」、2018年が「Pleasure 2018 〜人生の快楽〜」と、ライブでの重要ナンバーが担ってきたこのポジションに、2019年リリースという最近の曲を置いたことが、「新しいPleasure」というイメージを最も印象づけるものだった気がする。
 
なおかつこの曲は「アスリート的な側面を持つミュージシャンとしてのB'z」のイメージをもう一度更新する曲でもある。『世界水泳』の「ultra soul」(や「スイマーよ!!」や「GOLD」や「You Are My Best」)はもちろん、「熱き鼓動の果て」にしろ「RED」にしろ、B'zの楽曲はスポーツとの相性がよく、この5年の間には大谷翔平のニュースで「IT'S SHOWTIME!!」がかかっているのをよく耳にしたりも(ホームラン王おめでとうございます!)。ラグビー日本代表の応援ソングである「兵、走る」はまさにその系譜に連なり、最先端から加速する一曲だ。
 
そして、そんなアスリートの根本にあるのが「走る」ということであり、「RUN」を今に更新する曲としての「兵、走る」の重要性が浮かび上がる。<荒野を走れ どこまでも>と<ゴールはここじゃない まだ終わりじゃない>というメッセージにもシンクロがあるし、「YES YES YES」を歌いながらスタジアムクラスの会場を走って一周した稲葉さんのアスリートっぷりはもはや驚愕もの(ファイナルでは前日の足の負傷により台車を使用)。しかし、その走り続ける姿こそがB'zのB'zたる所以。Pleasureの開催期間と4年ぶりのラグビーワールドカップの開催期間が被ったのも、きっと偶然じゃない。
 
 
④ 「STARS」からの「Pleasure 2023 ~人生の快楽~」
 
 
アンコールは今回のツアーのために作られた新曲「STARS」から「Pleasure 2023 ~人生の快楽~」。「STARS」はステージから見たオーディエンスのキラキラした姿を想像して作られた曲で、<目も眩むStars われらみなStars><見てごらんよ眩しいだろう>という歌詞を具現化するかのように、スマホのライトが会場全体を輝かせた場面は今回のツアーのハイライトに。
 
そして、このツアーのテーマソングであり、一人の主人公の人生を定点観測的に描き続ける「Pleasure 2023 ~人生の快楽~」という曲は、人にはそれぞれの人生があり、それぞれの物語があり、それぞれの喜びがあるということを伝えてくれる。重いマーシャルを運んでた彼も、レスポール離さなかったアイツも、社会の波に揉まれながら必死で生きてきた誰もがSTARSであり、ステージ上のアーティストも、それを見つめるオーディエンスも、それぞれが誰かのヒーローで、お互いを輝かせながら生きている。それこそが『B'z LIVE-GYM Pleasure 2023 -STARS-』のメッセージだ。
 
「Pleasure 2023 ~人生の快楽~」の2番では、こんな風に歌われた。<何年ぶりだろ アイツとまた会えた そして懐かしい笑顔を見せた 何が起きても自分次第 人はいつからだって新しくなれる>。間違いなく、新しいPleasureを見せてもらった。
 
 
(結局文章が硬くなってますが、このまま行きます)
 
 
⑤    サブスク解禁以降の歩みに見るJ-POPとの共生
 
 
B'zのこの5年間を総括するのであれば、「共生」という言葉がとてもしっくりくる。コロナ禍の最中に頻繁に用いられた言葉ではあるが、「誰もがSTARSであり、それぞれが誰かのヒーローで、お互いを輝かせながら生きている」というのはつまりは共生へのねがいだ。
 
1990年代以降のB'zはその存在があまりに大きすぎるがゆえに、外部との交流は決して多くなかった。基本的にメディア露出も少ないし、他のアーティストとのコラボレーションもあまり多くはない。それでもアレンジャーやサポートメンバーを定期的に変えて、松本さんも稲葉さんもそれぞれソロ活動を行うことで新陳代謝は図られてきた。いわゆる活動休止期間というのもなく、「停滞感」とは無縁。2010年代に入ると音楽業界の構造がドラスティックに変化していき、B'zの活動にも少しずつ変化が生まれていったわけだが、それでも彼らが歩みを止めることは決してなかった(そのあたりはこの記事も参照してください)。
 
そんな中で迎えた2020年のパンデミック。YouTubeでの『B'z LIVE-GYM -At Your Home-』、「HOME」のリモートセッション、さらには無観客配信ライブ『B'z SHOWCASE 2020 -5 ERAS 8820-』を開催すると、2021年には遂にサブスクを解禁。そして象徴的だったのが『B'z presents UNITE #01 』の開催だ。『サマーソニック』や『ロックインジャパン』といったフェスへの出演はあっても、こうして自らがイベントを主催し、Mr.ChildrenとGLAYというJ-POPのトップランナーと共演することはこれまでにはなかったことである。
 
このイベントに先立つ形で公開された稲葉さんと桜井さんの対談の最後で稲葉さんは「コロナ禍で自分と向き合い、考え事をする時間が増えて、もっとミュージシャンとして広がりたい、まだ違ったことができるかなと思った。今はそういう希望というか、楽しみを持っています」と語っている。<嫌われたらしょうがない それはそれである意味前進 好きになってもかまわない 何があるか誰にもわからん>と歌う「UNITE」は、B'zがこれまでやってこなかったこと、まさに共生への宣言だった。
 
実際2020年以降は驚きの連続で(ここからB’zのお二人以外敬称略ですみません!)、松本隆トリビュート『風街に連れてって!』への参加からの「風街オデッセイ」への出演を皮切りに、昨年は矢沢永吉のライブに飛び入りし、今年は「日比谷音楽祭」に飛び入り。この背景としては「マジェスティック」のレコーディングに亀田誠治が参加したことが大きく、『風街に連れてって!』は彼のプロデュースで、「日比谷音楽祭」では実行委員長を務め、Adoへの楽曲提供で話題の「DIGNITY」も亀田が編曲とベースを担当している。日本の音楽業界で幅広い人脈を持つ彼との出会いが「共生」のきっかけになっている部分は大きく、亀田が同じくJ-POPシーンの最前線で活躍するドラマーの玉田豊夢を紹介し、「STARS」をはじめとした近年の楽曲に数多く参加しているのも特筆すべき事例だ。
 
パンデミックで海外からミュージシャンを呼ぶことができなくなったのも重なって、『FRIENDS Ⅲ』の期間で小野塚晃や坪倉唯子(GO-GO-GIRLS!)らと再会したり、河村カースケが参加したりといったことも「共生」を感じさせる嬉しいサプライズ。今にして思えば、もともと氷室京介の右腕だったYTがB'zに合流したあたりから変化の兆しが見え始め、青山純の息子である青山英樹がサポートで参加するようになったことも、近年のフレッシュな活動を象徴していたように思う(純ちゃん、どう思う?)。松本さんがBABYMETALの楽曲に参加したのに続いて、LiSAの楽曲をプロデュースした一方で、稲葉さんは凛として時雨のTKの楽曲に参加し、『SING』で初の声優を務めると、日本語吹替版の音楽プロデューサーである蔦谷好位置をソロのプロデュースに迎えたことにはかなり驚かされた(「BANTAM」かっこいい)。
 
こういった動きは長らく日本の音楽業界の中で、J-POPというシーンの中で孤高の存在だったB'zが遂に踏み出したJ-POPとの共生であり、もう少し言えば、J-POPの未来へ向けた還元のようにも映る。洋楽に憧れながらも、日本のチャートで成功することを目標に活動をスタートさせ、そのトップを走り続けてきたB'zが、デビューから35年にしてこの境地に至ったこと。それこそがこの5年で起きた最大の変化ではないだろうか。
 
 
(長くなりました。最後は一ファンのつぶやきです)
 
 
Pleasureを終えて、「本当にお疲れ様でした。まずはゆっくり休んでください」という気持ちだけど、あのお二人のことなので「え、もうですか?」という感じですぐに動き出す気がしないでもない。だとすれば、次の展開は新曲が少しずつ出ている稲葉さんのソロの本格始動だろうか。あとは2021年に開催された主催イベントのタイトルが『B'z presents UNITE #01 』だったことを思えば、『#02』を期待するなというのは無理というもの。少し前なら対バン相手はある程度限られていた気がするけど、今だったら誰が出てもおかしくない。あんな大物や、あの盟友や、こんな新顔も…………まあなんにしろ、B'zの「共生」はこれからも続いていくはず。果たしてそこにはどんな景色が待っているのか。そして、『B'z LIVE-GYM Pleasure 2028』は一体どんなことになっているのだろうか。ゴールはここじゃない。まだまだ終わりじゃない。
 
 


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